東風平佳苗編:第七話 除菌作業と除霊作業
夏休み、俺はスーパーに買い物に来ているとき、友人と七色に無理やり拉致られた。
「あんだよ」
「最近付き合いが悪い。これだから世帯持ちは」
「誰がいつ、世帯を持ったよ」
「まぁ、とぼける気ざまぁす。これでもくらうざうるす」
七色がそういって俺の腹部にパンチしてきやがる。これが腰の据わったいい打撃センスだった。
「ぐぬぬ……七色、今度覚悟しとけよ」
「ふはは、可憐な美少女であるあたしに暴行を働くつもりわん?」
「今は男女平等の時代だ。あとは語尾を統一しとけ」
「そんな時代は、はんたーい」
「あれ、冬治にゃん?」
そんな中、猫が俺を見つけてやってきた。その目はおもちゃを見つけた猫そのものだった。
「にゃん?」
「……はっ、もしかしてあたしのライバル出現?」
一人はごく普通に語尾に反応し、もう一人はよくわからない危惧を感じているようだ。
「冬治、何してるにゃん?」
「にゃんだと? この年齢でにゃん……しかし、見た目はかわいいし、猫目でイメージともあっているっ……やべぇ、なんだこいつ」
一人でぶつくさ言っていた友人が猫のことを頭からつま先まで見ていた。途中、胸のところで少しだけ時間をかけていた。男って、嫌ね。
「あなた、だぁれ?」
七色がそういって猫に指をさしている。よくもまぁ、初対面の相手にそんなことが出来るもんだ。
「猫は大和美穂っていうにゃ」
「大和、美穂ぉ? 冬治君、いつの間にこういう人と仲良くなったわけ? 何かのイベント? この人、語尾ににゃんとかつけてるし、やばいやつじゃん」
「んー……これは猫も治したいんだけど、冬治の前でふざけてやってたらいつの間にかこうなってしまったにゃ。悲しいことに、家に帰ってもこんな感じで……」
困ったもんだにゃと言っていた。
「ぷっ、それは良いざまぁ」
七色はそういって指さして笑っている。
「おかげで、ママには移るし、パパも語尾がにゃんになっちゃうし」
「え、親父さんも?」
「そうにゃ」
中年男性が語尾に、にゃをつけているのか。それは会社だとつらい目に遭いそうだな。
「それは……かわいそうに。会社とか大丈夫なのかよ」
報告書ができたにゃとか言っているのか。
「にゃ、大丈夫にゃ。猫の家は八百屋だからまだなんとかなっているにゃ」
俺の心配は簡単に想像できたようでそんな風に答えてくれた。
「そんにゃことより、冬治。実は陸上部の先生からお前にお願いしたことがあると言われているにゃ」
「俺に?」
「今度の陸上部の合宿についてきてほしいって事にゃ。返事はかなを通してくれればいいから、よろしく頼むにゃ」
そういって猫は去っていく。
「冬治、いつの間にあんな巨乳と知り合いに?」
「佳苗から紹介されたもんだ」
貧乳で巨乳を釣っただと……馬鹿な。そんなことを友人は一人でつぶやいていた。
「……ぐぬぬ、ねぇ、そんなことよりあの子、あたしとキャラかぶってない?」
「かぶってないだろ、あっちは語尾で変化つけてきてたし」
お前さんは汚い言葉をたまに連呼するしな。
「クソ、猫耳に萌えている男なんて尻にマタタビ刺されて死ねばいいんだ」
「こらこら、女の子がそういうことを言っちゃだめだろ」
まず、猫には猫耳なんて生えてないぞ。
「じゃあ、七色も語尾を考えるか」
「……わん」
「対抗して犬なのはわかるがなぁ……」
「でちゅ、はどうだ?」
「やったるでちゅ。目立つこと、これすなわちよい事でちゅからね」
悪目立ちだろうとかまわないのだろうか。
少しおばかな友人たちと別れ、家に帰ると佳苗がストレッチしていた。
「何してるんだ?」
「あ、冬治君。お帰り」
「ただいま」
「あのさ、実は陸上部の……」
「ああ、合宿のことか」
「知ってたんだ?」
「猫に偶然会って教えてもらった」
買ってきたものを冷蔵庫に積めながら俺は答える。
「そっか」
「おう、いつからだ?」
「今週の土日」
「なるほど、急だねぇ。何をするのかわからないが、参加するよ」
「いいの?」
合宿の最中に佳苗の問題を解決させてやりたいからな。なんというか、いずれ訪れるであろう佳苗との別れの際に、何もなかったじゃお互い進歩がないからな。俺としては、本来好きでもない相手と同居しているだけでも女の子の負担になっているんだ。それぐらいはさせてほしい。
「当たり前だろ」
「そっか」
「……なんで、お前さんがそんなに意外そうなんだよ」
「ん、だって冬治君ってそういうの面倒くさがるかなって」
「甘いな、佳苗はまだ俺のことを全部知らないだけだ。やりたいことに付随することなら引き受けるんだよ、俺と言う人間は」
そういって俺は、合宿に向けて何が必要か自分で考えつつ、佳苗に大きな旅行バッグを準備してもらうのだった。
「こんなに要らないと思うけど……」
「いや、必要だ」
「……そう?」
当日、しましまが俺の大きな旅行バッグを見て笑っていた。
「海外旅行でも行くつもりだったの?」
「由香子、そこまで笑うと冬治君がかわいそうだよ」
佳苗がそういっていたが、猫も笑っている。
「ぷー、笑っちゃうにゃ」
「そうか? 俺さ、こうやって友達と宿泊って機会がこれまでなくてな。中学の修学旅行とか病気をうつされていけなかったし、小学生の頃も家のごたごたでいけなくてなぁ……トランプとかチェスとか持ってきたから遊ぼうぜ」
「……なんだろう、すごく悪いことをした気がする」
「……そ、そうだにゃ。冬治、遊んでやるにゃ」
「いやぁ、悪いな」
「あの、冬治さん。あたしたちと楽しい思い出を残しましょうね」
なぜか知らないがまちかさんは涙ぐんでいた。
陸上部の顧問から俺に言い渡された仕事は割と雑用ばかりだったが、俺個人としては大して難しい仕事はなかったのでほっとしている。
バスで移動し、目的地に到着したら荷物を施設の中へと運び、その後は部屋の清掃、それが終わったら昼飯の準備だそうだ。
施設は学園が前々から使用しているものらしく、古ぼけてはいるものの丈夫なものだった。
「じゃあ、冬治君よろしく」
「おう、いってら」
陸上部の面々ともすでに顔見知りの俺は、佳苗の彼氏と言う立場もあって信用されているようだ。俺としてはいかがなものかと思うが、女子の荷物も持っていくことになっている。だが、こんなところで変なことは出来ないし、今晩は男子生徒たちととっておきのAV鑑賞となっているそうだ。
荷物を運び終えた後、俺は部屋の清掃を開始する。施設の規則として使用する部活動が清掃を義務付けられているらしい。本来はマネージャーがそうするそうだが、陸上部にはマネージャーがいないそうなので急遽俺が雇われたそうだ。なんと、バイト代が出るそうで少しとはいえラッキーである。
念入りに部屋を掃除した後、俺はバス内でしましまたちから聞いた噂を思い出していた。
「これから行く施設、出るんだってよ」
「出るって、何が?」
「そうそう、冬治君っていい反応」
しましまは満足そうにうなずいていたっけ。真っ先に殺されそうとか言われた。
「そう、幽霊にゃ」
猫がしましまよりも先に言ったので、その後は争いに発展していた。横から奪われたのが癪に障ったようで、珍しくテンションが高めだった。
「非常階段に最も近い部屋に出るそうです。冬治さんも気を付けてくださいね」
「へー、そうなんだ」
まちかさんに場所を教えられ、俺は掃除をしていてそれを思い出した。
「非常階段から最も近い部屋、ね」
そういえばどこに出るのか階数までは教えてもらってなかったな。残念なことに、俺が今清掃をしている女子の階数にはいないようだ。となると、一階下の男子のフロアだろうか。
女子のフロアを終わらせ、俺は男子フロア非常階段近くの部屋までやってきた。
「ここか」
開いているかどうかわからなかったが、とりあえずドアノブをまわしてみた。当たり前だが、開かなかった。
「ま、使わないのなら鍵をかけられているのは当然か」
多少、時間を無駄にしてしまったので俺は男子フロアの掃除を始めることにした。バケツに水を汲みに行こうとドアから離れると、鍵が開くような音が聞こえてくる。
「ん?」
疑問に思ってまたドアに近づき、ドアノブをひねる。今度はすんなりと回った。
「……誘われてるんかね」
こういう時ってホラーだとあれだよな、ついつい中に誘われるとほいほいついて行って相手の思うつぼ、なんだよな。
「誰かいるのか?」
まぁ、結局入ってしまうんだけどさ。
部屋の中に入ると埃っぽさは感じなかった。定期的に掃除されているのかもしれない。家具は他の部屋と同じで二段ベッドに、ちょっとした机程度だ。ほかには何もない。
「ん?」
カーテンがはためき、そこで窓が開いていることに気が付いた。グラウンド側を見ることができるのか、陸上部が走っているのが見える。
佳苗が頑張っている姿が見えるかもしれない。そう思いながら窓に近づき、転落防止用の柵の体を預けてグラウンドのほうを見る。
「どれど……うっ」
その時、転落防止用の柵が折れた。身を乗り出していた俺はそのまま落ちそうになったが、何とか逆エビぞりで緊急事態に対応できた。
「あっぶね……」
そう思ったとき、背中を誰かに押された。とても軽い衝撃だったが、踏ん張っていた俺を落とすにはちょうど良い一撃だった。
「のわっ……あぶねぇ」
窓から落ちる際、どうにかこうにか窓の縁を右手で掴む。今、俺がいるのは三階だ。
「と、冬治君っ」
「佳苗か?」
下にはどうやら佳苗がいるらしい。あいにく、今はそういう余裕がない。
「待ってて、今、行くからっ」
「ああ、いや、戻れるから大丈夫……って、いないか」
走る音が聞こえてきたが、佳苗が来るよりも先に部屋に戻ることにした。
窓から這い上って部屋に侵入し、中を見渡す。俺を押した相手は見つけることが出来なかったものの、何者かの気配があった。
「あったまに来た……」
よくもまぁ、どこの誰だか知らないが、舐めたことをしてくれたものだ。この借りは絶対に返させてもらおう。
「冬治君っ」
「おっと」
部屋の扉が開いて佳苗が現れ、俺に抱き着いてきた。
「おいおい、どうしたよ」
「どうしたって……窓から落ちそうになってたじゃん」
「ちょっと手が滑ってな」
「本当?」
「俺がお前さんに嘘言ったことあるか?」
「……よく言ってるよぉ……けど、よかった」
日頃の行いが悪い時、こういう時に困るから普段からもうちょっと真面目に生きようと思います。
「そうか、心配かけたな」
「うん……」
「ほれ、泣くな泣くな、抱きしめてやるから」
「うん」
佳苗を抱きしめ、俺はこの部屋の主に復讐を誓うのであった。
晩飯を作る際に近くのスーパーまで出かけ、ついでに幽霊撃退用アイテムを買いそろえてくる。幽霊をやっつけるのに必要なものは徹底的な除菌、行き過ぎた除湿、あとは日光……と言うよりは強い紫外線だ。
何を馬鹿なと思うかもしれないが、暗くてジメジメした場所に幽霊は現れる。いわば、環境を必要とした存在だ。自然現象として発生する存在ならば、なおさらと言えるだろう。
地縛霊などの場所を限定された存在はその場所がなくなればいずれ消え去るしかない。家に住み着いた幽霊ならば、その家から引っ越せばいいという話をよく聞くし、なんなら、燃やしちまえば手っ取り早い。火には不浄を祓う力があるからな。
もちろん、施設を焼き払うわけにはいかないので今回は徹底的な除菌と除湿。暗くてジメジメをやっつけるしかない。カビ菌め、許さぬぞ。
「あのー、冬治君」
「なんだ、しましま」
「なんにゃ、その防護服は」
「防護服じゃないな。潜水服だ」
「えぇ?」
あっけに取られている陸上部員たちをしり目に、俺は白い潜水服を装着する。
「俺は幽霊のことを粒子の一種だと思っている」
「は?」
「人間の意識はどこにあると思う?」
「さ、さぁ……」
脳みそだろうか、目だろうか。普通は脳にあると考えるかもしれない。
「その意識が最後の感情だけをもって、何かに移ってしまった存在が幽霊だと思うんだ。蚊柱で想像してもらったらわかりやすいかもしれないが、一つの粒子だけでは人間の目には映らない。しかし、これの数を増やしていけばいずれは人間の目にも映る」
あっけに取られている部員たちをぐるりと見渡すと、まちかさんが手を挙げていた。
「つまるところ、冬治さんは粒子の集合体が幽霊だと?」
「そうだ」
相手は粒子の結晶体だ。蚊柱相手に剣を振り回しても効果はないといった感じ。ほんのわずかな隙間があれば、相手は入り込んでくる。。
そして、粒子を人間が鼻から肺に取り込むことで体調を悪くする。これが、俗にいう憑かれた状態なんじゃないのか。
「超展開だ……」
「よって、若者諸君、肝試しで幽霊屋敷を探索する際は潜水服などの密閉度の非常に高いものを着用し、酸素ボンベをきちんと装備しろと私は言いたい」
「本当、お前誰だよ」
「乗り移られたんじゃないの?」
ひそひそと陸上部が話をしている間、俺は準備を黙々と進めるのであった。
陸上部全員がそのままついてくる流れとなり、陸上部顧問も気づいたのかやってきていた。
「これは何の集まりだ」
「えっと……斬新な肝試しです」
「肝試しだぁ?」
今度は顧問が、潜水服姿の俺を見る。
「四ヶ所か?」
「はい」
「一体、そんなものをつけてこれから何をするつもりだ」
「部屋の清掃です」
そういって俺は部屋の中に設置した除湿機のスイッチをオンにする。
「肝試しじゃないのか?」
「いえ、清掃です」
タンクに特別な除菌液を注入。
「そ、そうか……掃除なら……まぁ、いいだろう。しかし、本当に掃除か?」
「俺が嘘をついていると思っているのなら、先生も見ていてください」
酸素ボンベとは別に、液体を散布する装置を背負う。柄の長い、先がシャワー穴のあるものを手にもって、そのまま散布を開始する。
「俺の思っている除霊と違う……」
扉のほうは透明なフィルムを張っているので、中の空気が外へ抜けることはないだろう。部屋の隅にあった黒カビに、人間が皮膚で触れればいい具合にとろけてしまう液体をかける。
「ぎゃああああ」
「おい、今すごい女の叫び声が聞こえたぞ」
「なんだこれ」
「やばいだろ、逃げたほうがいいぞ」
「やっぱりいたんだー」
陸上部の一部は逃げてしまったが、作業自体は一人でやっているので問題はない。
「あのー、冬治君」
「なんだ、佳苗」
「こういう時って、お札でぺたぺたするんじゃないの?」
「残念ながら今日は持ってないな」
「今日は? 普段はもちあるいていのかにゃ」
「いや、俺は別に除霊師ではないからな。知り合いが持ってる」
「冬治さんって……何者なんでしょうか」
今のところは単なる学園の生徒です。
俺が作業をしている間に、暇になってきたのか全員が行ってしまった。
「おのれ……よくも……よくも……」
作業を開始して三時間、声が聞こえたが、あとは部屋の角にある黒カビに液体をぶっかけてやれば終わりだ。
「それはこっちのセリフじゃい。よくもまぁ、落とそうとしてくれたのぅ、われ」
液体をぶっかけたとき、確かに黒い何かが部屋中を駆け回る。しかし、それは除湿機に吸い込まれていった。
「ひ、ひいいっ」
全員いなくなっていたかと思ったが、廊下にはまだモノ好きが残っていたらしい。一人、そのまま廊下を走って行ってしまった。
除菌作業が完了した後、俺は次の日のスケジュールを顧問と話し合った。
そして、本来なら男子生徒と楽しむべき時間にはすでに全員が寝ており、昼間の練習でみんな疲れていたのだろう。
俺も自分の割り当てられた部屋である顧問の先生と一緒に寝ることになった。歯を磨いて部屋へと戻ってくると、先生がどこかに行くようだった。
「あ、どうしました?」
「悪いな、ちょっと家で問題が起こってな。妻から連絡があったんだ。四ヶ所、申し訳ないが何か問題があったら先生の携帯番号、教えておくから連絡してくれ」
「わかりました」
「それとな、明日のメニューについても紙にまとめたから、私が戻ってこれなかったら部員たちに伝えておいてくれ」
「はい」
こうして、先生は静かに施設から出て行った。
先生は結局、朝まで戻ってこなかった。
俺が朝食を作っていると、食堂に早起き組がやってきてそのままグラウンドへと向かっていった。飯の時間は朝練が終わってなので、まだ時間はある。ちょっとしたものを食べたい人にはバナナを準備している。
朝食は朝から割と量が多く、鶏肉を使用するものもある。身体づくりが大切なんだと顧問は言うし、陸上部の連中はそうだ、そうに違いないと言っていたのでそうなんだろう。
「冬治君、おはよう」
「おう、佳苗、おはよう」
「手伝おうか?」
「いや、大丈夫だ」
「そう?」
「朝練があるんだろ?」
「ううん、それは自由だから」
佳苗なら行きそうなものだが、行かないのも珍しいな。
「……なぁ、佳苗」
「何?」
「なんで、そんなにうれしそうなんだ?」
彼女は笑っている。何かうれしいことがあったんだろうか。
「えっとね……実は……」
「おう、なんだよ」
「おはよー」
その時、しまねこちかが入ってきた。なんというか、みんな薄着でうっすらと下着が透けている。
「あー、やらしい目で見てる」
「ノーブラだと思いました?」
「残念、ちゃんと着てるにゃん」
「みんな、おはよう」
佳苗がそのまま三人のほうに行ってしまったので、彼女が何を言いたかったのかわからなかった。まぁ、そのうち聞く機会があるだろう。
その後、朝食を食べる時間になり、部員たちが集まってくる。全員集まった際に先生がいないことを告げて、一応言づけられていた練習メニューを伝える。
「以上です。何かあったら俺に伝えてください。俺は施設で作業をしていますんで」
「はーい」
「何か質問はありますか?」
「除霊は無事に完了しましたか?」
「除霊じゃなくて清掃活動は無事に完了しました」
「田所が女性の叫び声が最後に聞こえたと言っていましたけど本当ですか?」
「断末魔って言葉はだれしもあげると思います」
そういうとみんな静かになった。
「ほかには?」
「ないです」
「じゃあ、皆さん、今日も頑張りましょう」
「はーい」
朝礼が終わり、俺は朝食の後片付けをする前に自分の分を一人で食べた。その後は、自由時間なので夏休みの宿題をやることにする。
宿題をしていると、食堂の隅っこが黒くなった。
「……冬治」
「あ、みやっちゃん」
「……解毒薬、できたよ」
唐突だったが、俺の、俺たちの生活が終わるときがやってきたようだ。




