年末の大掃除 4
……私の式神が、暴走して、どこかへ行ってしまった。
私と朱乃さんは、出て行った式レイを探す。
「何処に行ったのでしょうか?」
朱乃さんは私をお姫様だっこしながら、塀の上を駆ける。
「【百目】! ……って、ああ、そうだ。百目の異能は、使えないんだった……」
百春さまからコピーした、百の目を操る異能は使えない……。
ならば……霊力を探知するしかない。
「霊力探知をしてみます」
「え!?」
え? 朱乃さんがぎょっ、と目をむく。どうしたんだろう……。
いや、それより、今は逃げた式レイを探さないと。
……目を閉じる。そして、前に守美さんがやったように、魂を……感じる。
霊力は魂を根源としてる。
式神のレイは、私の魂からできた疑似人格。
ならば、私と似た魂の存在を見つけ出せば、そこに式神がいる。
目を閉じて、意識を集中する。周囲に無数の炎が、浮かび上がる。
それらの色も、大きさも、様々だ。
……そんな中、私は、自分の魂だと直感する炎を見つける。
「居ました! 仲店の方角です」
「わ、わかるのですか……?」
「え、あ、はい。何かオカシイですか?」
朱乃さんは目を丸くするも、ふるふると首を横に振る。
「いえ、お嬢様ならできてもおかしくないですね。仲店ですね!」
ぼっ……! と朱乃さんが足の裏から炎を吹き出し、その勢いで高くジャンプする。
凄まじい速さだ。振り落とされそうになる。
けれど、朱乃さんが私を優しくホールドしてくれてる。優しくて、頼りになる人だ。
ほどなくして、仲店通りへとやってきた。
年の瀬ということもあって、かなり混んでいる。
霊力を感知してるので、だいたいの、式神の位置は把握してる。
……心配なのは、式神のレイが、悪さをしていないか、だ。
特に……。
「式神の私を見て、サトル様が……ゲンメツしないでしょうか……」
それが、一番の気がかりだ。
ハシタナイ女と思われたら……。
「お嬢様、心配要りませんよ。悟様は、きっと偽物を一発で、見抜いていますよ」
「そう……ですかね……」
式神レイは、私そっくりの外見をしてるのだ。
いくらサトル様でも見分けが付かないような……。
「サトル様はお嬢様のこと、お心より愛しておいでです。大丈夫、外見なんかに惑わされず、偽物と見破っております。絶対。間違いなく。100%。なんだったら今頃、偽物をとっ捕まえてるはずですよ」
朱乃さんが自信満々に言う。
そ、そうよね……サトル様、偽物なんかに、惑わされたりしない……よね?
「いきましょう。式神はどうやら、動いておりません」
私は仲店を歩いて行く。
人混みをかき分けながら、団子屋の前へとやってきた。
そこには……。
「悟♡ はい、あーん♡」
「あーん♡」
……。
…………。
………………状況を、説明しよう。
団子屋の軒先に、式神の私と、サトル様がいた。
式神のレイは……すごく、薄着をしている。
いつの間にか、丈の凄く凄く短い着物を着ていた。
そして、胸元をはだけて、乳房を少し露出してる。
超が突くほどの薄着となった、式神レイのお膝の上に……サトル様が頭を載せてる。
膝枕しながら、サトル様に、お団子を食べさせていた……。
「どーですかぁ♡ 悟ぅ? おいち~?」
「ああ、美味いぞっ」
「ちがうでしょー? おいち~?」
「ああ、おいち~♡」
………………。
お、おいちー……って。
「レイちゃんもお団子たべたいなー。たべさせて、悟ぅ~」
「いいぞ!」
ばっ、とサトル様が起き上がり、お団子を手に持って、あーんしてる。
「のんのん☆ 口にくわえて、ちゅーって」
「ばっ! おま……そんな……恥ずかしいこと……」
「えー、じゃーあ♡」
かぷっ、と式神レイがお団子を口にくわえて、サトル様に顔を近づける。
「あーん」
「お、おま! それはさすがに、駄目だろ!? あーん♡」
……サトル様が式神レイから、口移しで、お団子を受け取っていた。
「「…………」」
私も、朱乃さんも、言葉を失っていた。
サトル様……。
「さとるんさとるん♡」
「さ、さとるん!? なんだそれは!?」
「恋人同士なんだから、特別な呼び方しよーよー♡ ねー♡」
「そ、そうだな……れ、れーたん♡」
「きゃー♡ れーたんだぁって♡ かわいい~♡ ね、ね、れーたん可愛い?」
「ああ! れーたんちょー可愛い~!」
ずきり、と私の胸が痛んだ。
可愛い……可愛いって……。
そんな、偽物に……!
「ねーえ、さとるん。あたしなんだか体がほてってきてたの……♡ ねえ……どこかで休憩でもしましょ……?」
私は……耐えられなかった。
バッ、とサトル様たちの元へ駆け寄り……。
「何をしてるのですかっ! サトル様!」
思わず、声を荒らげる。
ぎょっ! とサトル様が目をむく。
式神レイは「ばれちった☆」とどこか楽しそうにしていた。
「れ、れれれれれれれれれれれれ!? あ、あれれれれれれれれれ!?」
サトル様がパニック状態に陥っていた。
もうっ。
「見てわかるでしょうっ! そっち偽物、こっちが本物のレイです!」
「い、いやしかし、れーたん……」
私は、なんだか無性に腹が立った。
れーたん……。それは、偽物の名前。
……偽物と、本物の区別がついてないっ?
「れーたんじゃあなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」
……今まで出したことないくらいの、大きな声を、上げてしまう私。
……ああ、私、怒ってるんだ。
式神レイに……ではなく、この人に。
「やーださとるん、あの人こわーい♡ れーたんを守って~♡」
式神レイがサトル様にしなだれかかって、耳元に息をふぅー、と吹きかける。
「ふひゃうっ!」
「ふひゃう!? なんですかそんな気色の悪い声をあげてっ!」
「い、いやその……れ、レイ? おまえが……本物なんだよな?」
「当たり前ですっ! 私がそんな……ハシタナイ格好なんてするわけないでしょうっ!?」
「い、いや……まあ。でも……ほら、似合ってるから……凄く……」
私のことではなく、式神レイを褒めてるように思えて、またイライラし出す。
「もうっ! サトル様のばかっ! ばかっ! もー!」
「うふふ~♡ いいぞーやれやれー♡ 痴話げんか~♡」
式神レイが本当に楽しそうに、私たちを煽っているのだった。




