四季美也子:第一話 卒業式後
今日は羽津学園の卒業式だ。
というわけで、二年の俺たちも卒業式に出席している。部活に入っていなかったものの、個人的に三年生と交流があった。これを最後に会わなくなる先輩たちもいるんだなぁと感傷に浸っていたりする。
そこそこ感動した卒業式が終わり、俺たちは簡単な式場となった講堂を片づけてから解散となった。
校庭へ出ると泣いている先輩、笑顔の先輩、学園に残される先輩(留年決定)等、卒業式の雰囲気が流れている。
「……来年は俺の番か」
「冬治君」
しんみりとした空気に一人で浸っていると後ろから声をかけられた。
振り返ると其処に居たのは今日の主役であった羽津学園三年生……ああ、正確じゃないな。正確に言うのなら卒業生の四季美也子先輩だ。
「何だか元気ないね?」
「先輩達がいなくなっちゃいますから寂しくなりますよ」
苦笑しながら言うとどうやら冗談にとられてしまったようで先輩は首をすくめていた。
「もー、冗談言ってさ……いつからそんなに酷い後輩になったの?」
「いやいや、本当ですって……ところで、がっちゃん先輩や百合先輩はどうしたんですか?」
普段は悪質なセット販売……失礼、とても仲のいい二人の先輩と一緒にいる美也子先輩が今日は一人だった。
美也子先輩がまだ生徒会に居た頃の生徒会長である晩冬先輩の姿も無い。
「……がっちゃんと百合は先客があるからって帰っちゃった」
「じゃあ、晩冬先輩は?」
「あっちも野暮用じゃないの?」
首をかしげた。
どうでもよさそうに言うのは興味が無い表れか。ま、そんなに仲が良くなかったしなぁ。
「これから一緒に遊びに行かない?」
「俺とですか?」
「うん」
「別にいいですよ。誰か誘いましょうか? 統也と和也も呼びます?」
この二人は美也子先輩の親戚なので面識はあるだろう。一切会った事のない男子生徒を連れて来るよりもいいと思ったが、美也子先輩は首を振った。
「あー、あの二人はいい。うるさいし」
確かにうるさい。どちらかというと静かな方が好きなのだろうからあの二人は場にそぐわないだろう。
「わかりました」
「うん。さ、いこっ」
腕を引かれ、俺は美也子先輩と一緒に歩き出したのだった。
俺たち二人がまず最初に向かった先は映画館。
「ちょうど見たい映画があったの」
「へぇ、どれですか?」
「あれ」
そういって指差す先には『王道恋愛恋心』という名前の巨大ポスターが貼られていた。
最近テレビの紹介でやっていたなぁ。
確か、女性の心理描写だけで半分ある代物で、製作者側のコメントは『一切気を衒った表現はしない純愛ものである』と言ったものだった。
まぁ、つまるところ俺が見て楽しいかどうか……。男の俺には少し退屈かもしれない。
「冬治君はどうかな?」
「え?」
「恋愛もの、好き?」
「えーと……はい」
へたれな俺を笑ってほしい。
「よかった。実はチケット二枚持ってたの。はい、どうぞ」
「あ、どうも……」
今日は卒業式なのだ。そして、これは美也子先輩最後の思い出になるのである。
俺の我がままでせっかくの思い出が『卒業式の思い出は空気の読めていない後輩との遊び』として残るは寂しいし、何だか嫌だ。
「そろそろ始まるみたいだから急ご?」
「ラジャーっす」
チケット代をこれで払わなきゃいけないのなら文句を散々言っていた……という事も無いな。これが自腹だったとしても、一緒に見る相手が他の先輩たちだとしても、へいこらしていたに違いない。
それから二時間、俺たち二人は暗所で映画を見たのだった。
「いやー、想像以上に面白かったっすね。男の俺が見ていても楽しかったですよ」
高校に入って二年間、とある男子生徒の先輩を想う女子高生が主人公だった。入学式に一目ぼれし、それからやきもきしながら過ごしていたのだ。
そして、最終的に先輩へと告白し、成功したのだが……二日で別れた。
「……私はそこまで面白くなかったかな」
「あー……やっぱり、ラストが駄目でした?」
「うん。赤味噌か白味噌で別れるって信じられないよっ」
「男と女でそこら辺が違うんですかね。俺はまぁ、あるかなーって」
心なしか他の男性客も面白そうな顔をしていた。しかし、女性客は大半がラストに不満を持っていたようで『ほぅら、僕の意見が正しいんだ。赤味噌だね』『そんなわけないじゃんっ』とカップルで喧嘩している所もあったりした。
「冬治君はどっち派? 赤? 白?」
探るような視線に俺は頭をフル回転させた。
「どっちでも大丈夫です。合わせ味噌もいけますよ」
「ふーん……ま、いいや。じゃあ、次に行こうか?」
「あ、はい」
他にもまだ行く場所があるんだなぁ……そう思いながら先輩の隣に並ぶのであった。




