27 記憶巡りの旅 2
……目の前に現れたのは、サトル様……だった。しかも、小さなお姿をしてる。10年前のサトル様、ということだ。
「よぉ姉ちゃん。こんなとこで一人で歩いてちゃあぶねーぜ!」
「は、はい……そうですね」
「だろ? だから、俺が家まで送ってってやんよ!」
……あ、この優しい感じ、サトル様だ。
ちょっと今と印象違う気がするけど。
「姉ちゃんパンツ何色?」
ぺろん。
「きゃあああああああああああ!」
「えろがきゃぁー!」
幸子ちゃんが幼いサトル様を蹴飛ばす。ぶっ飛ぶサトル様。
「いま、れーわぞ? しょーわののり、きょよーされぬぞ?」
「いってえ! なにすんだよクソガキぃ!」
幸子ちゃんにキレる幼いサトル様……
『す、すまん! 本当にすまない! 昔の俺は……どうにもちょっと……悪ガキだったんだ……』
「は、はひ……」
まあ悪ガキなのは、わかる。スカートを普通めくってきたし……
「じょしのぱんつ。みてはいかん」
「だからって蹴ることねーだろ!」
「いたみのともなわない、きょうくん、いみなし」
「くっ……! ははうえと同じこといいやがって!」
母上……あ、そうだ。この10年前の世界にも、守美さまがいるはず……。
そのときだった。
「れいっ。よける!」
「! 妖魔!」
上空に一匹の妖魔がいた。
姿を見たことが……ある。あれは……魚妖!
低級の妖魔だ。魚の姿をしており、空を泳いでいる。
「【霊亀】!」
私は霊亀の結界を使おうとする。けれど……。
「!? は、発動しない……!」
どうなって……。
「あぶねえ……!」
幼いサトル様が魚妖を蹴っ飛ばす。
けれど……魚妖はぬるりと避ける。
「ぶぎゃっ!」
「サトル様!」
私は幼いサトル様の元へ向かう。額を撃ったせいで、血が垂れてる……。
「あ……」
魚妖が私たちに襲いかかってくる。
「ぎしゃぁああああああああああああああああああ!」
幼いサトルさまは手を前に出す。
「れーき!」
しかし、サトル様が呼びかけても、霊亀の異能は発動しない。
「そんな……」
ぜったいぜつめいの私たち。
そこへ……。
ザシュッ……!
「…………あれ?」
魚妖が空中で動かなくなった。よく見ると、魚妖の体を、光る杭? のようなものが貫いている。
「ぎ……が……」
「この技は……ははうえ!」
振り返ると、空中に、一人の綺麗な女性が立っていた。
「スミ様!」
10年前の、スミ様がそこにはいたのだ。
「【滅せよ】」
スミ様がそういうと、魚妖は爆発四散する。
……凄い、いったい何をしたのか、さっぱりわからないけど。
「すみ。けっかいでくいをつくり、あいてをつらぬいた」
「くい……」
「けっかい、ほそながくして、つらぬく」
「なるほど……」
「まんがでみた」
まんが……?
「ははうえーーーーーーーー!」
ぴょんぴょんと、幼いサトル様が飛び跳ねながら、守美さまに手を振る。
守美さまは地上へと降り、こちらを一瞥。
一方、駆け寄ってくるサトル様に対して……。
ばしっ。
「うぎゃあ!」
足払いを、かけたのだ。……ああ、やっぱり守美さまは、守美さまだ。
「悟。こんな夜中に、一人でうろつくなんて、いったい何を考えてるんですか……?」
じろ、と守美さまがサトル様をにらみつける。
「よーまをぶっころしてやろーっておもって!」
「妖魔を……」
「うん! ははうえが、すこしでも楽になるかなーって……あれ?」
守美さまがサトル様を抱きかかえる。
「この、おばか」
ばしっ!
「きゃんっ!」
す、守美さまがサトル様を抱えた状態で、お、お尻を叩きだしたのだ。
「夜は出歩くなと厳命したでしょう?」
「ぎゃー! ごめんははうえー!」
ばしばしばしっ、とお尻たたきをする……す、守美様……。
「わぉ。れいわ。みなくなったひょーげん。のはらさんち。きせいかかってきたのに」
「だ、だれ……? というかっ、あ、あのっ!」
止めないと!
「その子は……私を助けてくれたんですっ。だからその……叩くのは、勘弁してくださいまし……」
守美さまは私を一瞥する。
「なぜこの子を庇うのですか? あなたはだれですか?」
「えと……」
この世界の守美さまは、私のことを知らない。
10年後からやってきました、と言って信じてくれるか……。
「10ねんごばずーかで、やってきました。ザシキワラシと、ゆかいななかまたちです」
「さ、幸子ちゃんっ!」
そんな正直に打ち明けていいのっ?
というか、ば、バズーカってなにっ。
「……ザシキワラシの真名を知ってる」
守美さまが私を見つめる。
「なぜその子の真名を?」
「そうるふれんどゆえ」
「…………そう」
守美さまが小さく息をつく。
「とりあえず、家に帰りましょう。あなたもいいですか?」
「は、はい……」
特に断る理由もなかったし、私はうなずく。
「悟も、帰りますよ……って、悟……?」
……あれ?
幼いサトル様が、い、いないっ?
ど、どこへ……。
「とーそーちゅー。にげだした、さとるをつかまえて、しょーきんをげっとせよ」




