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土谷真登:第一話 気になるあの子は非日常かもしれない?

 人ならざるものが人に接し、人に益を与えることは非常に稀である。

 そして、神から与えられた力をもってして幸せになった話はさらに少ない。

 どちらかというと神が出てくる話は自戒が多いのだ。富に眩み、力に溺れ、欲を求めすぎてしまう者は馬鹿を見る。極端な話だと死んでしまうのだ。

「わしはのぅ、信じてもらえんかもしれないが……神様なんじゃ」

 俺は今、大ピンチに陥っていた。

 なにも良い行いなんてしていない。

 だからといって、悪い人間でもない。

 たんなる普通の人間……そんな俺は母の再婚で他の学園へ転校したのだ。その初日、神様が俺の夢に現れた。

「お前の望むものを渡そう。何でもいいぞ? 金に女、富まで種類は充実じゃ!」

 顎ひげをなでながら、神様は笑った。

 爺さんの背後には金に女、選挙カーが準備されている。

「勿論、全部でもいいんじゃぞ?」

「い、要りません。勘弁してつかぁさい」

「ふぉふぉふぉ、遠慮するな。望みを言うが良い。さぁ、さぁ!」

 その目はまさしく詐欺師の瞳。

 俺が要求したものをすぐさま準備する事が出来るのだろう。

 どうせ、夢だし頼んでみるか……その気持ちも勿論、ある。

「あのー、これって何か要求したら酷い目に遭うんでしょ?」

「いや、なーんもおきんよ」

 しらじらしい表情でお爺さんが呟いた。

「じゃが、ちょーっと、ほんのちょっとだけじゃぞ? 面倒な事が起きるだけじゃ」

「ほら! それ! その面倒な事ってどのくらい?」

「だから、ほんのちょっとじゃと……む、もう時間か。ちっ」

 舌打ちをしたとき、俺は神様の本性を見た気がした。



――――――



「ふー、何だか目覚めが悪いな」

 悪魔の夢でも見ていたのだろうか? 五月に入ってすらいないのに、汗が顔を伝った。

 妹がまだ寝ている時間帯だろうが、そろそろ朝ごはんの準備をしても大丈夫だろう。

 俺は立ち上がり、洗面所へと向かっていった。

 食事を終えて、学園へ向かう途中の河川敷にふと目を向ける。

 気になる人だかりがあったからだ。

「何だありゃ」

「よぉ、転校生」

 肩を軽くはたかれ、そちらへ視線を向ける。

「おはよ、冬治君だっけ?」

「ああ、あんた達か。確かクラスメートの……只野と、七色だったか?」

 悪そうな表情の男子生徒と、中世的な顔立ちの女子生徒が並んで立っている。

「堅苦しい奴だな。おれの事は友人って呼んでくれよ」

「僕は虹だよ。にじ、じゃないよ。こう、だからね?」

「ちなみにおれの好きな物は金と女、富だ!」

 どれも手に入れられそうにない幸の薄そうな顔だな。

「ぼくは胸が欲しいよ!」

 こっちも見事な無い物ねだりだ。

「そんなことより……ありゃ一体何の集まりだ?」

 俺は河川敷を指差した。

「ありゃアトラクションだ」

 少し顔色が悪くなった友人が応える。

「アトラクション?」

「そうだよー、あそこには暴君がいるんだ」

「暴君ねぇ……何だそりゃ?」

 友人は首をすくめた。

「少年! 腕力に自信はあるか?」

「え?」

「ふむふむ……意外と筋力ある?」

 七色が俺の二の腕を触っていた。

「ま、まぁ……それなりにな」

「んじゃ、ゴーだ!」

 右手を太陽へ向けた。

「そう、レッツゴーだよっ!」

「あ、ああ……わかった。あそこに行けばいいんだな?」

 友達二人に送りだされ、俺は河川敷へと向かっていった。

「骨は拾ってやるからなー」

「鞄は僕が責任を持って守っておくよー」

 後ろから聞こえてくる声に首をかしげつつ、人だかりへと近づいて……気付いた。

「よえーくせに、目障りなんだよっ!」

「ぐはっ」

 俺の脇を四人の男子生徒が飛んでいった。

 どれもこれも、やんちゃしてそうな男子生徒だ。

「何なんだ?」

 俺が辿り着く頃には倒れて動かなくなった男子生徒が数人、川に放り込まれた奴ら数人、地面に刺さって動かなくなった奴もいた。

「お前もか?」

「えっ? ちょっ……」

 顔を狙った一撃を避ける。

「くまっ!」

 視界にとらえたパンツの柄……ワンプリントの熊ではなく、ぷりちーくまさんが均等に配置されたパンツだった。

 一撃を避けても、足は不思議な軌道で俺の首にたたきつけられる。

「うぐっ……うおっ!」

 そして気付けば片手でリフトアップ。

「お、おい。やめろって! え、えーと、クマパンツさん!」

「……あぁ? 吹き飛べ!」

 川へ向かって遠慮のない放り投げ……俺は着水を覚悟したの。

「ぐへっ……げほっ……」

 背中に河川敷の洗礼を受けた。

 肺から強制的に酸素が出て行く。

 何度かむせて、辺りを見渡し……驚いた。

「……嘘だろ」

 俺は対岸で四つん這いになっていたのだ。

 川は決して狭くない。プールより巨大な川幅を放り投げられた事になる。

「錯覚か?」

 しかし、対岸の河川敷には先ほどの死屍累々が小さいながらも確認する事が出来た。

 つまり……どういう事?

 宇宙人につままれるとはまさにこの事だと思ったね。

 覚えているのは熊さんのパンツと、恐ろしい表情で俺の事を睨んでいた女子生徒の事だけだ。

 確かに、アトラクション(見世物)と言っても差し支えないな……。

 土谷真登とのファーストコンタクトはこんな感じだった。


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