【Side】ナッシー・サイガ(レイの父) その3【★ざまぁ回】
わしはすぐさま、妻タリンノと、娘アリアルを執務室に呼び出した!
「おい! おまえたち! どういうことだ!」
ばんっ! とわしは執務机のうえに、請求書を叩きつける。
「こいつらと、浮気してたんだろう!?」
信じたくない、愛するものたちに、裏切られていたなんて……。
二人は「な、なんのことかしら……?」「あたししらなーい」という。
……そ、そうか。知らないか……。
いつものわしだったら、これ以上の追求はしなかったろう。
だが、こうして請求が送られてきてる以上、浮気があったのは恐らく事実。
「なあ、本当に知らないのか?」
「ええ! 知りませんわ! あたくしが、愛する貴方様を裏切るわけがないでしょう……?」
妻が潤んだ目でわしを見上げてくる。
「お願い、あたくしを信じて……」
……信じて、か。そうだよな。愛する妻の言うことを、信じてあげない夫がいったいどこにいるというのだ。
うん、そうだ。信じてあげよう。
と、思ったそのときだった。
「う゛……!」
「う?」
「おぇええええええええええ!」
妻が、その場で吐いたのだ!
「お、お母様いったいどうした……う、おぇええええええ!」
「アリアル!?」
妻と娘が、そろってふたりとも、青い顔をして吐いたのだ。
い、一体どうしたというのだ!?
「お、おい! 治癒師を呼べぇえ! 今すぐにだぁあ!」
わしはお抱えの治癒師を呼んで、妻と娘に治療を受けさせた。
その結果、驚愕の事実が判明する。
「なにぃい!? 妻と子が、に、妊娠してるだとぉおおおおおおおおおおお!?」
わしがいるのは、応接間。
治癒師がわしに告げたのは、二人の腹には子供が居るという。
……妻とはもう何年もベッドを供にしてない。
娘となんてもってのほかだ。となると……。
「貴様らぁあああああああ! やっぱり浮気してたんじゃあないかぁああああああああああああああああ!」
「「ひぃいいい! ご、ごめんなさいぃいいいいいいいいい!」」
こうして子供という、物的証拠がある以上、不貞があったのは事実……。
くそ! くそくそくそぉおおおおお!
「どうして!? 浮気なんぞしたのだ!」
「だ、だって……」
「だってもへちまもあるものか! くそ! くそぉ!」
最悪だ……。愛する女、それも二人同時に、裏切られるなんて……。
なぜだ?
特に、妻はなぜわしを裏切ったのだ……!?
「だ、だってあなた……その、小さくて……下手だから……」
「んなっ!?」
ま、まさか性行為のことを言ってるのか!?
なんたる侮辱! くそ! なんだこのクソ女!
「ぱ、ぱぱぁ……なんとかしてくれるよねぇ?」
アリアルが、そんな風にわしに助けを求めてくる。
「い、慰謝料……払ってくれるよね? だ、だってうち、お金持ちなんでしょ……?」
……確かに、わしらはお金持ち、だ。
けれど、この数の請求書、しかも一件ごと結構な金額を請求されてる。
全てを払ったら、うちは赤字になってしまう……。
が……。
「も、もちろんだ……大丈夫だよ、アリアル」
そう、あのクソびっち妻と違い、娘のアリアルは……違う。
わしを裏切った屑と違って、アリアルはわしの大事な娘。
娘に好きな男ができた、だから行為に及んでしまった、それだけだ。
わしを、裏切ったわけじゃあない。
「大丈夫だよ、アリアル。わしがおまえを守る。だから、わしを決して裏切らないでおくれよ?」
「もちろんよ、パパぁ……!」
さて……。
これからのことを考えねば。
とりあえず、浮気をしたことは、事実らしい。
知らぬ存ぜぬでは、通せなくなってしまった……が。
「まだ手はある……! おい治癒師!」
「なんでしょう?」
にやあ……とわしは笑って言う。
「二人の子供を、秘密裏に堕ろせ」
「!? だ、堕胎しろと!?」
「そういうことだ」
そう、子供をこっそり堕ろせば、子供(物的証拠)がないんだ、知らぬ存ぜぬで逃れることができる。
今までだって、わしはそうやって、言い逃れしてきた。
わしはどうにも、運が良いのだ。
特にまあ、レイが生まれたあたりからか、どんな悪事をしてもバレなくなったし、そういう言い逃れやすっとぼけが、運良く通用するようになったのである。
今回だって、子供という物的証拠がなければ、ごまかすことができる……はずだ!
「失礼する!」
ばんっ! と扉が開いた。
中に、騎士の青年がずかずかと入ってきたのである。
「な、なんだ貴様!?」
……ま、まずいぞ!
堕胎は……この国では、重大な犯罪だ!
しかし、おかしいぞ!?
「まだ堕胎は実行されていないのに、騎士がくるのはオカシイじゃあないか!」
騎士は「堕胎……? なんのことだ……?」と首をかしげる。
あ、あれ……? 違うのか……?
「サイガ伯爵、あなたには詐欺罪の疑いがかけられてる」
「なっ!? さ、詐欺罪……!? 何をバカな……」
騎士の青年は懐から、書類を取り出す。
そ、そそ、それはぁ……!?
「二重帳簿、です。あなたは帳簿を2つつけて、嘘の申告を、国にしていたのです」
た、確かに……わしは二重帳簿を付けていた。
だが!? 絶対にバレないように! わしの机の中に鍵をかけて、厳重にしまっていたはず!?
どうして、こいつが二重帳簿を持ってるのだ!?
「モブキシ……どうして貴方がここに……?」
「は……? あ、アリアル……この男を知ってるのか……?」
はっ、とアリアルが我に返り、首を横に振る。
「し、知りません!」
そ、そうか……騎士のことなんて知らなかったのか……。
「あたしが持ち出したそれが、そんな重要な書類だったなんて!」
……は?
も、持ち出した……? え、なに……? 嘘だろう……。まさか……。
「お、おお、おまえがわしの机から、帳簿を持ち出していたのか!?」
アリアルが青ざめた顔で黙ってしまった。
……くそ!
そういうことか!
この騎士に頼まれて、このバカ娘は、帳簿をわしの机から盗み出したのだ!!
そしてその帳簿がなんであるかも、それが明るみになったらどうなるかもわからずに、渡しやがったのだ……!
「なんたる愚行! なんてバカなことをしたのだ貴様ぁああああああああああ!」
「わ、悪いのはパパでしょぉ!? 悪いことしてたのはあんたじゃあないのよぉ!?」
「うるさいうるさい!」
くそくそくそぉおお!
最悪だ……! わしの愛していた女達が、わしを……裏切っていやがった……!
くそ、くそぉお!
「しかも堕胎までしようとしていたのですね」
「ま、待て! ちが……違うんだ!」
「もういい。話は後でじっくり、詳しく聞きます。連れて行け」
部下の騎士がわしをつかみ、そして引っ張っていく。
「離せ! 離せよぉお! ちくしょぉおおおおおおおお!」
どうしてこうなった!?
なぜ、こうも最悪のタイミングで、悪事がバレてしまったんだぁ……!?
ぱり……ぽり……。
また、あの何かを食べる音がする!
『ぜんぶ。おまえ。わるい。いんがおほー』
なんだ? だれだ!? だれの声なんだ!?
『ざまぁ。つづくよ。まだまだ。……びこーず。うち。げきおこぷんぷんまる』
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