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黄金鈴:第五話 足りないのはおそらくガッツ

 中間テストもどうにか乗り越えたある日、俺は鈴に呼び出された。

 もしかして、誰かにばれたのだろうか? でも、それなら住良木先生とそのチームが動いているだろう。あっという間に記憶操作しているはずだ。

 どうやら滅茶苦茶な機械か催眠術でも使っているようで運動会の時にちょっかいを出そうとしていた男子生徒二人組は『黄金さん? 彼女はとてもいい人間ですヨ』と言うだけだ。

 ちなみに、鈴、黄金、というワードが耳に入ると自動的にそんな言葉を言うようになっているらしい。一体何をされたんだか。

 野球部部室前で俺に手を振る鈴に合流する。

「一体、どうしたんだ?」

「実は根性会についてお願いがあるんです」

 いたって内容が普通そうで良かったよ。

 いや、待て。

「……根性会?」

 聞いたことも無い名前だった。

 夏場にみんなでどてらを着こみ、根性じゃーと言いながら鍋焼きうどんを囲む行事だろうか。

 うーん、これは……我慢大会だよなぁ。

「根性会についてはわたしから説明させていただきます」

 住良木先生が窓から入ってきた。扉から入ってくればいいのにな。天井板を外し、女性が二人控えているし。

「今日から野球部の顧問につきました」

「前の真柴先生はどうなったんでしょうか」

「あの人は他の学園に転勤になりましたよ」

 それがあの人にとっては幸せなんだろうな。ゴキブリの死体を見ただけで卒倒するような人だから……。

「それで、根性会って一体何なんですか?」

「根性会とは運動部系が中心になって企画したものです。自分達はこれほど根性があるんだぞと、発表をします」

「全校生徒の前でやるんですか?」

 正直、恥ずかしいと思う。

「いいえ、あくまで運動部中心です。参加した部の前で行われます。去年は根性! と叫びながら組み体操をした文化運動部が優勝しました」

 色々突っ込みたいところがある。文化運動部って何だろうか。

 でも、アホらしい事をしていたほうが後の思い出になるのかなぁ。

 ああ、あの頃は馬鹿な事をやって過ごしたな、って。

「……重たいものを持ち続けたりするのって根性、ありますよね」

 これまで黙っていた鈴が一大決心をした表情でそんな事を言った。

「鈴、お前は辞めたほうがいいんじゃないのか? 腕、取れると思うぞ」

 重たいものを持とうとして腕が取れて転倒し、首が転がるところまでは想像出来た。そして、それを見た観客が根性でその場に居続ける結果に……。

「確かに、とれちゃったら意味無いですね……」

 反対意見を出したからには何か俺も案を出したほうがいいだろうなぁ。

「住良木先生、去年の野球部は一体どんな事をしたんですか?」

「去年はマネージャーの『根性です!』と言う言葉を聞きながら顧問からの竹刀攻撃を受け続けていますね。ちなみに、三発で根をあげてます」

 内容はともかく、野球部根性なさすぎだろ。顧問も絶対に手加減していたはずだ。ちょっとしか見たことないが、真柴先生はどう見ても文化系の教師だった気がするし。

「しかし、竹刀で叩くのか……鈴はどう思う?」

「それ、やりましょう」

「わかりました」

「え、おい、でも野球部員……居ないだろ」

 いまだに部員はいない。いるのはマネージャーだけだ。

 あれから、野球部には誰も入部していない。元から弱小だったのもあるし、入ろうとしても誰かが邪魔をしているようだ。

 俺が野球部を立てなおしてやる! と意気込んでいた男子生徒が次の日、『二次元彼女愛好倶楽部』のホープとして入部してたからな。

 マネージャー一人……さて、鈴はどうするつもりかね。

「あの! 一人ならすぐに準備できます!」

 そういって鈴は力を入れ始めた。すると、中心に亀裂が入って真っ二つになった。

 想像、出来るだろうか? 本当に真ん中から真っ二つ……。

「待て、早まるな」

「お嬢様、落ちついてください」

 住良木先生と一緒に左右をくっつける。まさか、縦に真っ二つも出来るとはな。

「そんなことしなくても此処にいるだろ?」

「住良木、ですか? 住良木は教師ですし」

 鈴の言葉に住良木先生は笑っていた。

「お嬢様、白取君がやってくれるそうですよ」

「え?」

「……そう言う事だ」

「ありがとうございます!」

 手放しで喜んじゃって、まぁ……仕方がないか。変な事をさせて俺がもやもやするより絶対にまともだ。

 女の子も根性はいるとは思う。でも、鈴の根性はもう見せてもらった。おそらく、今晩あたり夢に出てくるはずだ。

 鈴は嬉しそうな笑顔で何やら考え込んでいる。

「叩くのは誰にお願いしましょうか」

「わたしが担当しましょう。お嬢様に白取君を叩かせるわけにもいきませんからね」

「そうですね、そうしましょう。住良木、お願いします」

「お任せください。きっちり、叩かせていただきます」

「……不安だ」

 俺、足腰立たなくなるんじゃないか。

「大丈夫ですよ、白取君」

 俺の不安を払しょくするように住良木先生は笑ってくれた。

「よかった、先生に叩かれたら俺は確実に駄目になりますからね。いやー、手加減してくれるなんて本当、よかった」

 八百長だろうが、しょうがないだろう。何せ、住良木先生は手加減していても普通の人間ならサンドバックにしてしまうような教師なのだ。

「あれ? 手加減されても俺って助かりませんか?」

「手加減? 何の話をしているんですか?」

「え、じゃあさっきの安心させるような言葉は一体どういうつもりで言ったんですかね」

「ああ、あれは……あっちの趣味が目覚めてもしっかりと責任をとりますって意味ですよ。」

「…」

 にこりと笑う住良木先生に、それなら大丈夫ですねと笑っている鈴の二人組。

「鈴に叩かれた方がまだいいかもしれないな」

「では、一度やってみますね」

 鈴はバットを持ってきて俺を叩いた。

「おっとっと……」

「こりゃ、駄目だな」

 俺を叩いた拍子に両腕が取れてしまう。それを抱きとめ、俺はため息をついた。

「やっぱり、叩き手は住良木先生なのか」

「ふふ、血が騒ぎますね」

 何の血が騒ぐのだろうか……そこはかとなく不安な俺は鈴の両腕をつけてやった。

「一度ぐらいは練習で受けたほうがよさそうだ」

「それは駄目ですよ」

 バットを持った鈴が首を振った。

「駄目?」

「はい。根性会ではぶっつけ本番がルールだそうです。そこで、根性を計測するそうですよ」

 根性の計測って……一体、どうするんだよ。そもそも、根性の単位って存在するのか?

「頑張ってくださいね、白取先輩!」

「あ、ああ……」

 部室から出てバットを素振りする教師を見やる。

 心の底から、辞退したいと思った。

「あんなに嬉しそうな住良木、久しぶりに見ます。これも白取先輩のおかげです!」

 やっぱりやめたいという言葉は鈴の笑顔によって封殺されてしまう。

 こりゃあ、覚悟を決めねばなるまい。


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