129.魔女様、聖域草と温泉を組み合わせてヤバい実験を行います。『私も実験に参加する!』と言われても、もう遅い! 魔女様の分は安全なものにすり替えさせていただきます
「魔女様、ここですじゃ」
これはメテオが出発した当日のこと、私達はダンジョンの近くの聖域草の群生地に来ていた。
本当に一面の花畑で、黄金色の花が咲き誇っている。
香りが強すぎるぐらいで、ちょっとくしゃみをしそうになる。
私達は聖域草がどれぐらいの規模になるのかを探索することにしたのだ。
「ユオ様、みんなもこっちに来てくれぇい!」
今日は素材の扱いに詳しいドレスに来てもらっている。
彼女は花畑を囲む崖の方で何かを発見したらしく、大きな声を上げる。
「これって?」
ドレスが発見したものは泉だった。
崖から水がしみ出していて、キラキラと輝く泉ができている。
その泉は湯気をあげていた。
あれれ、この光景はどこかで見たことがある気がする……。
「……温泉じゃん、これ」
そう、デジャブでもなんでもなく、目の前にあったのは温泉だった。
どういうわけかわからないけど、ホカホカの温泉がここに湧き出しているのだ。
「おぉ、村にあるのと同じ種類の温泉ですのぉ。温度も同じぐらいですぞ」
村長さんはそういうと、お湯をすくって味見をする。
どうやらそれで温泉の種類を判別したようだ。
「ふぉふぉふぉ、最近では温泉の新鮮な水を飲むのが流行ってましてのぉ。おかげで怪我も一晩で治りますぞ。村の年寄りは朝イチはみんなこれですぞ」
そう言うと村長さんは、さらにごくごくとお湯を飲む。
ふむふむ、飲む温泉かぁ。
これはこれでビジネスチャンスかもしれない。
怪我が速攻で治るのは村長さんだけだと思うけど。
それにしても、私が温めた温泉がここまで伸びてきているってことなのかしら?
「ユオ様、この温泉が聖域草の大繁殖に関係があるかも知れないぜ。こっちをみてくださいや」
ドレスは温泉水が溢れ出して、小川をつくっているところを熱心に見て回っている。
彼女が言うには、この草原は温泉水がまんべんなく行き渡る地形になっているとのこと。
温泉の水なんかかぶったら枯れちゃいそうなのに、不思議なこともあるものだ。
「ご主人さま、これはすごいことではありませんか? 聖域草を増やせるってことかもしれません」
ララは口元に手を当てて、それ以降、黙り込んでしまう。
その気持は十分にわかる。
これはなかなかの大発見なのだ。
もしも温泉が聖域草の生育を促進させるのなら、すごいことになる。
つまり、聖域草を人間が栽培ができるとうことだ。
これは継続的に大きな利益をもたらすだろう。
そうなれば平民だって手の出せる値段になるのも夢じゃない。
私達はこの幸運にハイタッチをして喜ぶのだった。
しかし、トラブルというのは突然、やってくる。
「ふぐぐぐ……!?」
村長さんは突然苦しみだすと、胸の辺りを押さえてうずくまる。
「おじいちゃん!?」
ハンナはあわてて駆け寄って背中をさする。
しかし、村長さんの顔は真っ赤で呼吸さえ苦しそうだ。
温泉の水を不用意に飲んだからなのか、理由はよくわからない。
救護したいけれど、ここには回復魔法の使えるリリはいない。
どうしよう、シュガーショックもいないし、早く村まで連れて行かないと!!?
「うぐぉおおおおお!」
それはまるで獣の雄叫びだった。
出どころは村長さん、その人だ。
あまりの苦しさのためか、村長さんはのたうち回り、どういうわけか空高くジャンプする。
さらには太陽を背負って、丁の字のシルエットを作る。
さすがは剣聖、苦しみ方さえダイナミック!?
ずぅうんっと着地した村長さん!
そして、彼は事も無げにこんなことを言うのだった。
「ふむ、痛みが引いたぞい?」
「ええええ!?」
私が驚いたのは痛みが引いたことが理由じゃない。
村長さんの服がびりびりに破けているのだ。
特に上半身の服はほぼ完全にさけている。
破けた理由は単純明快。
筋肉がものすごいことになっているのだ。
なんていうか、膨らみすぎてない?
村のハンターさんには体格のいい人が多いけれど、そういう問題じゃない。
服が筋肉の圧力で破けるなんてどうなってんの?
「ワガママに膨らんだみたいじゃのぉ。聖域草を温泉の水に入れて食べたのが効いたのかのぉ。菓子代わりだったんじゃが」
村長さんはのんびりした口調で首をかしげる。
いやいやいや、そんなことある!?
ワガママっていう次元じゃないぐらいのボディに仕上がってるんだけど!?
「ふふふ、おじいちゃんってそそっかしいから! 肩にちっちゃいアイアンアーマーがのってるみたいですよ!」
ハンナはいつもの調子でにこやかな表情に戻る。
さっきまでもう死ぬとさえ思えたのに、なんなのこれ!?
「……ユオ様、これってすごい発見しかも知れないぜ?」
「……だね。温泉と聖域草を組み合わせると肉体が破裂する?」
「いえ、そうだけど、そうじゃなくてですね……」
「な、なるほど!」
ドレスは私にごにょごひょと耳打ちし、私はやっと状況を理解する。
この聖域草は温泉の水と組み合わせることで、効果をもっと引き出せるかもしれないということだ。
「育てるにも温泉が有効で、効果を引き出すのも温泉が有効ってことですね。ご主人さま、これで世界制覇できますよ!? 今からでも独立宣言しましょう!」
ララはあいも変わらずベクトルの違う興奮を見せる。
だけど、その言葉の前半は正しい。
ひょっとしたら、温泉と組み合わせることで、少量の聖域草でも効果を発揮するかもしれないのだ。
そうなれば聖域草という限りある資源を有効に使えるということだよね!
「よぉし、ユオ様! あっしは燃えてきたぜ! 野郎どもと一緒に研究に励みますわ!」
私達は大急ぎで村に戻り、聖域草の効能を引き出す仕事を始めることにした。
◇
「ふぐぉおおおお!?」
「ひえぇえええ!?」
「おおぉおっなのだ!!?」
数日間の試行錯誤はそれはもう大変なものだった。
村長さんを始めとした村人の筋肉は何回もワガママになる。
ララやクレイモアはさらに色っぽいボディになる。
ハンナは金色の髪の毛が逆立ち、例の「魔」の服を着て元気いっぱいに走り回る。
ドレスを始めとしたドワーフの皆さんは「3日寝ないでも案外大丈夫、むしろ寝られない」などと、不穏なことを言い出す。
スキンヘッドのハンスさんは髪の毛が生えてきて、モヒカン刈りみたいになった。……とても喜んだ。
とにかく、である。
聖域草と温泉の組み合わせは、人体にプラスの影響を与えるということがわかったのだ。
そして、多くの場合、体が頑丈になったり、セクシーになったりしていた。
こうなれば、私だって黙ってはいられない。
皆が頑張っているのに、自分だけ安全な場所にいて、なにが領主だろうか!
苦しみを共有してこそ、リーダーだよね!
「ユオ様、お供します! 私もこの村に心臓を捧げた身ですよ!」
私の真意を理解したのか、リリが真剣な表情で駆け寄ってくる。
そう、彼女も命がけでこの実験に参加するというのだ。
ふふふ、これで私達のボディも多少、わがままになってくれるよね!?
いや別に自分のために実験に参加するってわけじゃないんだからねっ!?
全てはザスーラで苦しんでいる人々のため!
そして、世界のためだよっ!
「ご主人さまだけはダメです! 世界に万が一のことがあったら危険です」
「そうですよ! 魔女様が錯乱して大陸を破滅させたらどうするんですか!」
「リリ様の髪の毛が逆立ったり、巨大化したりしたら、お父上に怒られるのだ」
それなのにララたちは私達を無理やり止めに来る。
くぅっ、クレイモアのくせに正論言うなんてさぁ。
ワガママなボディになれるっていうんなら、髪の毛ぐらい逆立ったっていいのに。
あとでこっそり飲むぞと密かに決意する私なのだった。
とまぁ、村人たちの尊い犠牲の結果、私達はついに開発に成功する。
聖域草の最適な調合法を!
「ひぃひぃ、やったぜ、これで寝れる……」
ドレスたちの涙ぐましい試行錯誤の末、丸薬として量産することができるようになったのだ。
余談だけど、これにはあの炎の精霊、『燃えキチ』、も大きく貢献してくれた。偉い。
よぉし、これでメテオが戻ってきたら、ザスーラにばんばん売りに行くよっ!
温泉に浸かりながら、私は英気を養うのだった。
「ま、魔女様! お姉ちゃんが捕まってしまいましたぁああああ」
と思ったら、これだよ!
【魔女様の手に入れたもの】
聖域草の群生地:幻の薬草である聖域草が魔女様の温泉によって繁殖してしまったもの。温泉の成分・温度・魔女様の熱など、もろもろの条件がピタリと合致し、もっさもさと生えている。
聖域草と温泉成分の丸薬:村人たちの犠牲を通じてできあがった、聖域草の成分と温泉成分を絶妙に配分させた薬剤。成分に偏りがあると、筋肉が異様に膨張し、髪の毛が逆立ち、性格もより戦闘的になるなど、関係各位に大変なことになる。ちなみに魔女様がこっそり使ってみたところ、髪の毛が多少直立したのみであった。こんなのじゃない。誰も死なない。
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「これは清く正しい人体実験!」
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