【MKS FOX EATER】 僕らの油揚げ戦争 -後編-
「スナコ! ハッキング成功よ。――メタルコャ。油揚げ搭載四足歩行型重戦車。尻尾型のレールガンから油揚げを高速で射出する事によって、好きな場所に油揚げを届ける事が出来る。つまり世界の貿易バランスを崩すトンデモ兵器よ! スナコ! ちゃんとダーリンを守るのよ!」
「んっ……そこじゃない……。もっと……下だ」
「ごめん。ここだね」
「あぁ……んっ! そうだそこに真っ直ぐ入れてくれ」
「スナコさん。僕……、もう限界だよ……」
「大丈夫、後は私に任せろ」
カチャリと手錠の鍵が開く。さっき牢屋の中に招き入れた兵から手に入れた鍵を使って、二人で体をくねらせながらようやく手錠を外す事が出来た。――思った以上に動けなくて苦労したよ。
「しかし、何でわざわざケチャップを食事に付けてくれるんだろうね」
「あの油揚げにはそれ位必要だろう」
ケチャップを血糊代わりにして、見張りを騙したんだけどそのスナコさんの言葉に思わず僕は納得する。行くぞと牢屋の鍵をこじ開けたスナコさんの後を僕も追った。
***【僕の彼女はチベットスナギツネ】は健全なお話です***
あの時、僕らの目の前に現れたメタルコャ。その圧倒的な火力に僕たちは成す術も無く捕らえられてしまった。装甲も分厚すぎて手持ちの武器では全然歯が立たなかった。
牢屋を出て直ぐの事務所で丁寧に保管されていた荷物や武器を回収する。しかし、これじゃメタルコャを倒すには足りない。それこそ戦車でも持って行かないとメタルコャには勝てない気がする。と、通信が入った。
「……無事に牢屋からは出られた様だな。こちらでモニター出来る様になった。とりあえず新たな情報だ。キタ頼む」
「はいはい。メタルコャを製作した博士がどうやらその施設のどこかにいるらしいんだ。彼に聞けば、きっと弱点も分かるんじゃないかな」
――流石に、自分で作った兵器の弱点を教えてくれる人はいないと思うんだけどなぁ。
「あ、ちなみに幽閉されてるみたいだから、脱出を手助けすると言えば大丈夫だと思うよ……OVER」
製作者なのに幽閉されてるとか流石【ア・ブラーゲギャング】クォリティ。ともかく僕達の目的は決まった。施設内をまた巡らないと……。
「あなたが、博士か」
あちこちを探しまわって、戻ってきてみたら牢屋の横の会議室で軟禁されていた博士。――灯台下暗し過ぎるよ! なんてこったい。
脱出の手伝いをと言いかけた時点でもう勝手にメタルコャの情報を凄まじい勢いで喋り始める博士。食事があの美味しくない油揚げだけしか無いらしく、精神的に消耗しきっているらしい。スナコさんが余っていたレーションを上げたらむせび泣いていた。――どれだけ恐ろしい油揚げなんだろう。
ともかく博士の情報によると、足の爪の間の装甲が強度の問題で比較的弱く、そこを攻撃出来れば移動が出来なくなる。その上で、コクピットのガラスを外してパイロットに攻撃をすればいいとの事だった。
「いい性能の爆弾も必要だな」
そう呟くスナコさんに、博士が爆薬庫の情報まで提供してくれる。――ねぇ! どれだけみんなここの油揚げがトラウマになってるの!?
「善は急げだ」
僕らは段ボールをかぶると、いそいそと移動開始した。――しかしなんで段ボールは万能なまでにバレないの!?
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「また性懲りもなくやってきたスナギツネどもめぇぇ。このメタルコャの攻撃に、何度だって恐れおののいて、地獄で詫び続けるダギャー!」
わざわざスピーカーで拡大・拡散される油揚げギャングの声は本気でやかましい。スナコさんが青筋立ててるけど、今はとにかく勝たなければ。手はず通りに僕の必殺技が頼りになる作戦で行く。
「カビの生えたパン程度で調子に乗らないことだ」
スナコさんが挑発しながらあれから拾った数々の武器を使って撃ちまくる。もちろん全部ダメージにはならないけれど、壁に跳ね返った弾が照明に当たり広い室内がどんどん暗くなっていく。――さぁメタルコャがスナコさんを狙っている間に僕の出番だ。実はメタルコャの弱点でもある足は未完成な部分でもあり、あんまり細かく丁寧には動けないらしい。
――そこに……僕が……爆弾をしかけるのだ……。
「行くぞ秘技【存在感ステルス!】」
僕は迂回しながら適当にメタルコャに向かって歩く。しかし、攻撃もされない。
――うん、僕の存在感って何だろう……。
そして易々とメタルコャの足元にたどり着くと、足首に粘土状のプラスチック爆弾をしかけていく。簡単過ぎて違和感しか無い。たまに足も動くのだけど、公園の遊具みたいな速度だ。――スナコさんの動きに普段から慣らされている僕にはあくびが出そうなレベルだ。
そして、僕は設置が終わった事を無線で伝える為に起動。すると……。
「はーいもしもしースナコちゃ~ん。パパですよぉー。スナコちゃんからパパに連絡くれるなんて、パパ感激だよぉ!」
慌てて無線を切る。今のは何だったんだろうか。僕は聞かなかった事にする。そして再度無線を開くとスナコさんに用意が出来た旨を伝えその場を離れる。僕の様子を見ながら銃を撃っていたスナコさんは、空中で背中側に反り返りながら回転というありえないレベルの動きをすると高台に降り立つ。
「喰らうがいい、貴様のその曲がった鼻で」
スナコさんが手に持ったリモコンのボタンを押すと、辺りには轟音が鳴り響き、足から崩れるメタルコャ。その衝撃でコクピットのカバーが勝手に開く。――今だ!
「何が起こったんダギャァァアア!?」
速やかに僕はコクピットに走ると、一番初めに渡されていた【禁断の兵器】の外側に突き出ていたピンを外してコクピットへと投げ入れる。そして今度こそ死に物狂いで壁際まで全速力で走って逃げる。
――5、4、3、2、1……軽い爆発音、そして絶叫。
「この臭いは……シュールすとれ…」
その声を最後にメタルコャは完全に沈黙した。かすかに香った風は、食べ物が腐ったような発酵したようなとんでもない匂いだった。――なんという恐ろしい兵器なんだ!
**********
「終わったわね」
「虚しい……戦いだったよ」
戦いは何も生まない……とか無駄に言いたくなる位、酷い戦いだった……。ボスが倒れた事により、あっという間に社員一同は降参した。泣いている人までいると思ったら、もうあの油揚げを食べなくてもいいんだと喜びで泣いている。嬉し泣きだった。――どれだけカリスマも何もない会社なんだろう。
輸送ヘリが飛んできてメタルコャを運んでいった。チベットで直すとか言ってるけど、何だか色々とまずい気がする。ちなみにその時に乗っていたスナコパパの声は威厳に満ちていたから、僕が無線で聞いたのは別人だったと思いたい。
「さぁ、工場の仕様を変更して油揚げパーティーとしゃれ込もうか」
「いいわね、今回バックアップ頑張ったんだから。あ、ダーリン本当お疲れ様! 凄い技だったわよ!」
バックアップのみんなも輸送ヘリで一緒に飛んできていて、僕にねぎらいの言葉をかけてくれる。――なんだろう全く嬉しくない。
「ヤジさん、あの技はまさに秘技だね。僕にも真似できないよ」
「見事だったわ。やはり私の見込みは間違い無かった」
僕のテンションと反比例する様に盛り上がる狐たち。夕陽が、その真っ赤な太陽が僕の横顔を静かに照らしていた。
シュールストレミング
塩漬けのニシンの缶詰。
国連番号3334 航空規制液体
内部で発酵が進み続けている為、もはや小型のガス爆弾のようになっており、これを開けた瞬間に付近の犬が一斉に鳴き始めた。その場にいなかったのに、帰宅したら犬が怯えた。猫が逃げた。涙が止まらない等の臭気があるという。
なお、鼻がよくきく狐に、ブチ当てた場合、結果は目も当てられないものである事は、想像に難くない。
世紀末フォックス報道部 あるおきつねの手記より抜粋。




