【Side】一条 家嗣(悟の父)
おれの名前は一条 家嗣。
家をつぐ、って名前なのに、一条家をつげなかった男だ。まったく、こんな名前をつけた親のことを、つくづく呪うよ。
ま、おれがその親をぶっ殺したんだけどな。
ある日、おれは賭場にいた。
金を増やすためだな。
「さぁ、半丁どちらか!」
半丁博打をしてる、おれ。
サイコロの目を当てるゲームだ。
おれの動体視力を持ってすれば、サイコロが今丁の目を出してることを見破るのは容易い。
「丁」
……だが、結果は「半!」だった。
……イカサマしやがった。
「おいてめえ」
賭場を仕切ってる男の胸ぐらを掴み、そして外に向かって放り投げる。
「ひいぃい! なにすんだよ!?」
「それはこっちのセリフだ屑。サイコロの目をごまかしやがったな? あ?」
「ど、何処にそんな証拠が……」
おれは懐から短刀を取り出して、ぴっ、と一閃させる。
「うぎゃぁああ! 目がぁああああああああああ!」
ムカついたので目を潰してやった。
騒ぎを聞きつけ、軍人たちが近づいてきやがった。
おれはその場から一瞬で、離れる。
おれは零の忌み子。
霊力を持たぬ代わりに、超身体能力を持つ。
一瞬で、屋根の上へと移動することくらい容易い。
あーあ……騒ぎ起こしちまった。別の賭場を探すかね……。
「探しましたよ」
屋根の上でごろ寝してると、隣に、虚無僧がいた。
笠をかぶっており、そいつの表情はうかがえない。
だが、気配からわかる。こいつが、人間じゃあねえってことがな。
「んだよ」
「白面さまからの伝言です」
この虚無僧は、どうやらおれの雇い主である、白面からのメッセンジャーの一人のようだ。
前の奴とはまた別のやつだ。
「んだよ」
「一条守美が復活しました」
「…………………………は?」
なん……だと?
嘘だろ……。守美が……生き返った……?
「バカな。あいつはおれがこの手で葬り去っただろうが? どうして生きてる!?」
アリエナイ……。そんな……絶対に殺したはずの女が……どうして……?
「どうやら、神因子を持つ少女が、呪禁存思を使ったようです」
「………………マジかよ」
「はい」
呪禁存思。
蘇生の秘術。これを使える人間は居ない。
あの、極東最強とまで呼ばれた、守美ですら、呪禁存思を使えなかった。
それだけ取得難易度の高い術ってことだ。
「白面さまは、神因子の少女を捕まえろとのご命令です」
「……それって、あれだろ? 悟の花嫁だろ」
「はい。レイ・サイガ嬢です」
あの女か。
一度、湯川天神で会ったことがある。
3つの異能を持つ女だ。
まさか、あいつが神因子を持つとは……。
「あんとき誘拐しときゃよかったなー」
あのとき、あの女からそこまで大きな気配を感じなかった。
何かあって、進化した、あるいは力を覚醒させたってところか……。
「白面様は動けない状態です。指揮権はあなたに委ねるそうです」
「ああ、そうかい」
おれは立ち上がり、虚無僧にいう。
「とりあえず妖魔、全軍集めろ。全軍だ」
「………………全軍ですか。いささか過剰では?」
「バカおまえ。神因子の女と、守美が相手にいるんだぞ? まともにぶつかっても、滅せられるだけだぜ」
「あなたであってもですか? 【異能狩り】の異名を持つ貴方?」
「そうだな」
守美を殺れたのは、幸運だった。
あの女がバカだったことが、奏功した。
二度目はない。恐らく、あいつもおれの奇襲を警戒してるだろう。
だから、おれが真正面からいったら、返り討ちに逢う。
「ぶつかる前に、準備を整えておかねえとな」
おれは振り返る。
淺草の街が広がってる。相変わらず……街の連中はみんな笑顔で、気色悪い。
一条の家が、この東都の平和を守ってるって思うと……無性に、腹が立つ。
おれが、なりたくても、なれなかった存在。
おれから一条家当主の座を奪った、女がいる街。
「まぁ、今はせいぜい、つかの間の平穏を楽しんでいるがいいさ」




