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上条龍美:第二話 ライフワーク

 花も恥じらうなんとやらが食玩を頼むなんて珍しい事もあるもんだ。

 誰だって隠したい事の一つや二つ、あるのだろう。彼女の場合はそれが趣味だと言う事だ。

 ちなみに俺は密かに集めている巨乳のエロ本ぐらいか。

「食玩を買うのはもう呼吸するような感じか」

「うん、ライフワークかもしんない。買ってきてくれてありがと」

 今回、俺に買ってきてもらいたかった品は新作らしい。世界の人体模型をラインナップしたものだそうで、それなりの出来栄えだとか。

「見る?」

「グロそうだからいい」

「男なのに肝っ玉が小さいんじゃないの?」

「そうだなー」

 冷やかされたところで俺は右から左に聞き流すほどの気概は持ち合わせている。

「なぁ、上条」

「龍美でいいってば」

「じゃあ、龍美」

「なれなれしい」

「……」

「うそ、ごめんごめん。こういうくだらないやり取りをしたくて。上条でも龍美でもいいから好きに呼んで」

「お前さん、友達に飢えているんだな。別に、趣味を隠して友達は普通にできるだろ」

「うーん、そうなんだけど、やっぱりほら、友達の遊びに行くってなったときに部屋のものを隠せる自信がないからね。リストを作って出し入れしないと無くしちゃう恐れがあるから」

「リスト?」

「うん、パソコンで作って保存してるんだ。画像を付けたものと、普通のやつね」

 この後、数分ほどまた説明を受けた。

「……あ、ごめん。また一人で話してた」

 反省したように苦笑している。

「前にも言ったけど、俺は気にしないけど。そういう龍美を見ていても面白いからな」

「あー、それって馬鹿にしてる?」

「してないよ。打ち込むことがあるのはすごいことだよ。感心してるんだ」

「そっか、そういってくれるとなんだかうれしい。さーてとっ、さっそく箱を開けてみようかな」

 上条が一生懸命箱を開け始める作業を始めたので、俺はまた棚に飾られている食玩を見ることにした。見ていて疑問があったので、龍美へと言葉を投げかける。

「なぁ」

「何?

「この前のシリーズのシロアリだけないぞ。また買わなかったのか?」

 そういうと首を竦められた。

 このシリーズだけは覚えていたし、何より上条との出会った一件でもあるから忘れようにも無理だろう。

 家に帰れば白アリが俺の机の上でおかえりを言ってくれる毎日。悪くは無いし、みれば上条のことを思い出させる。

「そりゃあ、そうだよ。だってそうでしょ?シロアリを持っているのは真白君だし」

「……持ってこようか?」

「ううん、記念で持っていてよ。なんていうのかな、友情の証ってやつ? きゃっ、言っちゃった」

 そこまでいってくれるなら持っていようと思った。

「ああ、このシリーズは真白君のせいで未完シリーズなのかぁ」

「明日持ってくる」

「じょーだんだってば。そんなに怒らないで、ね?」

 心底チョップを喰らわせたいようなやつだな。

 チョップを喰らわせるか、喰らわせないかというところで上条が全ての箱を開けて人体模型を並べていた。

「そろそろ俺、帰るわ」

「え? もう帰っちゃうの?」

「そりゃあね、上条が俺を呼んだ理由は終わっただろ?」

 食玩を買ってきて、渡すだけだ。本日、上条は学園をお休みしていたらしいのでお見舞いのつもりだったりもする。

「まー、そうだけどさ。もうちょっとゆっくりしていったら。まるで、友達をパセリに使ったみたいで気分が悪い」

「パシリな」

「あたし、パセリ嫌い」

 パセリって外食でもしないとそうそう出てこないだろうな。

「好きだっていうほうがまれだと思う」

「最近はよくパクチーがテレビで出る気がするよ」

「……俺はまだ食べたことがないな」

「私もー……だからさ、もうちょっとゆっくりしていってよ」

「だからのつなげ方がおかしい……うーん」

 俺は帰ろうかと思った理由を伝えることにした。

「晩飯は一人だからな。たまに外食でもしようかと思ったんだよ。そろそろ行かないとお店のほう、人数多くなりそうだし」

 最近一人で外食したけど、寂しいもんだねぇ。一人で食べるのがこんなに寂しいなんて初めて知ったよ。やっぱり、食事はみんなで食べたほうがいい。

「じゃあさ、あたしの家で食べて行かない?」

「……食玩のラムネをおかずとか言うのなら、帰るぞ」

「まっさかー……」

 そういってたまっていたラムネを引き出しの中へと突っ込む。

「じゃ、外で食べようっか」

 マジで出すつもりだったようだな。

 財布と上着を手にとって二人で部屋を出る。

「んで、上条。どこに行くんだ? 悪いけど、転校してあまりたっていないからおいしい店を知らないんだ」

「知ってるから安心していいよ。ラーメン食べに行こうよ」

「ラーメンねぇ……」

「あれぇ? 嫌い?」

「好きだよ」

「そっか、よかった。何ラーメンが好き?」

「豚骨かなぁ」

「わたしも!」

 出会って日が浅いというのに、人懐っこいのか、上条はどんどんしゃべっていた。そして、熱が入って俺の目を見続けて、ふっと熱意を失う。

「どうした?」

「やっぱり、一人でしゃべりすぎかなって」

「楽しいのならそれでいいんじゃね?」

「うーん、こっちは楽しいけれど、そっちが違うかもしれない」

「気遣う性質なんだねぇ」

「ん、そうだよ。あ、あそこが言ってた場所」

 結局、龍美がしゃべり続けて目的地に着いた。

「なぁ」

「ん?」

「上条はいつから食玩を集めるようになったんだ?やっぱり、小さい頃から集め始めたのか?」

 オタク気質がある人はやっぱり小さい頃の成果が今に結びついているのだろうか。

「ううん、違うねぇ」

「そうなのか」

「うん、そう。中学三年の受験ぐらいからだよ」

 きっかけと言うものもあるのだろうか。

 あまり突っ込んだ話をするのも如何なものかと考える。やだ、この人ってば私に興味ありまくりんぐーとか思われるのも嫌なものだ。

「えっと、何かな?」

「ん?」

「聞きたいこと、あるのかなって思って。えっとさ、私はなんというんだろう……言ってもらったほうがすっきりする。変なこと考えちゃう性格しててさ、引っ掛かりを覚えちゃうと何か悪いことをしたかなって思っちゃうの」

「臆病だな」

「うん、笑ってくれてもいいよ」

「……笑わないよ。俺が聞きたいことはきっかけだよ」

「きっかけ?」

「そう、好きになったきっかけ」

「……何だったかなぁ。少し前のことなのに忘れちゃったなぁ。ふとした時にかって、意外とうまく作られているなぁって思ったからかもしれないなぁ」

 答えが出ないようなので、後日また教えてもらうことにしよう。

「話は変わるけどここのおすすめはなんだ?」

「そだね、やっぱりまずは普通のラーメンを頼んでもらったほうがいいかも。のりのはいった豚骨ベースのラーメン。細麺で、うまいんだよねぇ」

「じゃあ、上条に任せるよ」

「じゃあ、大将、ラーメン二つ」

「ラーメン二つね? ……って、えぇ? マジかい、たっちゃんが彼氏連れなんて初めて見たよ」

「彼氏じゃないよぉ、友達。今度転校してきた真白冬治君」

「ほぉ、そうなのかい」

「はい」

「今はちょっと忙しいからなぁ。今度また、一人で来なよ。いろいろと話そうじゃないか」

「よかったね、大将に気に入られて」

 まぁ、よくわからないが人脈は広げたほうがいいのかな。

「それよりさぁ、真白くん」

「なんだ?」

「餃子が食べたいなー」

 隣からの視線が痛い。

「真白君なら奢ってくれるっ、奢ってくれるっ……よね?」

「……貸しひとつで承ろうじゃないか」

「やった。ありがとう」

 くくく、後に貸しひとつに重みをつけようと思う。

「餃子二つお願いします」

「あいよー、餃子二つっ」

 結局、俺は餃子を頼むことにした。いまどき餃子一つで喜ぶ女子も珍しいかな。

 数分後にラーメンがやってくる。その頃からぼちぼち人が増え始めていた。

 ラーメンを食べ終え、餃子も食べ終わる。

「ごちそうさん」

「意外と食うの速いな」

「まーね。ラーメンはいつも通りおいしいし、今日は餃子もよりおいしく食べることが出来たよー」

 お腹を満たしてご機嫌だったのか、上条の家につくまで食玩の話を聞かされる羽目になる。

「じゃーね」

「ああ」

 またどこかに食べに行こう、そんな話で終わりを迎えたのだった。


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