年末の大掃除 1
朝食をとったあと、守美さまが、皆さんに言う。
「これより、大掃除を行います」
大掃除……。
「今年の汚れは、今年のうちにです」
なるほど……。年をまたぐ前に、普段以上に、お屋敷をお掃除するってことか。
お掃除なら……得意だ。役に立てる!
「サトル、百目鬼兄妹をサブリーダーとして、班編制を行いなさい。大きな指揮はわたくしが、細かい指示は班長に従うこと。よろしいですね」
「「「はい……!」」」
全員が、まるで戦いにでも挑むかのごとく、やる気に満ちた表情をしてる。
ただのお掃除なのに……?
それより、気になったことがある。
「あ、あの、守美さま……?」
「…………」
あ、あれ……?
守美さまがつーん、とそっぽを向いてる。
「あの、守美さま?」
「…………」しーん。
「その……」
「…………」
まさか……。
「お、お義母さ……」「なんですかっ、レイさんっ」
弾んだ声音の、守美さま。
……どうやら、お義母さまって呼んでもらいたらしい。
守美さまは私をぎゅーっと抱きしめる。
この人……サトル様もそうだけど、直ぐに私に抱きつくのどうしてなんだろう……。
「ええと、その……私は何処を掃除すればいいのですか?」
すると守美さまは言う。
「貴女は何もしないでください」
「え? そ、そんな……どうして? は! ま、まさか……私が白面に狙われてるから……」
なるほど白面の手のものが、襲ってくるかも知れない。
だから、一人でうろつかないほうがいいという、守美さまの配慮……。
「いえ、その美しい手が、汚れてしまうのを危惧してです」
「は、はい……?」
手……?
守美さまが、私の手を掴む。
「聞きましたよ。西の大陸では、使用人のまねごとをさせられていたと。そのせいで、酷い手荒れだったと」
「は、はい……」
今は、一条家特性の薬湯などのおかげで、手が元通りにはなってきている。
「この美しく、繊細な手指を、また汚れさせるわけにはいきません」
「え、とそれってつまり……掃除すると手が荒れるから、するなと?」
「そういうことですよ。掃除など、我らに任せればいいのです」
そ、そんな……。
「わ、私も手伝いたい……」
「駄目です」
ぴしゃり、と守美さまに止められる。
「で、でも……他の人たちが働いてるなか、私だけ何もしないのは申し訳ないです……。それに、悪いですよ、ねえ?」
すると黒服さんたちが、いっせいに、首を横に振る。
「いえ、レイお嬢様はなにもしないでください」
「お掃除はあたしたちの仕事なのでっ」
「お嬢様の美しい手を汚すわけにはいきませんので!」
え、えー……。みんな守美さまと同じ意見ってこと……?
「さ、サトル様はどう思ってるのですか……?」
一条家当主であるサトル様が言えば、皆も従ってくれるだろう。
お願い、サトル様っ。
「母上は……ずるい!」
「はぁ……?」
え、ずるいってなに……?
「うちにきてから、ずぅっとレイを独占してっ。俺だって! レイをぎゅーっとしたいし、手をスリスリしたい!」
な、何を言ってるんだろうこの人……?
「何を言ってるのですか、悟」
そうです、お義母さま。言ってください。オカシナことを言うなと。一条家当主らしい発言を心がけなさいって。
「レイさんはわたくしの娘。娘を大事にするのは母として当然。娘をハグしたり、ぎゅーっとしたり、ぴったりくっつくのも母なら当然の権利」
守美さま!?
「いつもレイを独占してっ。俺はレイの夫となる男だぞ!?」
「わたくしはレイさんの母です。親子なのです。独占して何が悪いのです?」
い、意味のわからないケンカが始まってる……!
「はいはい、二人ともそれくらいにしてくださいよ」
と朱乃さんが止めに入る。
「じゃ、あたしらはちょいと外の掃除してきますんで、蒼次郎班は屋敷の中の掃除よろしくね」
「はーい、姉ちゃん!」
……ん?
外の……掃除……?
皆で屋敷の掃除をするんじゃあないのだろうか……?
ぞろぞろ、と黒服さん達が外に出て行く。……掃除道具を持ってる様子もない。あれぇ?
「レイさんはわたくしとお茶を飲みましょうね」
「あ、あのその……やっぱりお掃除を手伝いたい……です」
「駄目です。危険ですので」
危険……?
やっぱり、変だ。大掃除って、なんか私の思ってるのと違うのかな……。
「さ、お茶しますよ」
「でも……」
「ぐす……わたくしと、お茶するの……お嫌なのですか……?」
「ああ、違います! そういうことじゃないので!」
「では、お茶にしましょう」
……守美さまって、前はもっと厳格な人だと思っていた。
でも……思ったより、その……普通の人……? というか、親馬鹿……?




