23 虚像の父 2
サトル様を助けるために、幸子ちゃんがどこからか現れた。
「おい。すみのむすこ」
幸子ちゃんが、倒れてるサトル様に話しかける。
「おまえ。ふがいなし」
「っ!」
幸子ちゃんがサトル様をにらみつける。……そこには、明確な怒りがみてとれた。
「ゆかぺろ。してるばあいじゃない」
ゆかぺろ……?
「おまえ。よわい。よわいと、レイ……まもれない!」
「…………わかってる」
「のん。おまえ。わかってない。なにも」
幸子ちゃんがサトル様に近づいて、頬を指で突く。
「ほんとのてき。つよい。まってくれない。おまえのしんかを」
「…………」
「いま。つよくなるしかない。なれなきゃ……レイはあきらめろ」
……幸子ちゃんが厳しいことを言う。
……私を諦めろ。別れろという。そんなことを、しかし意地悪で言ってるようには、私には決して思えなかった。
そういう子じゃあないって、私は知ってる。じゃあなんで言ってるか? ……多分、サトル様に強くなってほしいんだろう。
友達である私の、旦那様が、サトル様だから。
「……レイを諦め……られるわけがないだろ!」
サトル様は幸子ちゃんの言葉を聞いて、ぐぐっ、と体に力を入れる。
……サトル様。
私のために……立ってくれたんだ。私を思って……。
「おしゃべりはもうお仕舞いか?」
家嗣さまがサトル様の前へと立ち塞がる。
幸子ちゃんは……じろっと、家継さまを見やるも、何も言わなかった。
黙ってただこくんとうなずく。
そして、幸子ちゃんは私の側までやってきた。
「だっこ。よろ」
「は、はい……」
言われるがまま、私は幸子ちゃんを抱っこする。
正面から抱きつく幸子ちゃん。
「うすい」
「なにがですか……?」
「ぺいぺい」
ぺ……?
「もっとくえ。でないと。あかちゃん。かわいそす」
「……もしかして、胸のことをいってるんですか?」
「そー。いえす。ぺいぺい。うすっぺい」
幸子ちゃんにセクハラされても、私は別に嫌では無かった。それより気になってることがあるから。
「あの……幸子ちゃん。なんでここに?」
「きゅーゆー。あいにきた」
「旧友……」
じっ、と見つめるさきにいるのは、家嗣さま。
……つまり、【そういうこと】なのだろう。
「これは……試練なのですね?」
「そう。すみのむすこ。しれん」
……やっぱりそうなんだ。だから、私は何もできない、手を出してはいけない……って、あれ?
「幸子ちゃん、手を出してよかったの……?」
「しぃ」
……駄目だったようだ。うん。だと思った。
……サトル様。頑張ってください。やはりこれは、あなたに課せられた試練のようですよ。
「女二人に、無様な姿を見られて、はずかしくねーのおまえ?」
家嗣さまが煽る。
サトル様は「うるさい!」と言って、構えを取る。
「言っとくが俺に霊亀の結界は通用しないぜ? おまえごときじゃ、おれをとらえられない!」
たんっ、と家嗣さまが消える。 やはり恐ろしい身体能力。
霊力が無いというだけで、ここまで人間は強く早くなるのか。
ばきぃ! とサトル様から大きな音がする。家継さまの攻撃が、当たる。でも。
「捕らえたぞ……家嗣!」
サトル様の頬に、家継さまの拳が突き刺さる。
でもその手を、サトル様が掴んでいた。
「やるな、すみのむすこ」
幸子ちゃんが腕を組んで、うんうんとうなずいてる。
「幸子ちゃん、サトル様が何をやったのかわかるんですか?」
サトル様は家嗣さまの攻撃をもろにうけた。けれど、ダメージを負ってるようには思えない。
いったい何を……?
「あいつ。うちがわ。けっかい。はった」
「内側……体の内側に結界を張ったってこと?」
「そー」
普段は、結界で体の外を覆う。
でも、体の内側に結界を張ってる、らしい。
「からだ。うちがわ。けっかいはる。だめーじ。からだ。とおらない」
「なるほど……」
サトル様はぎゅっ、と拳をにぎりしめて、そして家嗣さまを殴りつける。
ばきぃい! という音とともに、今度は家嗣さまが吹っ飛ぶ。
「!? お、俺の腕力が……上がってる……?」
確かに、人がボールのように飛んで行ってる。そうとうな、パワーで殴りつけたことになる。
「うちがわけっかい。きんにく。ほじょする。ぱわーもあがる」
「なるほど……!」
結界は外に張るより、体の内側にはることで、体へのダメージを軽減するだけでなく、基礎能力も向上するようだ。
「すみ。けっかい。もっといろんなつかいかた。してた」
幸子ちゃんがサトル様に言う。
「おまえ。ちゃんと。ははおや。たたかい。みたこと。あるか?」
「…………」
「おまえは、しるべき。けっかいじゅつを。なにができるか。なにができないか」
「……ああ」
サトル様がうなずく。
そう、いつもサトル様は結界で体を覆うことしかしてない。
でも……幸子ちゃんが言うには、スミ様は他の使い方もしていたという。
「どうすればいい?」
「しらん。ためせばいい。そいつあいてに」
幸子ちゃんが、家嗣さまを見やる。
こっちがしゃべってるときは、家継さまは襲ってこない。
……やっぱり。
あれは、本物の家嗣さまじゃあない。
サトル様の試練のために用意された……幻影……?
「しっ」
幸子ちゃんが口の前に指を立てる。
「ねたばれ。えぬじー」
「そ、そうですね……」
それを言ったら、彼の試練にならないものね。
「はんにんは、ヤス」
「だ、だれ……?」
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