土谷真登:最終話 夢のある夢のお話?
生徒会のメンバーは図書委員長、文化系体育委員長(主に部活動)、体育系文化委員長(主に運動会などの行事担当)、放送委員長、美化委員長、学園外委員長(ボランティア等)、副生徒会長、そして生徒会長だ。
生徒会長の仕事は実に簡単なもので、ハンコを押すだけでいい。後は月一の朝礼で言葉を述べ、学園長に書類を持って行く程度だ。
これに比べ、生徒会長の補佐に当たる副生徒会長は仕事が多い。
生徒会会議の司会、生徒会室の掃除、今後の行事の周知徹底並びに計画発表、ポスター作製(担当委員があれば省く)、委員長と会長の緩衝材、教師への説明、一般生徒による要望の聞き入れ(滅多にない)、等など。
縁の下の土台持ち(アンダーバー)と言った変なあだ名をつけられた時は泣きたくなった。
「冬治、帰るぞ」
「はいよ」
二学期より本格始動した我らが生徒会……問題は山積みで、そもそも委員長自体欠けている席が多いのだ。
放送委員長は放送部部長が兼任(ややこしいが、放送内容を決めるのが委員長、それを放送するのが放送部)している。
美化委員長は用務員のお孫さんの生徒が担当、文化系体育委員長は七色が担当し、意外な事に図書委員長は友人が席に収まった。
「ひゃはー、エロ系文学図書館に大量投入!」
あいつの悪事は後でばれた。
残りの委員長は副生徒会長が兼任……つまり、俺がやっていると言っても過言ではない。
「生徒会なんてちょろいだろ」
そう思っていたさ。
まさか兼任しまくりだとは想像もしなかったので結構やる事が多い。
気付けば針は七時を回っていて、用務員さんからさっさと帰るように注意されたりもしている。
遅くなる時は必ず、真登が俺を待っていた。
「別に俺を待たなくてもいいんだぞ?」
いくら常識外の存在とは言え、女の子だ。
出来るだけ暗くならないうちに帰してあげるのが人の道であり、彼氏の道だ。
「アホか」
「おい、人が折角気を使ってやっているのに……アホとはなんだ、アホとは!」
彼氏になって俺は以前より強気になったと思う。真登のおかげでちょっと性格が変わったのだ。
もっとも、俺より真登の方が変わっちまった。
「あたいが一緒に居たいだけだよ。こうでもしないと、一緒に居る時間、少ないもん」
俺の手を握って宥めるような口調でしゃべった。
「……」
「駄目か?」
「だ、駄目なわけないだろう? 真登は俺の彼女だし」
「あたいは照れた冬治も好きだぞ」
顔を真っ赤にするでもなく、何事もない感じで言ってしまうのである。
「で、でもよ。俺としては……暗い夜道を歩かせるのはどうかと思うし」
「だからこうやって冬治があたいの隣にいるんだろ?」
「ま、まぁ、そうだけどよ」
「いつも送ってくれてる。何か問題あるのか?」
「……ないな」
「それならいいだろ」
黙ったまま二人で歩いていると土谷家についてしまう。
「……相変わらず近い場所にあるなぁ。あっという間に着いちまう」
「もっと一緒に居たいだろ?」
「そりゃあ、当然だろ」
もう少しこの時間が続いてほしい俺としては物足りない。
学園までの距離は近いので、暗い夜道も大丈夫だと思うけどね。
夏休みも生徒会の引き継ぎや行事の話し合いでつぶれたのだ。殆ど何も出来なかった。
「あがってくか?」
「いや、遠慮しとく……」
「そうか、残念だな」
その割には全力で俺を担ぎあげていた。
「冬治、遠慮しなくていいぞ。ほら、あがれよ」
玄関の扉を開け、俺を下ろす。
「遠慮はしてないんだがな……って、もしかして親父さんが居るんじゃないのか?」
黒い革靴が並べられている。
「ああ、もう帰って来たんだろ。そうそう、そうやって大人しく付いてくりゃいいんだ」
「違うだろ? 今全力で土谷家から逃げてる途中なの! ああっ! あっさり担いで連れて行くのは……」
廊下に入ったところで俺は口をふさぐ。
こんな情けない言葉を出しながら連れて行かれ、父親に見られでもしたら恐ろしい事になる。
「ただいまー。冬治連れて来たぞ」
「お帰り」
「お帰りなさい」
リビングに二人の人が居た。
一人は男性、もう一人は女性……言うまでもなく真登のご両親だ。
「あ、えーと……初めまして。矢光冬治です」
入口のところで名乗り、頭を下げる。
爺さんが神で、その孫である真登も神を名乗った……それならその間となる夫婦も当然神様なのだ。
「はは、そんなに畏まらなくてもいいよ」
「そうよ。さ、テーブルについて。真登から連絡を受けていたから準備しているわ」
夕飯が並べられ、俺は真登の方を見ていた。
「いつ連絡したんだ?」
「んー? トイレ行ったとき」
「真登の連絡なんて滅多にないからね。思わず会社を早退してしまった」
いいのかよ、それ。
「わたしもよ」
ま、まぁ、この二人が真登の事を愛しているのはよくわかった。
温かいハンバーグが俺の前に置かれ、お茶を出される。
お箸も準備され、真登がご飯をついでくれた。
「ありがと」
「当然だろ」
手を合わせようとしたところで……何だか急に殺伐とした空気が流れだす。
「え、何これ……」
確かにサラリーマンの男性と、どこにでもいそうな主婦が前に座っていたはずだ。
しかし、瞬きの間に後光差す存在へ変貌していた。
「ところで、冬治君」
「は、はい」
「うちの真登を……どうするつもりだい?」
「どうする……? どういう事ですか?」
何だかもう、この場所に居たら一瞬にして塵にされそうだ。
わかることはただ一つ。とても、怒っていらっしゃる。
「真登からね、話を聞いたの」
「あのー、こちらとしては全然話が見えないんですが……真登、どんな話をしたんだ?」
既にハンバーグを口に入れ始めた真登に聞いてみた。
「ああ、簡単だよ。あたいは冬治に釘づけにされちまったって言ったんだよ。その……初めてもあげちゃっただろ?」
照れくさそうにそんな事を言う。
怖くて、ご両親の顔を見る事が出来なかった。
いや、まて、まだしてないぞこら。
「冬治君。責任の無い行動をする程君は子どもなのかな?」
「い、いえ……そんなことは決して。そもそも、まだしていませんって!」
「真登が嘘をついたと言う事?」
「それも違います。おそらく、お互いに勘違いをしているんだと……な、なぁ、真登。初めてって何を俺にあげたんだ?」
真登の返答いかんによっては……目の前のハンバーグにされるぞ、俺。
「え? 唇だろ?」
「……だよな。そう、だよな」
ほっと胸をなでおろして両親を見る。
「……」
「……」
「あ、あれー?」
依然として変わらない威圧感むき出しのご両親。
「大丈夫だよ。父ちゃん母ちゃん。冬治は今日からこの家で寝泊まりするんだからさ」
「何だ、そうなのか」
「ほっとしたわ。さぁ、冬治君もハンバーグを食べて」
「そうだよ。冷えてしまっては美味しさも半減だ」
これは……夢を見ているのではないか?
うん、そうだ。そうに違いない。
「これでずっと一緒に居られるな?」
「そ、そうだなー」
夢だね。
―――――
「っていう夢を見たぞ」
俺は真登にそんな話をした。
眠たそうに目をこすり、真登は俺を見る。
「冬治、おはよう。夢の話よりよ……早く着替えねぇと母ちゃんに怒られるぞ」
「……あいよ」
夢は夢でも昨日あった事をリプレイした内容だ。
色々と突っ込みたいところはあるし、納得いかないところもある。
それでも、真登と付き合ううちに慣れてしまったのだ。
神様とは怖いもので、俺の名字が矢光から土谷に変更し……許嫁になっていた。
「ま、いいか」
真登と一緒に居られるのならそれでいい。どうせ、学園に居る間は副生徒会長の仕事で真登と一緒に居られる時間が少ないからな。
「冬治―、早く来いよ」
「ああ、今行く!」
俺は布団から這い出し、真登の待っているリビングへと向かうのだった。
どうもこんばんは。作者の雨月です。本来は単なるツンデレキャラになるつもりだったオリジナルが何故だかよくわからない存在になってしまい……しかも、かなり短いのです。ぼけーっとしながら読み直していたらあっという間に読み終わり、作者唖然。別に長ければいいというわけではありませんが、オリジナルの最終話だと選挙に出ようってところで終わっています。せっかくの加筆修正版だからつけたそうとやってみました。いかがだったでしょうか? 神様でありながらあまり神様関係ないような気がしてなりません。そういうつもりでやっていたので別に関係ないじゃんと思ってくださればそれで充分なんですがね。暇つぶしになれば幸いです。評価、感想、メッセージ等いただければ嬉しいです。さぁて、お次は作者最大の懸念である人物のお話ですね。これは手ごわそうだ……長くかかるようでしたら今回みたいに活動報告で途中経過を報告させていただきます。それでは次回をお楽しみに。




