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上条龍美:第四話 食わず嫌い

 友達である上条龍美が一生懸命食玩のマニアである事をひた隠しにしている。

 まぁ、それはいいとして学園内でそんなにオタクやマニアに対して(俺自身マニアとオタクの違いがわからない)偏見があるのかねと思っていた矢先、話題に上がった事があった。

 もちろん、龍美のことではない。ほかの連中から見れば龍美も一般女子生徒の一人扱いでほかの人の人生において上条龍美はモブの一人なのだから。

「羽津学園一のオタクは下舌だよな」

「下舌? 誰それ」

 一瞬、龍美のあだ名か何かかと思ったが、そんなことはないだろう。龍美という個人的には面白い名前をしているからドラゴンとか呼ばれていそうだ。

「そうか、真白君はしらねぇのか。下舌虎子っていってさ、ぐるぐる眼鏡にみつあみの一見地味な女の子」

「へぇ」

 何でも、自分はオタクだと公言してはばからないらしい。

「普通はそういう趣味を持っている奴って、仲間がいないと隠したりするだろ」

「そういうものなのか。今一つぴんと来ないな」

「お前は人からずれているところがあるからなぁ」

「いやいや、俺ほど平々凡々の人間はなかなかいないだろ」

 俺も他の人の人生にとってはモブの一人だ。そういうと、はいはい、といった顔をされる。

「お前はあれだな。ふっとわいて主人公枠を奪っていく感じのやつ」

「さすがにねぇよ。俺は一般人だよ」

「変人はみんな、そういうんだ。自分は普通だってな」

 おかしい、まだ転校してきて間が空いていないというのに周りからの認識はそうなのか。

 まぁ、さっきの友達の話じゃないが、やはり友達は多いほうがいい。上条の奴も俺以外にも友達を作ったほうがいいんじゃないか。ちょっとだけお節介を働こうと考えた。

 なんにせよ、本人に許可をとったほうがいいだろう。龍美のためになるのなら、それはいいことだと思えるんだ。

 放課後にでも連絡しようとして居たら昼休みに会う事が出来た。

「何だか学園内で会うのは変な気分だな」

「うん? そうかな」

「ああ」

「それでどうかしたの? 愛の告白でも?」

 俺はちょっと考えてみた。

「上条が彼女ねぇ……悪くないって思っちゃうんだが」

 相性といい、性格といい、ウェルカムである。

「……ボケを殺さないでほしいんだけど」

 少し迷惑そうな顔をされた。残念だが、龍美とお近づきになるのはまだ早いか縁自体がないのかもしれないなぁ。

「悪かった」

「別に、謝らなくてもいいよ」

 しかしどこか不機嫌なわけで、困ってしまう。

 関係性がもしも変わってしまったら俺たちはどうなるんだろうなぁ。そういうのを龍美も懸念しているのかもしれない。

 さっきの話をぶった切るため、俺は口を開いた。無理にでも会話を変えてしまったほうがよさそうだ。

「それより、下舌って知ってるか?」

「はぁ?」

 突如として不機嫌そうな声に早変わりだった。おかしい、無理やりいい方向へと持って行ったはずなのに悪化させてしまった。

 火に油を注ぐという言葉が頭に浮かんで消えた。

「知らないのか?」

「下舌虎子なんて知らないね」

「ばっちり下の名前まで知ってるじゃないか」

 向こうは龍美のことを知っているかわからないが、少なくともフルネームを言えるぐらい、こいつは下舌のことを知っているらしい。

「自分はオタクだって堂々としている人物でしょ? 信じられない」

 眉を顰め、吐き捨てるように言う。どこにお怒りポイントがあるのかわからなかった。

「真白君、いい?」

「何がだ」

「何々のオタクとかマニアはっていうのはね!」

「……はい」

 顔をこれでもかと近づいてきた。第一種接敵。ずずいと迫ってきた龍美の顔には迫力とりりしさがあった。

「他人に隠しておいた方がいいもんなの! あぁ、わたしってば、ほかの普通の人とは違うっていうのと、ばれるのはどうなのかなぁってドキドキがあるのっ」

「そ、そうか」

 選民意識があるだけなんじゃないのか。

「そうなのっ。とりあえずわたしはそう思ってる」

 下舌虎子とやらはそう思っていないんだろうさ。他人の考えにいちゃもんつけるのはよくない。

 こんな感じで俺が言えばブーメランで返ってくる事になる。

「そのことについて、どう思ってる?」

「上条の言い分はよくわかったよ」

「それならよかった。だから、大々的に自分はそうなんですっていうのはダメ」

 つまるところ、エッチな話は堂々とするんじゃなくて、俺はそういうのに興味ありませんと斜に構えつつ、むっつりが龍美は好きなのか。ふぅむ、深いな。

 俺が考え込んでいると、こちらにまた顔を近づけてきた。

「でも、どうして下舌虎子の話をしてきたわけ?」

「んー? どうしてだろうな」

「どうせわたしの友達を増やそうとか思っているんじゃないの?」

「……鋭いな。付き合い短いのに当てるなんてさ」

「まぁね。真白君って顔に出やすいもん」

 隠しても仕方のない事なので素直に頷くと若干嬉しそうな顔をした。

「相手のことを思ってやってくれるのはうれしいけど、そういうのって有難迷惑っていうの。今の人数で十分なんだよ」

「そうか? 友達って多い方がいいだろう?」

「それは真白君の考えでしょ。わたしは少数精鋭で、仲を良く、深くしていきたいの」

「俺も入ってる?」

「うん、もちろん」

 にへらと笑った。いい表情をする。ただ、食玩を手にもって熱心に説明するほうが輝いている気もする。

 好きなことに打ち込めるのは一種の才能だな。俺はそういうものがないからちょっと、いいや、かなりうらやましい。

「真白君って変なところがあって面白いし」

「……まだ真白君なんだな」

「は?」

「いや、呼び方だよ。深い仲とかいいながら名字で俺の事を呼んでるぜ?」

 深い仲ならあだ名の一つぐらいあってもいい気がする。俺は冬治だから思いつきづらいけど、龍美ならたっつー……安直すぎるな。

「えっと、ほら、恥ずかしいから」

 龍美はそういってそっぽを向いた。

 何が恥ずかしいんだか。

「真白君、下の名前で呼んでいいの?」

「別にかまわないぞ」

「でもさ、と、冬治君もわたしの事を名字で呼んでない?」

 こっちに顔を向けたので、俺と目を合わせる形になる。

「龍美」

「は、はひっ」

 呼び捨てすると顔が真っ赤になった。頬を手で押さえ、下を向いていた。

「下の名前で呼んだだけだろ。大げさだが……ま、直に慣れるだろ」

「そ、そっかな」

「まぁ、それはいいんだ。下舌虎子とやらを気に入らないのは他にも理由があるのか?」

 オタクは隠すべきものだと言う考えの他にも何かありそうだ。

「うーん、あの子って眼鏡とみつあみ解くだけですっごく、可愛くなるんだよね。胸も大きいし、腰もくびれてるしさ」

 自分の胸を掴んで腰に手を置いてため息をついている。

「お前さんもそこそこでかいぜ?」

「ちょ、ちょっとっ、どこ見てるのっ」

 そういって、胸を隠す。俺は首を振った。

「そっちじゃない。尻のほ……んがっ」

 チョップが振り落とされたので甘んじて受けておいた。ぼんきゅっぼんなんだからべつにいいじゃないか。

「とりあえず、気に入らないのっ。わかった?」

「イエス、マム……」

 オタク眼鏡で変身しちゃうような可愛さの子か。

 俺も年頃の男の子、その下舌虎子と言う存在が気にならないかと言われればノーである。やっぱり、探してみたほうがいいだろう。

「眼鏡をはずすとかわいくて、おっぱいも大きいらしいしな。探さないでかっ」

「心の声、漏れてるよ」

「……」

 人の考え方は十人十色、ちなみに俺は胸より尻派だ。胸もさ、好きなんだけどね。


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