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東未奈美:第六話 居場所が与えたもの

 二学期の中間テストが始まると言うのに朝から学園の清掃活動だ。

「全く、ゴミなんてすてるんじゃないぜ。俺が困るだろうが」

「生徒会長そっちは終わりましたか?」

「まだだよ、まだ。ったく、二人増えて終わるわけねぇよなぁ。今度散らかした奴が居たらそいつのロッカーにごみを突っ込んでやる」

 北原が近づいてきて俺の物騒な独り言を聞いていた。

「うわー、何だか荒れてますね?」

「ま、誰だって他人のごみをずっと片付けさせられたらそうでしょうね」

「……東先輩、ジャージで本格的ですね」

「制服が汚れてしまうからね」

 なお、北原は相変わらずのエプロン姿だ。

「んっ、さてと。今日はこのぐらいにしましょうか」

「え、でも最後の見回りとかやってませんけど?」

「冬治君、お昼休みに生徒会を招集してください。今日の放課後、突発的にボランティアイベントを実施します」

「なるほど、手の空いた連中で掃除するんですね」

「ええ、北原さんはお昼休み、ご飯を食べた後でいいけれどゴミ袋を用務員さんからもらってきてください」

「わかりました」

 てきぱきと指示を出していったん解散となった。

 そしてお昼、俺は放送室を借りて生徒会メンバーを生徒会室へと集める。

「生徒会長がお昼に招集をかけるのは珍しいですね」

「ああ。実は今朝、東先輩と北原と一緒に朝の掃除をしていたらなかなかおいつかなくてなぁ」

「え、東先輩も掃除、しているんですか?」

 知らなかったのかメンバーたちが驚いていた。

「そうだよ? してるよ?」

「し、知らなかった……」

「てっきり、傀儡運営で好き勝手やってると思ってた」

「こらこら、みんな東先輩のことを勘違いしすぎだ。あの人は普段、丁寧な口調をしているけど実はかなり雑な口調を……」

「会長、後ろに先輩が!」

「……マジで?」

「嘘です」

「生徒会長をからかうんじゃあないっ! 冷や汗を無駄にかいてしまっただろう?」

 聞かれていたら俺の寿命が縮まっていた。

「んで、だ。今、東先輩は学園内の清掃ボランティアをつのってる。将来的には近隣の清掃活動も自由参加で行うつもりだよ」

 生徒会のメンバー一人が手を挙げた。

「何かな」

「でも、それってあまり人が集まらないんじゃ?」

 そうですねとほかのメンバーもうなずいている。

「確かにね。俺もそう思っているけれど、なんというかなぁ、うまくいくと思うよ」

「その根拠は?」

 なかなか鋭く突っ込んでくる子だな。ああ、そうなんですねってなぁなぁで終わらせない。これが東先輩の相手をしていたら話は別なんだろうけど。

「掃除をしていたら見知らぬ生徒からも手伝いましょうかって声をかけられたんだ。そういう人が世の中にはいるわけで、俺はそういう人に手伝ってもらいたい」

「……お人よしですね」

 俺の意見にそう答えたのは東先輩だった。

「わたしが卒業した後、この生徒会は大丈夫なのでしょうか」

「安心してください、東先輩。私がいますんで!」

 そして、東先輩に続いて北原がゴミ袋と軍手なんかを持ってくる。

「とりあえず準備は終わったので、生徒会メンバーは帰りのホームルームで放課後、校門で清掃ボランティアを募集していることを伝えてください。連絡は俺までお願いします」

「わかりました」

 生徒会メンバーは解散し、東先輩と北原が残って窓から外を眺めていた。

「何、どうしたんですか?」

「……別に、何でもありません」

「実は、用務員のおじさんから頑張ってるねぇと声をかけられたんです。東先輩、当たり前のことをしているだけですと言ったら当たり前のことを毎日積み重ねられる人はすごい人なんだよって褒められていたんですよ」

「ほー」

「それで、途中で逃げてしまって」

「あらら、東先輩って案外そういうのに弱いんですね」

 そういった俺に、北原は首を振る。

「いえいえ、途中まではまんざらでもない顔をしていたんですけど、用務員さんが生徒会長のことを話し始めて、あの子が君の話をしたことがあるから一度会って話したかったんだよって言っていたんです」

「おっと」

 そういえば、初めて清掃活動をしたときにちょろっと話したっけな。あぁ、思い出せないから俺が一体どんなことを言ったのか気になる。けなしたりはしていないから怒られることはないだろうけどなぁ。

「冬治君」

「はいっ」

「……あまり、他人にああいう話はしないように」

「……すみません」

 何を言ったのかは思い出せないが、怒っていないので良しとしよう。

 放課後、校門前に北原と東先輩と一緒に立つことになった。ほかの生徒会メンバーは部活が忙しいからそちらを優先するだろう。

「どのぐらい来ますかねー」

 北原がのんびりと言っている。

「さてね。十人ぐらい来れば御の字ってところかな」

「そうですね。突発的、なおかつ人の善意に頼っているだけじゃそんなものかもしれません」

「んー、ですか。残念ですね」

 そういっていると、こちらに走ってくる一団があった。

「会長っ」

「おや、あれは生徒会のみんな?」

「やります、俺たち頑張ります!」

「え? あ、そうなの?」

「あの、なんだか引き気味じゃありませんか?」

「そんなことないよ。ないよ? えっと、単純に驚いているだけだから。お前さんら、部活はいいのかい?」

「今日は自主休部にして清掃活動にしました! な、みんな?」

 そうですと言ってゴミ袋を取っていく。

「生徒会長、こっちにも人が!」

「思っていたより来ましたねぇ」

 人数はざっと、全校生徒の半分ぐらいだろうか。想像以上の生徒たちが呼応して、ゴミ拾いを手伝ってくれた。

「……ありゃー、俺、この学園の人たちはてっきり誰かが拾うだろうって考えている連中かと思ってたけど違うのね」

「さすがにそれは失礼な考え方です」

「ああ、改めるよ」

 北原に注意されて俺はしみじみと思った。東先輩も思うところがあるのか、清掃している生徒の後姿を見ている。

「東先輩、どうかしましたか?」

「ん? 人の善意も悪くないなと」

「でしょう? 悪くないでしょ、俺って意外と目の付け所がいいかなって自画自賛します」

 そういった俺を東先輩は軽くはたいた。

「ほら、あなたも手を止めてないでごみを拾いなさい。こういう時、生徒会長が士気を盛り上げないとダメだからね?」

「へーい」

 東先輩の支持を受けつつ、俺は何気ない日常を一日消費して清掃活動に励むのだった。


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