年末の大掃除 2
年末の大掃除が、開始された……。
でも……うう……私は部屋から出てはいけないと言われてる。
「あの……す……」
「…………」
無言の、圧を感じる。
「お、お義母さま」
「なんですか、レイさん♡」
凄い上機嫌だ……守美さま……。
そんなにお義母さまって呼ばれるのがうれしいのかな……。
「やっぱり、皆さんが働いてる中で、私だけ何もしないのは気が引けます」
「ふむ……そうですか。しかしあなたは今異能が使えない。それは白面からの襲撃があった際に、自己防衛ができないことと同義です」
た、確かに……。
うかつに外に出て、白面に連れ去られでもしたら……もっと皆さんに迷惑をかけてしまう、か。
「考えが足りませんでした。すみませ……きゃっ」
守美さまが私に抱きついてきて、よしよしと頭を撫でる。
「謝る必要など微塵もありませんよ」
「でも……」
「そうですね。気が引けるというのでしたら、訓練をするのはどうでしょう? 異能を使わぬ、自己防衛手段を持っていた方が、何かあったときに役に立ちますし」
「! ぜ、ぜひっ! それは……ぜひやりたいです!」
では、と守美さまがうなずく。
「式を、お教えいたしましょう」
「しき……?」
「式神のことです」
「ああ……」
サトル様が、物を直すときに使う、デフォルメ人形君や、極東王の白夜さまや、守美さまが、もう一人の自分を作り出していた……あの。
「王が使っていた式は、わたくしの作った呪符を用いているのです」
「あ、そうなんですね……」
あの人間とそっくりにしか見えない式は、守美さまお手製なんだ……。
「式の作り方は、単純です。媒介物に、霊力を流す。以上」
めちゃくちゃ単純だった……。
「媒介物というのは?」
「草や木の枝。髪や神など。霊力が通るものならなんでもOKです」
「なるほど……」
「霊力とは、魂の力。物に魂を付与することで、仮初めの生物とする。それが式の仕組みです」
守美さまが神を1本ぬいて、それに息を吹きかける。
するとみるみるうちに、もう一人の守美さまが出現した。
これが……式だなんて。
霊力感知ができない人から見たら、本物と見分けが付かないだろう。
「初心者は呪符を使うのがいいでしょう」
「じゅふ?」
「呪文がかかれた特殊な符です」
守美さまが懐から、呪符を取り出す。
ミミズがのたくったような、変な文字が書かれていた。
「呪文がかかれてると、どういいのですか?」
「霊力を通しやすくなります」
なるほど……。
上級者は、呪文が書かれていなくても、式が作れる。
霊力を通しやすくする力が無くても、そのコツを身につけているから。
「物に霊力を纏わすのと違い、物に霊力を込めるのは、かなり難易度が高いのです」
「纏う? 込める?」
「はい。纏うというのは、単純に物体の周りを霊力で覆うだけ。これは身体能力を上昇させます。込めるというのは、物体の内側に魂を込めるということ。身体能力の向上に加え、式とすることができるのです」
なるほど……。
「丁寧な説明、ありがとうございます」
ふと、私は気づく。守美さまは、あんまり多くを言葉で語らなかったはず……。
でも、どうして私には、こんなに丁寧に、言葉で教えてくれるんだろうか……?
私が不思議に思ってると、守美さまが微笑む。
「あなたに出会って、わたくしは……考えを改めたのです」
「私に……?」
「はい。言葉にすることは、時に、重要なのだと。あなたに教えてもらいましたから」
過去の(精神)世界で、確かに、そんな感じのことを言ったような……。
私の言った言葉が、守美さまを変えた……ってこと?
……だとしたら、光栄だ。
「でも……サトル様には、可愛いとか、愛おしいとか、言いませんよね?」
私には直ぐに言うのに。
「それは……その……」
もにょもにょ、と口ごもった後に言う。
「……子離れできない親、と悟にあきれられたくないから……」
……ああ、なるほど。
別にサトル様のことが嫌いなのではないようだ。……良かった。
「変な気を遣わずとも、よいと思います」
「そ、そうですか……?」
「はい。好きなら好きと、愛してるなら、愛してると。気軽に言えばよろしいかと存じますよ。むしろ、喜ぶと思います。サトル様……守美さまのこと、大好きですので」
サトル様を見ていれば、彼が守美さまを特別愛してることくらい、わかる。
「親として信頼し、尊敬してることもわかりますよ」
「……何故そう思うのです?」
「だって、私を一人残して、外に出てますので」
サトル様は、白面が私を本格的に狙いだしたことを、知ってる。
サトル様は、私を大事にしてくださっているだ。
だから、本来なら私の側から、一歩も離れない、離れられないはずだ。
でも……今も、夜廻りを続けているし、掃除に外に出ている。
「守美さまを……お義母さまを、深く信頼してるのです。お義母さまがいれば、大丈夫って」
じわ……と守美さまが目に涙をためる。
「ああ、レイさん……!」
「わぷっ」
守美さまがぎゅーっ、と力強く抱きしめてくる。
……ちょっと、苦しい。でも……温かい。
「レイさんみたいな、素敵な子が、愛する我が子のお嫁さんに来てくれて、わたくし……とても嬉しいです」
「私も……お義母さまみたいに、強くて優しいおかたが、お義母さんになってくださって……うれしいです」
ぎゅうぎゅう、と守美さまが力一杯抱きしめてくださる。
温かい、愛が、伝わってくる。
しばし、そうしてぎゅっとしていたのだけど……。
「あ、あの……そろそろ式の訓練しませんか?」
30分くらいたっても、お義母さまってば、私をぎゅーっとしてるのだ。
そろそろ訓練したい……。
「レイさんなら、訓練など必要ないと思いますけどね」
「と、おっしゃりますと?」
「体内妖魔を3匹買っており、その異能を自在に操っていたのです。霊力操作の技術は、教えずとも身についてると思われます」
そうかな。
どうだろう……。
「試しにやってみては?」
「そうですね。では……」
私は守美さまから一度離れ、彼女の作った呪符を手に持つ。
フッ……と呪符に、息を吹きかける。
呪符がみるみるうちに大きくなっていく。
そこに居たのは、私そっくりの……式だ。
「一度で式を完成させるなんて、すごいですよ!」
「ありがとうございます。でも……お義母さまの作った呪符が凄いから」
すると守美さまが微笑む。
「先ほどの呪符は、フェイクですわ」
「フェイク……?」
「呪文はかかれてますが、でたらめの呪文なのです。ただの落書きに等しい」
「え、ええー……」
それってつまり……。
「ただの紙、だったんですか。落書きのかかれた」
「そう。レイさんはすでに、呪文ぬきで、ここまで精巧な式が作れるのです! これはトンデモナイことですよ。わたくしですら、最初は呪文の書かれたものでないと、式を作れなかった物です」
そ、そうなんだ……。
私そっくりの式が、私を見ていう。
「はぁい♡こんにちはー♡レイちゃんだよーん」
…………は? はい?
「しゃ、しゃべった……!?」
……ど、どうなってるの……?
式神ってそもそもしゃべれるの……?




