西牟田紗生編:第五話 良薬は飲めるもんじゃない
完成した解毒薬は液体で、人間が飲むには難しい悪臭を放っている。腐った牛乳に、冷蔵庫の下を拭いたような雑巾の匂いをミックスジュースにした……そんな感じだ。
俺たちが今いるのは学園帰りの公園で、昨日のうちに解毒薬は完成させた。まぁ、おかしなことに、物質を入れて煮込んでいたら煙があがって液体が出来たのだ。
過程はこのさい、省くとしよう。結果が大事だ、残された異臭放つ液体の処理、もとい、効果を試さないといけない。
「……うぅぅっ、うぷっ」
「だよねぇ、こうなるよねぇ」
本当に大変なのは、材料を集めることじゃないのかもしれない。
目の前で嘔吐間に苦しめられている紗生ちゃんを見て本当に思った。グラスに注がれている液体は水色に輝いている。
変わることが出来るのなら、立場を変わってあげたい。
「こ、これ、本当に解毒薬でしょうか」
「ああ、たぶん。材料はあっているし、それなりにやばいものを感じるんだ」
異質の力。この世ならざる力だ。
「やばいのは十分わかるんですけど……赤色に発光していますよ、これ」
「ははぁ、そいつはおかしいな。俺には水色に発光しているように見えるよ」
見る人によって違う色に見えるなんて斬新な解毒薬だ。
「飲まないと……ダメでしょうか?」
「この状況を打開するには飲むしかないんだけど……な、これは飲めるものじゃない気がしてならないんだ」
解毒薬って、死をもって解決するっていう事だろうか。
「やめておこう、他に方法があるかもしれない」
「でもこれ……」
「何、紗生ちゃんを危険に、正しくは君の胃袋を危険にさらすわけにはいかないよ」
「冬治先輩……いや、大丈夫です」
彼女の瞳に力がこもり、右手が動く。何度か深呼吸したのちに、グラスに手を付けて一気に口に含む。
「うぶ、うっぶぶぶぶぁぁぁあああああ」
絶叫したのちに嘔吐。身体を引くつかせて悶絶し、気絶した。吐き出された液体は床に飛び散ったのちに、蒸気をあげながら、液体が消えた。
「だ、大丈夫?」
「……」
口から泡を吹いて倒れてしまい、体は軽く痙攣していた。
一応、保健の先生に診てもらったのだが、ただの貧血と言う診断が下った。
「人が、人間が挑戦するには危険な味です」
復活したのはそれから数時間後、げっそりとやつれた状態で復活した。目の下にはクマが出来ており、気持ち痩せている気がする。
「あの……ごめんね?」
今日ほど、心の底から相手に謝ろうと思ったことはなかった。しかし、陳腐な謝罪の言葉しか思い浮かべない。
「俺が代わりに飲めたらいいんだけど」
「いいんです、私が飲まないと意味はありませんから……しかし、ばらまいてしまってもうありませんよね。ないのなら、しょうがないですよね」
どこかの期待をにじませながら、俺を見る。
「まぁ、そうだね」
水筒に準備していた薬はもう二度と日の目を浴びることはないだろう。
「そうだね、どうしたもんか」
「解毒薬とは違うんですけど、儀式的な方法で解除できるっていうところも本に書いてありました」
「そうなの? 先にそっちを試せばよかったかな」
俺がそういうと苦笑される。
「……さすがに、惚れ薬の解毒薬が飲めないなんて思っていませんでした」
トロッとして飲みやすいと思っていたんだろうか。良薬、口に逃がしっていうしなぁ。
「解除はどんな感じで?」
「惚れた相手に心底、幻滅することらしいです」
「ふぅむ……薬の力を超えるほどの幻滅さか……儀式っぽくないね」
「まぁ、そうですね。ただ、一番実行するのが簡単で場合によっては難しい方法。矛盾したことを取ることで惚れ薬の効果に異常をきたし、効果を打ち消すのだそうです」
よくわからないが、試してみればいいだろう。
どの程度幻滅させればいいんだろうか。
「鏡に映した状態で、俺がそれをしないといけないんだよね」
「そうですね。難しいでしょうか?」
難しいものだ。ひいては俺の評判が駄々下がりになりそうだが、これも紗生ちゃんのためだ。
「やろうじゃないか」
「本当ですか?」
「だって、幻滅するのなら俺が頑張ればいいわけだし、紗生ちゃんはそこで見ているだけでいい。これ以上、負担をかけさせたくないから」
泡を食って痙攣し、倒れる姿はシャレにならないからな。
「すみません、先輩」
「いいよいいよ、もともと俺が悪いんだし」
「はい、先輩どうぞ。鏡です」
「オッケー。ちょっと幻滅させる内容を考えるから待っててね」
「わかりました」
鏡に写った俺を見せた状態で、俺はしばらく考える。
「実は俺、女性もののパンツを頭にかぶった状態でブラジャーとふんどしつけるのが趣味なんだ」
「うがーっ」
そういって、手鏡を紗生ちゃんがぶっ壊した。想像以上のパワーが出たようで、本人もぎょっとしていた。
その手には、鋭利なナイフが握られている。
「ど、どしたの」
「すみません、冬治先輩……こっち方面、無理みたいです。大好きな人がこんな情けないことをするなんて、そう思うと歯止めが利かなくなります……」
鏡の中の俺が、本物だったら今頃死んでいたと思うんだ。
「うん、こっちはやめた方がよくないかな?」
「……はい」
「それより、なんでナイフを?」
護身用と言うのだろうか。
「実は、惚れ薬の解毒薬の一つに、好きになった相手の生き胆と血液っていうものがありまして……」
そういってそそくさとナイフを仕舞っていた。
「……え?」
「冬治先輩が作ってくれた薬が効かなかったらちょっと、生き胆をもらおうかなと」
冗談だよね。生き胆ってほんのちょっともらうとかできないと思うよ。
「ま、まぁ、鏡の中にいるから生き胆を手に入れるのは難しいと思う」
「あ、そうですね」
冬治先輩のもらっても、効果がなかったんですよね、同一視しちゃってと言われた。
「でも、試してみないとわからないし……」
小声でそんな恐ろしいことをつぶやいていた。
やべぇ、このまま悠長にみやっちゃんの方を待っていたりしたらさくっと殺されるんじゃないのか。
「さっきの幻滅、なかなか効いた気もします」
「そ、そっか。じゃあ、とりあえずは解毒薬よりこっちの方面で行ってみようと思うんだけどどうかな?」
刺激的ではなく、ほんのり嫌い系を集めて行って、嫌われる。ちりも積もれば山となる作戦と行こう。
短時間でかなりの効果を期待するのは間違えている気がしてならない。過激で刺激的なものは副作用も強そうだからな。血やナイフ飛び交うなんて冗談じゃないぞ。しかも、主に対象は俺になるだろうし。
「わかりました。けど、いつぐらいにしますか? そろそろテストも始まりますし」
「とりあえず予定としては中間テストが終わってからでどうかな?」
「そうですね、そうしましょう」
それから俺は、割と静かに過ごすことにした。一つ目は紗生ちゃん自体に刺激を与えないためだ。薬のせいか、もともと追いつめられるとやばいタイプなのかはわからないがナイフの一刺しは等しく痛く感じるだろうさ。二つ目は、七色が最近首を突っ込んでくるようになったためだ。
中間テストが明日に控えた時点で七色が寄ってきた。いつもと雰囲気が違ううえ、俺の手を引いて屋上まで連れてきた。
「で、どんな感じ?」
「何が?」
「ほら、紗生の惚れ薬の効果。あれから結構経った気がするけど、消せた? 紗生のほうに聞いても、今やってますって言うのがお決まりだし、心配しないでくださいしか言わないし」
俺に聞いてこないと思っていたら、あっちに聞いていたのか。
「いろいろと試してはいる」
「ほんとぉ? 例えばどんなこと?」
「……これさ、解毒薬なんだけど飲める?」
「これ、虹色に光ってるじゃん」
水稲の中身を見せるとそんな感想をもらった。
「……俺には固形物に見えるんだよ。匂い、すごいだろ」
「……う、うぅ、これ、飲めるの?」
「紗生ちゃんは飲もうとして吐いて、数時間寝込んだ」
「そ、その程度で済むような感じじゃないんだけど……じゃあ、効果は消せたってわけ?」
「まだ効果が消えてない。今のところは幻滅させれば何とかなるかもって方向性でやってる」
俺の言葉に七色は少し考えて手を叩いた。
「幻滅ね。うん、こんなやばそうな薬を飲むのならそっちの簡単なほうがいいじゃないの」
俺もそう思うんだけどな。ナイフの話を七色にするのはやめておこう。
「じゃ、あたしのパンツかぶってブラジャー着けて、全裸で土下座したらいいんじゃないかな?」
こいつと方向性が同じになって俺は微妙にショックを受けてしまった。
「あのなぁ、七色。パンツをかぶってブラジャーを付けたらそれは全裸じゃないぞ」
「あ、そっかぁ」
そっかじゃねぇよ。ここまで頭の中がおかしいのなら、ナイフの話ぐらいしても大丈夫そうだな。
「あいにく、似たようなことを言って鏡の中の俺がナイフで一回殺されたわい」
「え、冬治はあたしのパンツかぶるって言ったの?」
「個人まで特定はしてないけど、女性もののパンツをかぶってブラジャー着けて、ふんどしつけるのが趣味だって言ったらナイフでぐさー、だ」
「あまりにショックだったんだろうね……」
そういってなぜか俺の体を擦るように触り始めた。
「ど、どうしたよ、いきなり?」
「怪我だよ、怪我。どこを怪我したの?」
「おいおい、落ち着いてくれよ。紗生ちゃんが恋しているのは俺じゃなくて、鏡の中の俺だろ」
「あ……ごめん、そだね」
そういって手を引く。珍しく恥ずかしかったのか、七色の顔が赤い。突っ込むのも野暮なので、話を進めることにした。
「それで、どうしたものかと思ってね。どうやったらひどく刺激を与えずにうまくできるかって方法を考えないと」
「うぅん、どうすればいいんだろう」
二人してどうしたものかと考えたりする。
「ただ、方向性は悪くないから、ちょいちょい嫌われるようなことをやって行こうかと思う」
「例えば?」
「おっぱいわしづかみ、スカートめくり、ほおずりを街中でやる……悪くないだろ?」
「あんたが捕まってそれで終わりじゃん」
「……おっと、そうだな」
「冗談で言っているかと思えばこれだから……最近、紗生とずっと一緒にいるし、事情はあれど、付き合い悪いんじゃないの?」
「それが俺のしりふきだろ。自分のことより、まずは相手のことだ」
「……やれやれ、周りが見えなくなっているんだね」
呆れた視線を向けられるので、俺は胸を叩いた。
「安心しろ、今のはちょっとした試作案だよ」
「すごく心配なんだけど……二人っきりになって紗生を辱めるつもりじゃ?」
「あのなぁ、俺がその気ならとっくに何かしてるわい。それにな、そこまでやばい奴ならお前さんも今頃同じ目にあってるぞ」
「え?」
「いいか? 俺は相手を自由にできる惚れ薬を持っていたんだぞ? お前さんが女の子である以上、その可能性はあった」
「……ふーん? そういう目で見てたんだ?」
「そのまんざらでもない表情なんだよ」
「やだ、ちょっと顔がにやけてきちゃった」
なんでこいつはちょっとうれしそうなんだ。
「こほん、ま、そこまで屑ってわけじゃなくてよかった」
「俺はそこまで屑じゃないぞ」
「異性を薬の力で言う事、きかせようとしてたんでしょ? 紗生に説明した時はつい、冬治をかばっちゃったけど、冷静に考えたら十分屑じゃん」
「まぁ、否定はしない」
予想の斜め上を行く状況になって、薬を使うのを控えている状況だからな。目的と違う相手に薬の力がついてしまっている以上、本筋に向かって一直線に行けるわけもない。それに、放っておいたら後々、自分の身にも降りかかってきそうだし。
「女子に嫌われる方法を探しているのなら、只野に聞けばいいじゃん」
「友人に?」
「そそ、あいつ、今のところ女子に嫌われてるし」
「なるほどね」
その筋のプロに聞くのは的を射ているかもしれないな。
放課後、友人を捕まえてファミレスまで連れて行き、相談してみることにした。さすがに惚れ薬のことを話すにはいかなかったが、それもしょうがないものだ。協力してもらうのなら、前提から話したほうがいいと考えたが、七色がそれを否定した。
「いやいやいや、冷静に考えてよ。あんな人間が惚れ薬なんて手に入れたらどうすると思う?」
「夢のおっぱい揉み放題のために使うだろうな」
「そうは思わないけど、絶対にしゃべっちゃだめだからね」
「それは……振りか?」
「あんたね、自分がそういう冗談を言える立場だって思ってるの?」
じろっと睨まれたので、肩を縮こませてしまった。
「……そうですね、すみません」
ついつい、敬語になってしまう。紗生ちゃんがこの場にいたらこんな冗談すら言っていなかっただろう。
「で、俺を拉致って何が目的だ? さては身体だな?」
いやんと自分の体を抱く友人。おえっ。
「ふんっ」
「ぐほおっ……な、七色、きさまぁ……」
「あ、ごめん。今のはつい反射的に。気持ち悪くて」
「本当に申し訳ないと思っているのなら、土下座の一つでもしてもらおうか、あぁん?」
この人間は調子に乗らせるとどこまで乗るんだろうか。
「まじごめん」
「あ、やめて。本当にするのはやめて。周りの人がめっちゃ見てくる」
案外そうでもなかったようで、七色がマジで土下座し始めると慌てた様子でやめさせていた。
「……お前さんにしては普通の反応でいささか驚いてるよ」
「いささかって久しぶりに聞いたぞ、じじいか、てめぇ」
「は?」
「もしくは先生かよ。あのな、俺だって分別のある男の娘だ」
「変換、間違えてないか」
「失礼、分別のある男の子だ。女の子を全裸で土下座なんてさせられるわけがない」
「あたしは別に裸になってないし」
そういう七色にうんうんわかった、僕は何でも分かっているからと言う悟りキャラみたいな視線を向ける。
「冬治は七色と付き合いが短いからこいつのこと、わかってないんだよ」
「あたしを俺の女みたいに扱うな、クソ野郎」
「ぐへっ」
もう一発殴られていた。なるほど、あれが仲の良いやり取りと言うやつね。
「まぁ、確かによくわかってないな」
「それはまぁ、そうなんだけどさぁ。冬治にそう言われるとほんの少しだけ傷つくんだけど?」
「そういわれてもね……」
「んじゃあ、冬治。お前、七色のスリーサイズ言えるか?」
「無理だわ」
「じゃあ、付き合い浅いわ。あ、俺も言えないから付き合い浅いわ。くそ、悪友だと思っていたのは俺だけだったか」
「えぇい、あほ共っ。スリーサイズなんて親友で教え合ったりしないっつーの」
短い付き合いだけど、割と仲良くできている友達だと思う。それは友人にも言えるかな。それと、事情はともかく紗生ちゃんもそうだ。この学園に転校してきてよかったと思ってる。
馬鹿な時間を少しすごし、ようやく友人が軌道を戻すことにしたらしい。ふっと我に返って人差し指をたてた。
「もう一つ、俺との仲もさ、もうちょい進展させようや」
「はぁ?」
そういって青春きらきら目線で俺を見てくる。まるで少女漫画ばりの視線だ。どうやったらあんな邪悪な人間がこんなに綺麗な目をできるんだろうか。
「さっきのは七色的なボケなわけよ」
「へぇ、そうだったのか」
隣の七色を見るとうんざり顔をしていた。
「違うっつーの。話をさっさと先に進めるために頭を下げただけ」
「と、言ってるけど?」
「これは構ってほしいのサインだ」
「ちっ、こいつうぜぇ」
心底うざそうな目で友人を見ている七色だが、視線を受けて友人は悦に入っているようだ。
「女の子の視線って不良相手でも気持ちいいよね。あー、これ彼女出来たっぽいわー」
「お前さん、七色が彼女でもいいのか」
俺の言葉に急に真顔になった。
「は? それとこれとは話が別だろ。こんなあばずれで茶髪、気さくで話しかけやすく、それでいて割と親切な女子生徒は俺みたいなくそ野郎には不釣り合いだ」
「後半、褒めてたし最後はどっちかと言うと自分を卑下してやがる……」
「こいつ、こういう卑屈なところがあるから女子に奇跡的に告白されても逃げるんだよな」
「……え?」
告白されたことあるのか。
「ふっ、俺はこう見えてモテるんだ」
運ばれてきたコーヒーを口に啜り、ニヒルな表情を見せる。
「うん、にがい。砂糖どばー、ミルクどばーしないとこんなもん飲めないよ」
「でも付き合ってくださいって言ったら全力で自分を底辺に見せて逃げるへたれのくせに」
「うるせ、かかかか、彼女なんてマジで出来たらどう接していいかわからないだろ。そういうもんはな、社会に出て、足場がきちんと固まってからだ。それにな、こういう若い時から付き合っていたら相手に深く思い入れしちゃって、いざ捨てられる時にストーカーみたいになっちゃったらお互いに苦しんじゃうだろ」
堅実なのか、重い奴なのか、変なのかよくわからなくなってきた。
「……すまん、短い付き合いだってのはわかったし、俺はお前さんのことをかなり悪い方向に誤解していたようだ。それでさ、ちょっと違った相談で悪いんだけど、女の子に嫌われるにはどうしたらいいかな?」
話がかなり脱線していたので、俺は本題を提示することにした。この二人といつまでも馬鹿話をしていたら日が暮れるだろう。
「女の子に嫌われるにはどうしたらいいか、かぁ」
言葉を反芻した後、カップを置いてちょっと真面目な顔になった。
「視線、言葉遣い、態度、尊敬されないような態度をとる」
「かなりまともな答えが返ってきた」
「女の子に嫌われる方法よりも、一般人に嫌われる方法を試したほうが早い。あと、一番重要なのは嫌だけど、接しないといけない理由があるだな。最初に挙げた視線や言葉遣いはその場だけだが、これに関しては一緒にいるだけでダメージを与える。本心とは違う、立場としての自分を相手は演じないといけないからな。事実と、心の摩擦によってかなりのダメージを期待できる」
「どうしてそんなに詳しいんだ。それに、なんだかわからないが、無駄に説得力があるように聞こえる」
俺の質問に喉を鳴らして笑った。
「自分、経験者ですから」
「人懐っこい上に優しくて気の利くタイプのくせして、空気に機敏で、女の子のほうからデートを申し入れられたら自らエロさを出したり、変に空気を読んで空気を悪くするプロは言うことが違うねぇ」
「ふふふ、誉め言葉として受け取っておこう」
馬鹿にした視線を七色に向けられているというのに、動じていなかった。
「どういうことだよ、七色」
「どうもこうも、こいつはあたしの友達にも、もてていた時期があったんだよ。それで、こいつと知り合いのあたしが懸け橋になって、デートの約束を取り付けたりして……」
「ストップ、話がずれてる。冬治に今、話すべきことじゃないだろ」
「確かにそうだけどさ……気になる」
「聞きたければ俺の好感度を上げろ。好感度九になったら放課後自宅イベントで過去の話を教えてやる」
「いらね」
「あたしのを聞きたかったら好感度四まで上げてよ」
今なら下げてるよーと誘われる。
「そっちもいらね」
「くっ、なんて男だ。今ので俺の中の冬治への好感度は下がったぞ」
「本当、ろくでもない男だよ、冬治は。あたしの中でも好感度下がった」
「ちなみに今、数字を出すならどのくらいだよ」
「俺は冬治への好感度十な」
「あたしは十一」
「あ、ずるいぞ。こういうのは十が限界だろ」
「は? あたしは常識で測れない人間だし」
奇妙な言い争いをする二人を見て、俺は友達にする相手を間違ったかもしれないと思った。こっちの学園で友達になってよかったと思ったのは紗生ちゃんぐらいだ。転校してくるんじゃなかった。
「ところで、冬治はあれか。下級生の女の子に友達がいるだろ? その子に嫌われたいのか」
「え、ああ」
「ふーん、そうか。てっきり冬治が世話でもしてやっているのかと思ったら付きまとわれてるのかね」
「……紗生はそんなことしない」
そういって俺を睨んでくる七色。
「そうなのか? でも、ファミレスの窓に張り付いている姿を見るとその言葉も嘘っぽいんだよなぁ」
「え?」
窓を指さす友人の指を追うと、そこにはかべちょろのごとき下級生が確かにいた。
「あれか、もしかして鏡にうっすら反射してんのかな」
「行ってあげたほうがいいんじゃないのか。ウェイトレスの子、軽く引いてるし」
「……そうだな」
俺は一つ、ため息をつきながら紗生ちゃんを迎えに行くのだった。




