表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/283

葉奈:最終話 二人で一つ、置いたそうだ

 葉奈ちゃんの告白を冗談とか、勘違いで済まそうと考えていた。

 兄と妹が付き合うなんて信じられなかったし、せっかく家族になって仲良くなれたのにそれが壊れるのが嫌だったからだろうか。

 今ではもう、どうだったのか思い出せないほど昔のことだと思ってしまう。

「冬治さんの答えを聞かせてほしい」

「俺は君のことを女の子として見た事は……多分、おそらく、えーっと……なかったと思う」

 俺の言葉に葉奈ちゃんは涙を浮かべた。

 嘘はつくもんじゃないね。

「ううん、ごめん。嘘だ。ほんのちょっとぐらいは女の子として見ていたよ」

「よかった……兄さんが女の子に興味が無い人なのかと、思った」

「そんなわけないよ!」

 本当、嘘はつくもんじゃねぇな。

「でもね、嘘をつき通しても良かったよ。嘘だと、わかっていたから。

「何でさ?」

 無言のまま葉奈ちゃんはボイスレコーダーをとりだしてスイッチを入れた。

『葉奈ちゃん、そんなはしたない恰好でうろついちゃ駄目だよ。どきどきするから』

「これ、冬治さんの寝言ね」

「嘘、だろう? 俺がこんな事を言うわけが……そもそも、葉奈ちゃんがどうしてそんな事を知っているんだ」

「ぬいぐるみさんがね、教えてくれたの。優しいから……ふふ」

 なんとなーく、想像出来たことだけど、それって警察が介入するぐらいのやばい事なんじゃないだろうか。

 今度あのぬいぐるみは処分しておこう。

「冬治さんがね、あたしのことをどう思っているかなんて本当はもう、どうでもいいの」

 にこりと笑って葉奈ちゃんが近づいてくる。河川敷で、俺の背中には川しかない。

 逃げる為には葉奈ちゃんの隣を通る以外にない。

「あたしが冬治さんのことを好きだということ。これは間違いない真実だから、信じていいよ」

 何だか追い詰められているような気がした。

「邪魔は、誰にもさせない」

「あのさ、もしかしてラブレターをどうにかしたのは……」

「そう、あたしだよ」

 満面の笑みでこたえられた。どういえばいいのか、考える。

「いいかい、葉奈ちゃん。ラブレターは想いが詰まったものだよ。それを無碍にするのは良くないと思うんだ」

「今更お兄ちゃんぶらないで……あたしにとって冬治さんはもう、兄さんじゃないの。ただの大好きな人なの。わかってるよね? あとさ、冬治さんが言える事じゃ……ないよねぇ? あたしに対しての返事、わすれたふりしてるもんねぇ」

「それは、そうだけど……」

 兄さんじゃないと言うのは何だか家族の絆を傷つけられたような感じを与えられた。

「この世界で冬治さんのことを好きになっていいのは……あたしだけ。他の奴らが冬治さんに言い寄るのなら、ただじゃおかない」

 唇を歪めて笑っている。多分、他の人が見たら何事だと振り返って警察に連絡するだろう。

 それでも、葉奈ちゃんは葉奈ちゃんだ。そもそも、こうなったのは俺の責任だ。


「一人の女の子として……」


 いつだったか聞いた父親の言葉を思い出した。

 いや、今はそういう話じゃないな。俺が駄目な人間だからと言って……ラブレターを引きぬくなんて引き下がっていい問題じゃあない。

「葉奈ちゃんが俺の何を知っていると言うんだい?」

「知っているよ、何でも。だって、冬治さんは大好きな人だから何でも知っていないと満足できない」

「だったら、なおさらだ。俺は俺のことを好きになってくれる人がそうやって他人を傷つけるのをよしとしない。良く覚えておいてくれ」

「そっか、そうなんだ。ごめんね冬治さん。今度からは気をつける……」

 ちょっとは反省してくれたようだ。ただ、それも本当にちょっとの間だった。

「さ、そろそろ答えをあたしに聞かせてくれないかな」 

 すさまじいまでのプレッシャー。こんなすごいのは生まれて初めて感じる代物だ。

「わかってる。俺はね、あれから……葉奈ちゃんと別れて暮らし始めて、寂しくなった。葉奈ちゃんの事を考えてばっかりだった。葉奈ちゃんがぬいぐるみくれたよね? あの時、答えを聞いてくるもんだと思った。でも、それは起きなかった」

 俺はここで呼吸を挟む。

「女の子から聞いてくれなきゃ、俺は答えすら出せないような人間なんだ。そんな情けない男でも葉奈ちゃんは……」

「いい! 凄く、いい!」

 若干興奮しているようだった。

 機先を制された気分になるも、まぁ、あれだ。

「……これからもよろしく?」

「今後ともよろしく」

 悪魔の契約のような気がした。

 女の子に告白するのって、こんなに勇気がいるのかよ……。

 その後、二人で部屋に帰った。

「ご飯の準備するから。カレーしかまだ作れない」

「そっか、頑張って!」

「ああ、任せて!」

 乱雑な口調で台所に立つ葉奈ちゃんを見ているのも悪くはないが、俺は父親に聞きたい事があった。

 無論、母親の事だ。

 母親が娘を置き去りするのは如何なものか……そう思って、電話をすることにした。

 葉奈ちゃんにはちょっと出てくると言って、近くの公園へと向かった。

「はい、もしもし?」

「俺です」

「冬治君か」

 彼氏になった事を報告するかどうか、悩んで結局告げることにした。

「そうか……それはよかった。葉奈ちゃんは元気かな?」

「元気です」

 安堵のため息が電話口から漏れてくる。

「その報告のために電話を?」

「違います。葉奈ちゃんの母親の話です。なにも言わず、居なくなったそうですね」

「その理由を聞きたいのか」

 父は悩んだ末、重たい声を出した。

「葉奈の血のつながった母親は彼女を生んですぐに亡くなった。缶のお汁粉が好きな人だったよ」

「え?」

 あの時、父親が何故ぎょっとしていたのかわかった気がした。

「僕が彼女を大切にできなかったのは……未練があったのかもしれないなぁ」

 なにに対しての未練だったのか、そして彼女とは誰なのか……俺が知る必要もないのだろう。

「もっと詳しく説明したほうがいいかな?」

「……俺には必要ないです。将来、この事を葉奈ちゃんに教えるつもりですか?」

「追求された時、教えるつもりだ。じゃ、僕は仕事があるから……」

 電話は切れ、俺は家に帰る途中、缶のお汁粉を買って帰った。

「あ、お帰り」

「ただいま。はい、お土産」

 お汁粉を渡すと葉奈ちゃんはしかめっ面になった。

「あれ? これ好きなんじゃないの?」

「……うーん、彼氏が最初にくれたのが缶のお汁粉って……どうよ?」

「因縁でもあるんじゃないの?」

 俺はそう言って葉奈ちゃんを抱きよせた。

「えっ、と……」

「葉奈ちゃん」

「ん?」

 本当の事を話してしまおうか……そう思って、辞めた。

 なにも言う必要なんてないのだろう。そうだな、いつか……葉奈ちゃんの父親に娘を貰いに行く時に告げようと思う。

 カレーが噴きこぼれるまで、俺は葉奈ちゃんを抱きしめ続けたのだった。

 後日、俺があのぬいぐるみを始末するのを忘れ、父親を殴りに行くと言う事件が起きた。

 そして更に次の日、どこかのお墓に缶のお汁粉が置かれていたそうである。


どうも作者の雨月です。比較的『気になる』系で葉奈の話は思い出すんですよね。ええ、まぁ……作者が微妙におかしくなった時期におかしい人と話していた影響でしょうか。それはさておくとして、家族や友達がぽんぽんとは行かないまでも結構登場している気がします。最終話に二人を登場させるかどうか悩んだ末、父親が登場。かもしれないのほうの七色編で、彼女が缶のお汁粉が好きな理由がわかる……かもしれない。そもそも、書かないのかもしれない……。しかし、もっと病ませればよかったかなーと後悔してます。あと、馬水編をもうちょっと読み直し、練り直せばよかった。一人目の時はやる気が起きず、二人目でエンジンがかかる。三人目で悲鳴を上げて、四人目で失速する……そういう作者に私はなりた……くはありません。現状、なっていますがね。はてさて、次回で登場をにおわせつつある友人の妹は登場するのか? 次回、作者も手に余らせている土谷真登編です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ