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四季美也子:第四話 ダーティーな二人

 卒業式の次の日は休みだ。

 そして、俺はお休みの日に百合先輩とがっちゃん先輩の呼び出しを受けた。場所は駅前、楽しそうな人達が待ち合わせ場所からどんどんいなくなっていった。

 約束の時間から少し遅れて、二人が現れた。どうやら、近くの喫茶店にいたらしい。

「昨日のデート、全部見てたぞ」

「え」

「へたれですの」

 集合場所に遅れてやってきた二人はグラサンをかけていた。背伸びしたような百合先輩とどこかのヒットマンみたいながっちゃん先輩にどのように反応したらいいのかわからない。

 俺の突っ込みは要らないとばかりにがっちゃん先輩はグラサンをずらして少し睨んでくる。

「告白の返事を先送りにする……百合、これが一体どのくらいしょぼい事なのか冬治に教えてやるんだ」

「ずばり、冬治ちゃんはこの立ち位置ですの」

 ボードを手にする百合先輩の可愛らしい人差し指の先には『お金を拾おうとして財布を落とす』と書かれていた。

「……どのぐらいしょぼいのか今一つ計りかねますが」

「とにかく、だ。告白を受け入れる、もしくは拒否するとしても本日中に結論を出すんだぞ?」

「そうですのっ」

「は、はぁ、わかりました……」

 わかればよろしいとばかりに頷く二人に俺は逃げる事を決意する。

 勿論、お伺いを立てる必要はあるが……。

「そろそろ行ってもいいですかね?」

「それは駄目だ」

「え?」

「冬治ちゃんにはこれから普段美也子ちゃんのことをどう思っているのか聞くつもりでいますの」

 そう言われてもなぁ……と、ちょっとだけ思って考えなおす。

 返事はまた今度、なんて言ったけれどキスに浮かれて昨日はそれどころじゃなかったりする。

「美也子ちゃんの事をどう思ってますの?」

「え、えーと、真面目で、スタイルが良くて、頼りになる先輩?」

「がっちゃんと比べて頼りになる先輩ですの? たとえば、不良に囲まれているとき美也子ちゃんとがっちゃんのどっちに助けを求めますの?」

 どう見ても体力的にがっちゃん先輩の方が頼りになるだろう。

「そりゃあ、勿論がっちゃん先輩に決まっているじゃないですか」

「だよなぁ」

 少しばかり恐い顔で俺を見ていたがっちゃん先輩を選ぶしかない。仮想の不良をぶっとばすよりも、この人は俺をぶっ飛ばす恐れがある。

「それはなぜですの?」

「だって、美也子先輩が殴られたりしたらそれこそ大事ですよ」

「……おい、それは裏返すとおれなら別にいくら殴られようと構わないってことじゃないのか?」

 胸倉を掴んで睨んでくるがっちゃん先輩に俺はへいこらするしかない。

「どうみてもがっちゃん先輩は場馴れしていますからね。美也子先輩がもし、活躍しても意外だなーって思われて終わりですけれどがっちゃん先輩ならさすががっちゃん先輩って周りの人も思いますよ!」

「……ま、そうだな。そうだろう。美也子じゃ無理だ」

 ふぅ、殴られるかと思った。

「じゃ、次の質問ですの。スタイルがいいのはわたくしと美也子ちゃん、どっちですの?」

 くねっと身体を動かした百合先輩を頭からつま先まで見る。

「……」

「そんなに見られると恥ずかしいですの」

「……ふっ」

 これで来年十九歳かぁ。

「あ、今っ、今間違いなく見下しましたのっ。冬治ちゃんっ、ぼっこぼこにしてあげますのっ」

「辞めろ百合っ。今騒ぎを起こすとまずいって! 美也子から絶交されるぞ」

 秘めたる力を見た気がする……がっちゃん先輩が息切れを起こしながら百合先輩を抑え込んでいた。

「百合先輩っ。今笑ったのは甲乙つけがたいなって思っただけですっ。確かに、スタイルは美也子先輩の方が出ているところは出てて、引っ込んでいるところは引っ込んでますっ。水着着せてもばっちり似合うと思うんですよね」

「ぶー……」

 俺の言葉に可愛らしくぶーたれる。しかし、がっちゃん先輩がもう無理だとあきらめに近い表情をしているところを見ると俺の寿命も近い。

 このままではいけないっ。

「で、でもですねっ。百合先輩の体型も俺、割と好きですよ? ぷにっとしてそうなところとか、スクール水着が似合いそうだなーって思いますもん。嘘じゃありませんよ」

 これは褒めているのだろうかと自分で思いながら百合先輩へ言ってみる。

「がっちゃん、これは褒められているんですの?」

「ああ、多分」

「じゃあ、許しますの」

 ほっと胸をなでおろす。

「おい、百合を怒らせるなよ? おれを怒らせたって加減はしてやるが……百合は加減を知らないんだぞ」

 がっちゃん先輩に小突かれて百合先輩に対して恐怖を感じる俺が一人。

 先ほどより百合先輩から距離を取ってから改めて二人を見る。

「えーと、俺はもう逃げてもいいですかね」

「駄目ですの。今逃げたら地の果てまで追いかけて逃げなきゃよかったと後悔させますの」

 先ほどよりも表情が険しい百合先輩に睨まれながら、俺は駅前で立ちつくす。

「えーっと、お二人は……その、美也子先輩が俺の事を好きだって知っていたんですか?」「聞いてたぜ」

「知ってましたの」

 そこで俺は疑問をぶつけてみることにした。

「何で俺の事を好きになったのか、知ってますか?」

 沈黙が流れた。

「……いいか、冬治」

「はい」

「そういうのは……本人に直接聞くのが筋ですのっ」

「だよな、美也子」

 唐突にがっちゃん先輩が俺の方を見てそんな事を言った。

 俺は慌てて振り返るのであった。


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