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ドキドキめもりある❤

【好き】とか【嫌い】とか、誰が始めに言い出したんだろう。


 私は、自分がそんな想いをするだなんて……思ってもみなかったんだ。




 私、渡貫卯月(わたぬきうづき)16才。憧れの綺羅綺羅(きらきら)高校にこの春入学したばかり。恋に憧れ、先輩に憧れ、新しい学校生活に期待で胸を膨らませていたの。そしたら……いたんです。私の王子様が。




 放課後、キラキラと沢山の人が頑張っている部活動。どこに入ろうか悩んでいた私が、校舎から校舎への渡り廊下を歩いていた時でした。


「危ない!」


 そんな声と共に飛んでくる一直線に私に向かって飛んでくる野球のボール。いきなり体も動かせず、それは私に直撃するはずだったんです。それが【パンッ】と乾いた音を立てて私の手前で弾け飛びました。思わず呆然として何がなんだか分からない私。そんな私の所にやって来た野球部員の人が、謝りながら教えてくれたんです。――射撃部の部長は凄い人だって!




 翌日の放課後。射撃部の部室の場所を聞いた私は早速やってきたんです。本来軽音楽部の部室だったはずの防音の屋上近くの部屋へと。


「あのーすみませんー……」


 ノックをしたら内側から開いた扉、電気がついていないその中の暗闇から、私の眉間へと赤い光が当たり、その光の元から長い筒状のものが見えたんです……。


「何しに来た」


 カタカタと震える私に銃を向けていたのが私を救ってくれた射撃部の部長だったんです。




「すまない。気が立っていた」

「いえ……いきなりやって来た私も悪かったんです」


 部長さんは何故か室内でも帽子を目深に被り、ボソボソと謝罪してくれました。昨日のボールを狙撃してくれたのも部長さんでやっぱり合っていたみたい。――そして何故か私たちは部長の謝罪ということで週末に二人で遊びに行く事になったんです。えっこれってデートじゃない!?




   *** ひとに じゅうをむけちゃいけないよ。がっこうで じゅうをうっちゃいけないよ ***




「待たせたな」

「いえ、私もさっき来たところです」


 駅前の噴水前で待ち合わせ。まるでカップルの定番会話みたいな事を話しながら遊園地へ。あれ……やっぱりこれってデート!? ――改めてそう思ったら急にドキドキしてきました。部長……先輩はどう思っているんだろう。




 私たちはいっぱい遊びました。ジェットコースターで更に無表情になる先輩。メリーゴーランドで馬をけしかける先輩。

 ゴーカートでマシンの出力を越えた速度を出して光になる先輩。――楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。




「ソフトクリームは美味いな」


 先輩は甘い物が大好きみたい。甘い美味いと素晴らしい食べっぷり。お水を貰って来ようと、私が立ち上がった時でした。ドンッと衝撃があったと思うと目の前には大柄な影。


「痛ぇなぁ嬢ちゃん」


――うわぁ、絵に書いたような不良さんが私の前にいました。そしてそれにぶつかってしまったようなんです。え、どうしよう。


「あの……すいません」


 すまんで済んだら警察は要らないと騒ぎ始めた不良さんを、私の前に音も無く出てきた先輩が止めました。


「ツレが失礼した」


 あれで落とし前をつけよう。そういって先輩が親指をクイッとやって差した先にあるのは射的のコーナーでした。




「いいか弾は6発。獲物の数で決めるぞ」

「おうよ」


 何故か二人はノリノリで射的大会に。私はそんな展開に追い付けません。先輩が手前の大きなゲーム機を狙うといきなり棚から落下させました。――先制点! 悲鳴を上げる店主さん。つられて慌てて不良さんが撃った弾は、キャラメルに当たりましたが、弾ははじかれていました。


「何故だ! さっきのおめぇさんのやつはあんなにも簡単に!」

「簡単なことだ。真っすぐに芯を貫くのだ。それが……漢というものじゃないか」


 不良さんはハッとしたような顔をしながら、それでも一生懸命に狙っていきましたが、先輩の敵ではありませんでした。その後も、等身大のテディベアに、モデルガンの狙撃銃。更には18金のネックレスまで手に入れた先輩の圧倒的勝利です。店主さんはもうおしまいだと天を仰いでいたのが印象的でした。


「これでも食べるといい」


 そう言って、倒れ伏していた不良さんにキャラメルをあげる先輩。その優しさは不良さんの目からひと筋の涙を生み出したのでした。


 ちなみに、私達が店を後にする時に「重量を無視して打ちやがった! やつは化け物か!?」という叫びが、なにやら聞こえていました。




「先輩凄いんですね。かっこよかったです」 


 先輩がくれたテディベアを抱えながら花火を見る私と先輩。凄くいい雰囲気です。これは……なんか、そういうのを期待しちゃう気配でしょうか。でも、先輩と私はまだ出会って日も浅いし、そもそも先輩が私のことをどう思っているか分からないし……。そんなことを考えて一人顔を赤らめていたら、先輩がいきなり真芯に攻撃してきました。


「スコープ越しに初めて見た時から、君にロックオンだった」


 私を遮って、熱い瞳で見つめる先輩。それを聞いて、私は……私は、胸まで貫かれて自分の気持ちを伝えるのでした。




   **********




「はーい、カット~!」

「お疲れ様でーす!」


 という声が辺りに響く中【僕】はスカートで剥き出しになった膝から、ゆっくりと崩れ落ちた。


――どうしてこうなった! どうしてこうなった!!


 スナコさんがデートをしようなんて自分から言い出したから、期待して出かけて行ったらこの有り様だよ! 何で撮影なんだ! 何の撮影なんだー!? 何で僕がスカートを履いて、スナコさんが学生服なんだ! スナコさんやたらと似合ってたけどさ!


「いゃ~スナコ君。今日連れてきた彼。いい芝居するね」


 監督が褒めているのを「だろう?」と満更でもない顔で受けているスナコさん。周囲ですごい速さでコャコャと鳴きながら機材を片付けて、撤収していくスタッフ達。――鳴き声だよね!? それ!

 そんな中、僕だけはただただ地面に向かって嘆きの声を上げるのだった。


――どうしてーこうーなったーぁぁぁぁああ!


 スカートが……妙に寒く風になびいていた。

挿絵(By みてみん)

配給:【世紀末ふぉっくす】で、この春公開予定?

【ドキドキめもりある~銃と消炎と油揚げ~】


なお、射撃のシーンでは、一切のやらせは無かったとのことで、店主は本当に景品をスナコ氏に根こそぎ持っていかれたとのことです。

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