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群青藍:第八話 √教師?

 群青先輩を追いかけた次の週の火曜日、本人から呼び出された。

 尾行がばれたのではないかと戦々恐々していたのだが、穏やかな笑みを浮かべていたのでほっと胸をなでおろす。

 明日から夏休みだし、次に会えるのは二学期か。

「これわたしの電話番号と、アドレス。登録しておいて」

「えーと…いいんですか?」

「ええ、何か困った事があったら連絡してね」

 単純に嬉しかったので素早くケータイに打ちこんでおいた。

「この前の日曜日は御苦労さま」

「え?」

「尾行の相棒が悪かったわね。わたしでもすぐに気づけたわ」

 やっぱり、ばれていたようだ。

「すみません。えーと、最初は先輩と会わないようにしようとしていたんですけど、街で先輩を見かけちゃって……先輩の後をつけていれば会わないって思ったんですよ」

 今考えれば浅はかなもんだ。どう考えてもいいわけを言っているようにしか聞こえない内容だ。

「でも群青先輩ってやっぱり……魔法使いなんですね。空き缶、消しちゃいましたよ」

 実際に見なければ信じない内容だろう。人によっては『トリックだ!』と叫ぶかもしれない。

「魔法使いかどうかは……わからないわ。わたしが何かをしていると言うよりも、誰かがわたしを守っていると言ったほうがまだ納得できるもの」

 この件については良くわからないから質問はやめてほしいと言われた。

 誰にだって触れられたくない事はあるからな。俺の部屋にだって年齢制限のかけられた本がいくつかある。

「わたしのことより、冬治君のことね。ちょっと変な未来が見えたの」

「変な未来?」

 一週間後、すっぽんぽんで街を駆け巡るとでも言うのだろうか。

「……数学教師の四季萌子先生と駆け落ちする未来……それだけが見えたの」

 予想の斜め上を行く未来を俺は歩いていたらしい。

「嘘、いつですか」

「花火大会」

「マジ…みたいですね」

 群青先輩が嘘を言うわけあるまい。

 四季萌子先生が別にいやというわけではない。童顔で歳より結構幼く見えるし、ちょっと怒りっぽいところはあるものの、頼りになる先生だ。

 生徒に人気だからか、それとも可愛いからか……周りの先生から『生き遅れ』といじめられたりするそうだ。

 さすがに教師と先生はまずいだろう。向こうはともかく、こっちはそれだけの勇気とか覚悟が無い。

「一体俺はどうすれば……あ、そうか」

「何かいい案があるの?」

「群青先輩、花火大会一緒に俺と行ってください!」

 言って気付いた。

 群青先輩をデートに誘ったようなものだ。群青先輩と仲良くしていれば四季先生とくっつくこともない……これって意外といい未来回避方法ではないだろか。

「わたしでいいなら構わないわよ」

 そして、あまり間をあけずに先輩も頷いてくれたのだった。

「やった!」

 あまりに嬉しくて一回ジャンプしてしまう。

「でもね、冬治君」

「何でしょう?」

「あくまで四季先生と駆け落ちするのが見えた未来なのよ。原因を取り除くのも一つの手だわ」

「原因?」

「とりあえず四季先生のところに向かえばわかると思うの。どれが起爆スイッチなのかわからないからね」

「なるほど。こちらから責めると言うわけですか」

「そうね」

 二人で職員室へと向かう。夏休みが近いとはいえ、教師はやっぱり忙しいらしい。

「四季先生はいらっしゃいますか」

 群青先輩がそう言って呼んできてくれる。三十路とは思えない(見た目が若い)先生がやってきた。

「あら、群青さんに白取君どうしたの?」

 他の先生の時は油断せずに話を聞いているが、四季先生の前では眠ったりするので名前を覚えられてしまっている。

 俺が目の前の先生と駆け落ち……そんな未来は考えられない。

「放課後にお時間頂けませんか」

「時間? どのくらい?」

「五分程度です」

「それなら今大丈夫よ。未来を見てくれるの? でも、私は教えてほしくはないわ」

 群青先輩はその言葉に頷いた。

「わたし達が四季先生の未来を知りたいんです」

 その言葉に四季先生が泣きそうになった。

「せ、生徒に心配されるほど……わたし、大変な状況なのかしら。そういえばこの前も飲み友達のさっちょんが結婚したし……生き遅れって言われているし」

 群青先輩はこれ以上話を聞くつもりはないらしい。真剣な表情で四季先生を見ている。

「……ふぅ」

「……どうですか」

「二日後、四季先生にお見合い話が持ち上がるわ」

「本当!?」

 俺より先に群青先輩に飛びついた。この未来は見えていなかったのか、それとも先だけ見ていた為か……群青先輩の驚いた表情を初めて見る事が出来た。ラッキーだ。

「未来を聞くつもりはなかったのでは?」

「教えて頂戴!」

「詳しくは何とも……」

「せめて、相手は年上だったかどうか教えて!」

「年上です」

「終わった……」

 よろけそうになった四季先生を支える。

「だ、大丈夫ですか?」

「……駄目よ、冬治君」

 ちょっと乱暴に俺の手から四季先生を離し、先生と俺の間に割り込んでくる。

「この場はわたしが何とかするから貴方は先に屋上に行って」

「え、でも……」

 先輩だけに任せるのも何だか気がひけるんですが……。

「早く行きなさい」

「は、はい」

 有無を言わせぬ群青先輩の態度に俺はびっくりしながら屋上へと向かうのだった。先輩って怒ると恐いんだな。

 三十分後、群青先輩が屋上にやってきた。

 まだ怒ってるんじゃないかとおどおどしていると笑いかけてくれる。

「さっきは睨んでごめんなさい」

「あ、いえ…事情が、あったんですよね?」

 俺の知っている群青先輩は感情に流されることはない…と、思う。

「……駆け落ちになる原因はさっきのあれね。支えてくれた冬治君を見て淡い恋に落ちるの。それからはもう、瞬く間に二人の距離が旧接近するみたい」

「でも駆け落ちって二人の合意があってするものじゃないんですか?」

「今晩、冬治君の家にご両親はいないわ。どうやらそこに四季先生がやってきて何かあったみたい」

 何かあった、というよりヤったのだろう。それで、責任をとる羽目に……。

「今俺の未来を見ることはできますか」

「見ることはできると思う…結果も変わってる筈。でも、結果を直接知るほうがわたしはどきどきするわ」

 群青先輩には悪いものの、人の未来でドキドキするとか辞めてほしい。

「あのー、俺との花火大会はどうなるんでしょう。急場しのぎのつもりだったんですけど……大丈夫ですかね?」

「ちゃんと約束したじゃないの。楽しみに待ってるわ」

 イエス!

 その場で俺が飛んだのは言うまでも無い。

「あの、ところで四季先生はどうなるんですか」

「……そっちも、多分大丈夫よ。冬治君が干渉したから変わってる」

「えっと、俺が駆け落ちすると言うのを知って、それで原因が四季先生にあると思って会いに行き……?」

「未来の事なんて、あまり深く考えない方がいいわよ」

 群青先輩はそういって笑ったのだった。


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