【Side】ナッシー・サイガ(レイの父) その4【★ざまぁ回】
……二重帳簿をつけていたことが、国に運悪くバレてしまった。
騎士に王都へと連行され、そこで取り調べが行われた。
結果、詐欺の罪に問われることになった。
早急に正しい数字を上げること、そして、ちょろまかしていた金を、表に出すこと……。
わしは領民どもから搾り取り、こっそり懐に入れていた金、全部……国に没収されてしまった……!
くそがっ!
支度金も、入ってこないし、ため込んだ金も取られてしまっては!
慰謝料が……支払えないじゃあないか……! くそくそくそぉお!
宰相からはこっぴどく怒られてしまったし、これ以上の悪行が表に出たら、お家取り潰しもあるからなと脅されてしまった……。
ちくしょう、ちくしょうちくしょう!
どうして、こんな風に不運が続くんだ!
今までは、全然こんなことなかったのに!
悪事が上手く、バレてこなかったのにぃ! くそおぉおお!
「はあ……どうしよう……どうすれば……」
鬼のような取り調べを終え、わしはふらふらになりながら、屋敷へと帰ってきた。
「あ、あなた……おかえりなさい……」
愛する……いや、わしを裏切った妻が、わしにすり寄ってくる。
「ね、ねえ……あなた。大丈夫よね?」
「なにがだ?」
「その……ほら、慰謝料……ね? 払える……わよね?」
……はぁ?
なんだこのクソカスが。
今気にするところは、そこなのか……?
大丈夫っていうから、てっきり、憔悴したわしの体を気遣ってくれてるものかと思ったのに!
わしはタリンノをムシして、執務室へ向かう。
「あ、あなた! 待って! お金……」
「自分でなんとかしろ、そんなもん!」
どんっ、とわしはタリンノを突き飛ばす。
「自分で蒔いた種だろうが!」
「そ、それは……」
「わしは一切、貴様のせいで発生した慰謝料は、払わないからな……!」
「そ、そんなぁ……!」
わしはタリンノをムシして部屋に入る。
はぁ……と大きくため息をつく。
……まさか、タリンノがこんなバカで、屑だったとは……。
ノーアルのほうが、マシだったな……。
思えば、あいつはかなり有能だった。
それに、俺のことを、いつも心配してくれてたな。深酒をしたその日は、解毒の魔法をかけてくれたり。
天気を魔法で占ってくれたり、寒い日に家から帰ったら、暖炉で部屋を暖めてくれてたりと……。
「……わしは、まさか……トンデモナイ間違いをしたんだろうか……」
確かに、ノーアルのこと、わしは好きでは無かった。
でも……彼女からは、今思えば、夫であるわしへの愛情が感じられた。
そんな彼女を、虐げて、殺したのは……わしだ。
「…………」
今更後悔しても……遅い。もう……あいつは死んだのだ。
くそっ。
「今は過去のことより、未来のことだ……後悔してても仕方ない。とりあえず……金だ。金。なに……大丈夫だ」
にや……とわしは笑う。
「サイガ家には、希少な魔力結晶が採れる鉱山がある! 領民どもに急いで魔力結晶を掘らせて、それを売れば……なんとかアリアルが作ってしまった借金は返せる……」
バカ妻はともかく、アホとはいえわが娘の借金は、返さないといけないな。
頭がちょっとアレでも、それでも、わしの血を継いだ娘なのである。
……そりゃ、憎いさ。
あいつの頭に脳みそが入ってないせいで、二重帳簿がバレてしまったのだ。
……けど、元はと言えばあの子に、二重帳簿のことを告げてなかったわしも悪い。
だから……あの子の借金だけは、なんとかしてあげたい。
大丈夫。魔力結晶の鉱山があるかぎり、わしの家は安泰だ!
「た、大変でございますぅううううううううううううう!」
……執事が慌てて入ってくる。
もはや、嫌な予感しかしない。
「なんだ……!? また何かトラブルか!」
「左様でございます! 鉱山が……! 魔力結晶の鉱山が! 大雨により、土砂崩れを起こしました!」
……。
…………。
……………………は?
「はぁああああああああ!? ど、どしゃくずれだとぉおお!?」
「は、はい……突然の、謎の大雨と大嵐によって、鉱山が土砂崩れを起こし、だれも中に入れなくなってしまいました」
う、うそだろぉ……。
こんな時期に、大雨、大嵐だとぉ……?
「な、なんで雨期でもないのに雨が……?」
「さ、さぁ……。ただ、噂ですが、どうやら麒麟を見たとか、なんとか……」
麒麟……?
なんだそれは。わけわからない……。
「とにかく、大雨により鉱山は閉鎖。魔力結晶は……採れない状況にあります」
……まずい。
まずいまずいまずい! 大変……まずいぃいいいい!
魔力結晶の鉱山は、サイガ家の生命線!
貴重な財源!
それがなくなったら……この家は終わりだ!
「今すぐ! 採掘を再開しろ!」
「は!? いや、無理でございます! 土砂崩れをおこして、入り口が完全に閉鎖されたんですよ!?」
「入り口の土砂をどけさせろ!」
「無理です! 雨はまだ降り続いてるのです! こんな状況で作業なんてさせたら、死人が……」
「だまれぇ……! やれといったら、やれ! やらせるんだよぉ! 領民どもによぉ! あいつらはわしの奴隷なんだから、さっさと言うことを聞かせんかい!」
そうだ。領主にとって領民はどれいみたいなもんだ。
あいつらはわしの言うことを聞いて動く、駒でしかない!
「やらせろ! 今すぐ! 支払日はもうすぐそこまで迫ってるのだ!」
秘書は「わ、わかりました……やるだけやってみます……」と言って、出て行った。
ああ、くそ。くそ、くそぉお!
不運が続く……なんなんだ!
パリ……ポリ……。
「また……! まただ! またあの変な音が……! ああくそ!」
わしは立ち上がって、椅子を持ち上げて、ぶん投げる。
パリ……ポリ……。
「消えろ! うっとうしい音が! くそ! くそ! くそぉおおお!」
『ざまぁはつづく。でも、ここら。いったん。かめら。れい。もどす』
まだパリポリ五月蠅い音がするうううううううううううう!
『はたしてナッシー。どうなる。とーびーこんちにゅー』




