群青藍:第五話 とある凡ミス
今日から中間テストが始まる。
白取冬治はこれまでの成果を見せる時が来たと意気込んでいた。
誰もが英単語や数式を頭に詰め込む時間帯、群青藍がいつものようにやってくる。
「おはよう」
「おはようございます群青先輩」
そして、当然のように藍は冬治の目の前に立つ。
特別な存在だと言われていた冬治もクラスになじんでいた。他の生徒も軽く藍に挨拶したら教科書の詰め込み作業に戻る。
他の生徒からしてみたら日常は藍、非日常は冬治である。
「どうです?」
「……少し、見えたわ」
藍の言葉にクラス中が少し、ざわついた。
「あの、どんな未来なんでしょう」
「……今回のテスト、凡ミスをする」
「凡ミス……他には何かわかりましたか」
「いいえ、それだけ」
何だ、そのぐらいかと他の生徒も冬治のそれを皮切りに自分の今回の結果はどうだと聞き始める。
群青藍にも見えない未来……冬治の未来はそれだけの価値があるのではないか、そう考えられているのだ。
「テストの結果は教えないと前に言ったでしょう?」
藍にそう言われるとしぶしぶみんなは席に戻っていく。
「あの、俺だけ……いいんですかね」
「白取君は……そもそも、見えない事が多いから」
どの道、結果が分かっても未来は変えられないと言われている。
貴方は赤点を採るわと言われれば真面目に答える人はいないかもしれない。もっとも、それは藍の言う事を信じた場合に限るのだが。
「わたしの言った事を信じるのなら、凡ミスに気をつけなさい」
「……でも、群青先輩の言う事って当たるんでしょ? 未来は変えられないみたいだし」
「そうね……でも、変えようと努力すべきだとわたしは思うわ」
それは悪あがきと言うんじゃないんですかと冬治は危うく言い返しそうになる
「わたしの結果が外れたら一つ、言う事を聞いてあげようかしら」
「本当ですね?」
「ええ」
冬治の心に灯がともる。
年上の女性に『言う事を聞いてあげる』と言われればやる気を出すのは彼としては当然だ。
取らぬ狸の皮算用……冬治は早速藍に未来が外れた時のお願いをしようとした。
「せんぱ……」
「群青せんぱーい、僕の未来はどうですか?」
横からやってきた七色虹が藍に尋ねてくる。
「あなたは……七色さんね。ごめんなさい。わたしじゃ無理なの」
「そうですかぁ…」
「七色の未来も見えないんですか?」
「七色さんの未来は色々あってどれが正しいのかいまいちわからない事が多いわ。同じ時間帯であっても犬に追いかけられていたり、ハチに追いかけられていたり、車に追いかけられていたりするのよ」
結局、何かしらに追いかけられるのは確定のようだった。
それを皮きりに他のクラスメートたちも藍を取り囲んで色々と質問を始めてしまう。
「また今度でいいか」
冬治は藍の言っていた通り、凡ミスに気をつけることにした。
それがいつのテストなのかは分からない物の、常に注意していれば大丈夫だろう……初日、二時間目のテストで凡ミスを彼は発見した。
「おっと……」
名前を書いていなかったのだ。
ちょちょいと自身の名前をかいてほっと一息をつくのであった。




