群青藍:第一話 気になるあの子は青の魔女?
気になる人がいる。
気になると言っても、土器が胸々するような……こほん、胸がどきどきするような相手じゃあない。ましてやクピドにハートを撃ち抜かれたわけでもない。
その人は通称『学園の青き魔女』と呼ばれているそうな。名前は群青藍とのこと。
彼女の眼は『未来を見る事が出来る』そうだ。タロット占い、星座占い、根性占い等で未来を見るのだろうか?
恐いもの見たさ……というわけじゃないな。自分の未来が気になるわけではなく、ただ単純に未来を見る事が出来る……それが気になるので会ってみることにした。
どこに居るのかわからなかったのでクラスメートに尋ね、その場所へと行こうとすると教室の扉が勝手に開いた。
「ここって自動ドア……じゃなくて、向こうから誰かが開けたのか」
当たり前の事を呟く。当然、開いたドアの向こう側には人が立っている。
その女子生徒は俺をじっと見つめていた。
「貴方」
「は、はいっ」
見られるだけで落ち着かなくなる瞳をしていた。
「見えないわ」
「あ、すみません」
教室が見えないからどけという意味かと思えば、違ったようだ。
クラスメートたちが『群青様!』と呼んでいる。
どうやら、この人が俺の探している有名人の群青藍先輩みたいだ。
「グンジョー先輩ですか」
「グンジョーじゃなくて、群青藍よ。よろしく」
「え? あ、はい」
差し出された右手を掴もうとすると、どうやらタイムアップらしい。ひっこめられて空気をにぎにぎしてしまった。
「名前は?」
「え、あ、俺っすか? 俺は白取冬治です」
「転校生ね」
「はい。昨日からっす」
「……ふーん、何度見てもやっぱり、見えないわ」
「はぁ?」
良くわからないけど、呑まれる雰囲気。
自分の部屋に女性用の下着を被ったライオンが鎮座している。襲われるでもなく、やっべ、まずいところを見られちまった……そんな珍現象に出会ったと言えば伝わると思う。
「え? 転校生君の未来、見えないんですか?」
気付けば俺達を囲んでいた女子生徒がそんな発言をする。
「ええ、初めてだわ」
群青藍先輩はこっくりと頷いている。
「う、嘘!」
「凄い! 見た目は平凡なのに!」
「見た目は平凡とか酷い」
クラスメートたちが本人であろう、俺を押しのけてどういう事ですかと群青藍先輩をもみくちゃにしている。
「……いいなぁ、おれも女子になりたい」
「群青先輩をもみくちゃにしたい…」
「立派な胸だー」
男子クラスメートたちはその光景を汚れた視線で眺めていた。え? ぼくですか? ええ、僕も先輩方に混じって一緒に見てましたとも。
「あ、貴方……」
「は、はい」
ひとしきりもみくちゃにされた後、解放された群青先輩は再び俺のところへとやってくる。
非常に静かな口調で笑ってらっしゃる……まぁ、髪のセットが崩れてしまったのは仕方がないかな。
「保護下に入れたわ」
「保護下?」
一体何から保護してくれるんだろう。
「えーっと?」
せっかく、有名人と知り合いになれたのだからもうちょっと会話に花を咲かせてみようと思う。ああ、でもこれっきりになるだろうなぁ……。
そんな俺の心を呼んだのか優しそうに微笑んでくれる。
「安心して、こちらから定期的に会いに行くわ」
きゃーすごーい! わたしたちの未来ももっとみてください! 女子生徒からはそんな声が聞こえてくる。
そして、男子生徒達からは何であいつがあんなに優遇されるんだと怨嗟のオーラが吹き出ていた。
当の本人である俺は、頭の中が疑問符で一杯だ。
「そこ、どいてくれる?」
そういえば教室の扉を占拠していた事を忘れていた。
「え、ああ……はい。さようなら」
良くわからない人だ。
ただ一つ、わかった事は……胸が、大きかったと言う事だろう。
本人と話しても今一つわからなかった。
というわけで、近くにいた女子の先輩を捕まえて聞いてみることにする。
「群青様? とても素敵な方よ。未来を見通し、何事にも動じない方なの……え? 私と群青様の出会い? そうね……あれは一年生の頃だったわ……」
長いお話の始まりである。
授業時間になってようやく解放された。
先生に怒られ、俺は探しに行くんじゃなかったとため息をつくのであった。




