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第16話「たまたまです!」

 ガラガラガラガラガラ……。


「ん……? ふぁああ────ついたのかな?」

 雑踏の声に意識が覚醒するクラウス。

 ゴキゴキと首を鳴らしながら降りれば、すでに同じ馬車の中には誰も乗っていなかった。


「よく寝てたなーあんちゃん。乗合が下級冒険者ばっかりだからって、置き引きの危険性もあるんだから気をつけな」

「あ、そ」


 いつもの御者の爺さんが、いつものお節介を焼く。


 たしかに、不特定多数を乗せる乗合馬車では置き引きをする不届き物が出てもおかしくはないが、それはちょっとばかしなかなか難しい。


 泥棒を働こうものなら、即──冒険者間で情報が共有されてしまう。

 その一回こっきりは見逃されたとして、次はだれがそんな奴と組むというのか。


 噂とは怖いものだ。

 「アイツ、仲間から置き引きしたんだぜ──」なんて言われてみ? 絶対そんな奴と組みたくないよね? 


 ……と、まぁ、そう言うことだ。


 そして、クラウスがソロをしている理由でもある。

 もちろん、クラウスが置き引きをしたわけではない。……言うまでもなく、ソロをしている理由は、外れスキルのベテラン下級冒険者だからだ。(いわゆる、パイセンである)


 まぁ、冒険者をやめてもいいくらい高価なものなら、盗まれる可能性も無きにしも非ず──。


 …って、

「やば!!」

 慌てて荷物廻りを確認するクラウス。


(ひぇぇ、結構高価なもの持ってたよ、俺!!)


 命をかけてGETした代物。

 スケルトンジェネラルの素材と装備──そして、


    大粒の霊光石──……!


 どれもこれも、金貨うん枚分の値打ち物のはず。


「む────! あ、あったー」


 よかった。あぶないあぶない、ホントそういえば高価なもの持ってたわ……。


「はぁー……。あんちゃん……。悪いことは言わねぇ、別の仕事探した方がいいぞ?」

「は?」


「……こういうのもなんだが、冒険者向いてないんじゃないか?」

「急になんだよ?」


 チラリと爺さんの視線を感じる。


「たかだか『夕闇鉱山』……。下級ダンジョンに潜るたびにボロボロになってくるんだ……。自分でも向いてねぇってわかってんだろ?」


 いやいや……。

 下級冒険者が、上級モンスターと戦えばこうなるって。


「余計なお世話だよ──」


 クラウスはそう言い捨てると、勢いをつけて馬車を降り目の前のギルドの戸を潜った。


「あ」

「どうした? 忘れ物か?」


「爺さん、俺より前に『夕闇鉱山』に冒険者を乗せてった?……ダークエルフの女の子とか」

「女の子?……いんや? ダークエルフの女の子(・・・)なんて、珍しいの乗せてたら忘れるはずないぞ」


 そりゃそうだ。


「あ、っそ。いいや。忘れてくれ」


 そうだよな。何者か知らないけど、中級冒険者がこっそり俺の後をつけてきた、なんて話ある訳無いよな。

 ギルド関係者の爺さんが知らないなら、ただの通りすがりの冒険者だろうさ。


「おう。じゃあ、転職のこともちゃんと考えとけよ──────あ、」


 爺さんが何か言いかけていたが、小言を聞くのはうんざりなので後ろ手に手を振りさっさとギルドの中に入ってしまうクラウス。

 しかし、その後で爺さんの言った一言を、…………聞くことはなかったようだ。



「──あー……そういや、女の子は知らんが、いい年した(・・・・・)ダークエルフなら知っとるぞ、って聞いちゃいねぇか」



 ダークエルフ。

 長命の種族で、見た目の年齢は決して一致しない…………。



 ※ ※


 そして、ギルドのカウンターにて。



「…………な、な──」



 プルプルと震えるテリーヌさん。

 ん……?


「なんですかこれは──────!!」


 ビリビリとギルドが震える大声量。


「ひぇ?! お、俺なんかやっちゃいました?!」

「やっちゃいましたか──じぇねーわ!! そんなセリフを吐くのは100年早いっつの!」


 うわお、テリーヌさん、キャラ変わりすぎじゃね??


「ど、どどど、どこで手に入れたんですか!!──これ!!」


 これ?

 これって……。


「これ?」

 大粒の霊光石。

「ちょ、そんな粗末に扱わないでください!」


 慌てたテリーヌがワタワタと霊光石を掴みとろうとする。


「霊光石ですよ! 霊光石!! し、しかも。こ、ここここ、こんな大きい霊光石ッ。い、いったいどこで────あ、」

「ちょっとテリーヌさん! 声! 声ぇえ、あ」



 あー……。


 しーーーーーん。



 ざわ。

 ざわざわ。


 あっという間にざわつくギルド。

 暇な冒険者が顔を突き合わせてヒソヒソ。


「霊光石?」

「霊光石ってあの?」

「うそ、デッカイ!! あれって、魔光石じゃないの?!」


 ざわざわ!

 ざわざわ!!


 やばいやばい!

 噂広まっちゃう。


「あわわわ……。て、テリーヌさん、声ぇ。声大きいですって!」

「あちゃー……てへ」


 てへ。じゃねーよ!!

 可愛くねぇわ!! 歳を考えろ。──「あんだとぉ!」


 ……ほらぁ、俺めっちゃ怪しい人になってるじゃんよ!!

 この展開って、絶対あの人(・・・)来ちゃうから!!



 ──ガチャ。



 ほらぁ!!!



「テリーヌ……。そして、クラウスさん。COME ON(カモォォォオン)


 クイクイ。


 奥の扉が開いて、ギルドマスターのサラザール女史が顔を出す。

 そんでもって、親指でクイクイと、中に入れというジェスチャーだ。


「ですよねー」

「ねー……」


 やばいな。そろそろ、「たまたま」の言い訳ができそうにない────。


「……とほほ」

「は~い。一名様、ご案内~」


 ガックリと項垂れたクラウスを連行するようにガッチリとテリーヌさんが脇を抱える。

 とぼとぼ……。


 ガチャ、ドサッ。


「ほら座って」

「あ、はい」


 ドスンと割と力を込めて椅子に座らされるクラウス。


(……なんだ、これ)


 取り調べ室よろしく、ソファーに押し込められるクラウス。

 正面にサラザール女史。そして、その背後にはテリーヌが仁王立ちだ。


「で────どこで?」

「たまたまです」キリ


 即答するクラウス。


「いえ。場所を聞いているんですけど」

「たまたま、夕闇鉱山で──」


 偶々(たまたま)です。


「へー………………たまたま(・・・・)霊光石をねー。タマタマ、ユウヤミコウザンデレイコウセキみつけちゃいました~ってか?」

「いやだって……」


 本当に、たまたまだもん。

 あるなんて思ってないもん。


「はぁ……。あのですね。この大きさの霊光石の価値を知ってますか? クラウスさん」

「えっと……。魔術師が杖とかに使ってるやつですよね? たしか、金貨1枚くらいじゃ──」


 ニコッ。


(え? なんで笑顔??)


 ニッコリ笑うサラザール女史。なぜか笑顔に黒い影が見える。

「──そうですね。下級の魔術師が使う魔法杖(スタッフ)に使われる霊光石なら、そのくらいですね────ちょっとした墓所でも取れるのでそこまで珍しいものではないです」


 ……でしょ?


「────小指程度の大きさならね」

「はぁ?」


 テーブルの上で輝く霊光石は拳大。


「わかるかしら?」


 コツコツコツ────。


「すごく……大きいです」

「そーよねぇ。おっきいわねー……つまり、」


 指でテーブルを叩くサラザール女史がまるで、出来の悪い生徒に教えを施すようにして、少しため息をつく。


「クラウスさん。────……アナタも見たことあるんじゃないかしら。ドラゴンと闘う勇者たちに付き従う、ひとりの魔法使いの絵物語なんてのを」

 いきなりなんだ?

「え? まぁ……子供のころに?」


 確か、おとぎ話の一種だ。

 どこかの国に現れた悪いドラゴンを国の一番の戦士が『勇者』として、仲間を率いてドラゴンを倒すというやつ。


 母さんが元気で、親父がいた頃は、毎晩寝る前にせがんだ覚えがある。


「──で、ね。あの魔法使いが持ってる杖に付いているのって、霊光石なのよ。特大(・・)の奴で、かの強大な魔法使いの魔力を増幅し──何倍もの威力の魔法を使う魔力伝導率のとっっっっっっッても高い、超すごーーーーーーい、全魔法使い垂涎(すいぜん)の石なの」


 へぇ。


「へぇ────じゃないわよ? これ、それに匹敵するくらいの大きさなんだけど」

「……………………へ?」


「だから、へ。じゃないから」


 いや、「へ」でしょ?


 夕闇鉱山で伝説クラスの霊光石が取れたとか。


 いやいやいや。

 何言ってんのこの人?




「──えっと、つまり。…………まるで、おとぎ話に出てくるような伝説クラスの杖に使われていた材料に匹敵するものを、俺がとってきたみたいな言い方なんですけど?」


「いや。みたいな言い方(・・・・・・・)──なんじゃなくてね、……まるで伝説とまではいかなくても、そこそこ(・・・・)近いクラスの(・・・・・・)巨大な霊光石(・・・・・・)を取ってきたのよ──アナタが」


 へ、へぇ…………。



 ────へ?


「……へっ?!」


 そ、それってつまり──────。



 …………。


 ……。



 え、

「……………………えええええええええええええええええええ!!!???」

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