28 記憶巡りの旅 3
サトル様がいなくなってしまったので、探すことにした。
……と言っても、何処へ行ったのかさっぱりわからない。あてもない。
『淺草寺だな』
と、今のサトル様がつぶやく。ああ、そうか。自分のことだから、わかるんだ。
『俺は淺草寺のどこかにいるとおもう。悪いが……レイ、探してやってくれ』
「はい……!」
私は急いで淺草寺へと向かう。
とても広いお寺。しかも、夜中ということもあって、中々見つけるのは困難だと……思われた。
けれど、私は夜の闇の中で、輝く白髪を直ぐに見つけられた。
……というより、直ぐわかるような場所に居た。
淺草寺の本殿前に、座っていたのだ。
なんてわかりやすい場所にいるんだろう。
『……見つけて欲しいんだよ』
「見つけて欲しい? だれに、ですか?」
『……母上に』
……守美さまに?
幼いサトル様がぱっ、と顔を上げる。けど、私だとわかると、しょぼくれた表情になる。
サトル様に、今の幼い彼の気持ちを聞くことは、容易い。でも……私は自分で、知りたいと思った。
「こんばんは」
幼いサトル様に話かける。
ちら、と幼いサトル様は私を見るも、視線を直ぐにそらす。
「……女がこんなとこ、一人でぶらついてたら、あぶねーだろう?」
「それは、こっちのセリフですよ。子供がひとりこんなとこにいちゃ」
「俺は、大丈夫だもん。ははうえが……俺を見つけて、守ってくれるもん」
……サトル様のおっしゃっていたとおり、守美さまに、見つけて欲しいと、そう思ってるようだ。
「……ねえ、どうして?」
と、私は幼いサトル様に尋ねる。
「どうして、お母さんに見つけて欲しいの? どうして、お母さんを困らせるようなことするの?」
「……なんであんたにそんなこと言わないといけねーの?」
まあ、それはそうだけども。
「てい」
ぺち、と幸子ちゃんがサトル様の頭をはたく。
「いったぁ!」
「れいの。しり、さわった。おまえ、そのしゃざい。まだ」
「うぐ……すまなかったよ」
ぺこっ、とサトル様が頭を下げる。……意外と素直だ。
「……ははうえに、構って欲しいんだよ」
ぽそり、とサトル様がつぶやく。
「ははうえ、忙しいんだ。色々やっててさ。全然かまってくれねーの」
「まあ……」
「でもさ、しょうがないんだよ。ははうえは、一条家の当主だから」
今のサトル様が、やってることを、この時代では守美さまがやってるらしい。
それで忙しくて、構ってくれない……か。
「お父さんは……?」
……そう、父親、家嗣さまはこの時代、何をしてるんだろうか。ずっと気になっていた。
「家に居ない。家でてった」
「でていった……?」
「うん。でも、でていってせいせいするよ。あいつ……ははうえ、虐めてたから」
「守美さまを、いじめてた?」
いったいどうして……?
「悟」
ぱぁ……! とサトル様の表情が明るくなる。
振り返ると、そこには守美さまがいた。
……でも、違う。あの守美さまは、本物ではない。
式神だ。人間ではない。私には直感的に、人間かそうじゃないかがわかるのだ。
サトル様も同様らしい。
式神の守美さまをみて、俯いてしまう。……お母さんに、見つけて欲しかったのに、迎えに来たのが本人ではなくて、悲しいんだ。
「……ははうえは?」
「緊急の会議で、登城いたしました」
「……そっか」
サトル様がうなだれて、そして式神の側へと向かう。
帰るつもりだろう。
「そこのあなた」
「あ、はい。なんでしょう?」
式神さんが私を見ていう。
「主から、あなたも一条の家に連れて帰るように、仰せつかっております」
守美さまが……?
この時代の守美さまは、私のことを何も知らないはずなのに……。
「丁重に、客としてもてなせと」
……ほっ。どうやら敵認定されていないようだ。
私は、まだ色々サトル様や、守美さまに、聞きたいことが山ほどある。
家嗣さまが、どうして家を出て行ったのか、とか。
だから……。
「わかりました。私も行きます」
サトル様が先に進んでいく。さみしそうな表情をしてる、彼を……ほっとけなかった。
だから、彼の側まで行って、きゅっ、と手を握る。
「なんだよ……?」
……冷たい手。きっと、本当はとても寂しくて仕方ないんだ。可哀想に。
「夜は、危ないですので」
「…………」
サトル様が私の手を握り返してくる。
甘えてくる。本当は……母親にも、こうして甘えたくてしかたないんだろう。




