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21 二ノ宮の宿命 4



「そういえば……あの忌み子は、いったい天神に何をしに来たんでしょうか」


 ぴくっ、とサトル様の表情がこわばる。


「忌み子……?」

「はい。黒髪の、背の高い……赤い目をした男がここにきて……二ノ宮様を襲ったんです」

「!? 本当か道真みちざね!?」


 こくんっ、と二ノ宮さんがうなずく。


「そうか……あいつは、一体なにしにきたんだ……?」


 あいつ……?

 やっぱり、サトル様は忌み子の正体に気づいてる……?


 一体だれなんだろう……。


「……あの人は、湯川天神で保管されていた宝剣を、盗んでいったんだ」

「二ノ宮の宝剣といえば……【あれ】か」


「……そう、あれ。大妖魔、八岐大蛇を殺したとされる、宝剣。【天羽々斬(アメノハバキリ)】」


「あめの……はばきり……」


 二ノ宮家が所有する宝剣を、忌み子は奪っていった……と。


「……何をするつもりなんだ、あいつは。天羽々斬(アメノハバキリ)……なんて持ち出して」

「……わからない。でも、あの人が妖魔と手を組んで、何かをしようとしてるのは確かだよ。鎌鼬も、あの人の命令で動いていたみたいだし」

「……そうか」


 ……疎外感を覚えた。

 忌み子の正体について、サトル様だけでなく、二ノ宮様もわかってる様子。


「あ、あの! だれなんですか……? いったい。天羽々斬(アメノハバキリ)を奪ったのは……?」


 サトル様は目を閉じて、小さく息をつく。


「……レイ。これは、一条家の問題だ。あいつは……うちが生み出した汚点であり、レイには……」


 無関係、そう言いかけた気がして……。

 私は、彼の手を握った。


「サトル様。そんな、寂しいことをおっしゃらないでくださいまし」

「レイ……」


「私は、一条家の人間です。あなたの、身内です。……そう思っているのは、私だけですか? ……だとしたら、悲しいです」


 思ったことを、素直に伝える。

 サトル様は「ずるいぞ、レイ……!」と本気で困ったような顔になる。


「そんなことを言われたら……俺は、隠し事できないじゃあないか」

「隠し事なんて、しないで。私はあなたの花嫁なんです。あなたを支えるのが、私のしたいことなんです。……ね、お願いします。サトル様。どうか、教えてくださいまし」


 サトル様は考え込むも、はぁ……と大きくため息をついた。


「そうだな。レイ……。もう、おまえには教えておく必要があるかもしれないな」


 サトル様はきゅっと抱きしめる。


「ああ、レイ。それにしても……一条家の人間としての自覚が芽生えてきたんだな。俺は、うれしいよ」

「そういうの良いんで、早く教えてくださいませ」

「あ、ああ……」


 うぉほんっ、とサトル様が咳払いをする。


天羽々斬(アメノハバキリ)を盗んだやつは、俺の身内だ」

「身内……?」


「俺の父、一条 家嗣いえつぐだ」

「!? 家嗣いえつぐ……お父様が……?」


 そんな……。

 どうして、一条家の人間が、同じ五華族の所有する宝剣を、盗んだりするんだろう……?


「……一条家は、ずいぶん前に、家嗣いえつぐを追放してる。異能社会において、やつは最大の戦犯とされてる」


 二ノ宮様の表情も険しい。

 嫌悪感を、あらわにしてる。


「最大の戦犯……? いったい、家嗣いえつぐ様は……」

「レイ。様なんて付けなくて良い。あいつは……敬意を持って接しなくて良い相手だ」


「どうして……?」


 サトル様はぎゅっ、と唇をかみしめた後、言う。


家嗣いえつぐは、俺の母を殺した」

「!? 守美すみさんを……? そんな……! どうして!?」


 家嗣いえつぐ様……家嗣いえつぐ氏は、サトル様のお父さま。

 ということは、母である守美すみ様の、配偶者。夫ということ。


 どうして、夫である彼が、守美すみ様を殺さないといけないの……?


『それについては、わたくしが直接、説明しますわ』

「!?」


 守美すみさまの、お声が……私の脳内に直接響いてきた。


『レイさん。サトルを連れて、一度わたくしの元へきてくださいませ。そのときに、全てを語りましょう。一条家の汚点、家嗣いえつぐの……悪行を』


 守美すみさんは……霊亀。

 サトル様のうちに、潜んでいる。


 サトル様は守美すみさんが中にいることを、知らない。

 

「とにかく、家嗣いえつぐが何かを企んでいるのは事実。天羽々斬(アメノハバキリ)を装備したやつは、最凶だ」


 家嗣いえつぐ様の力、そして天羽々斬(アメノハバキリ)の力。

 どちらも……私は知らない。でも、サトル様たちが焦ってるのがわかる。


「すぐに極東五華族をあつめ、対策会議を、極東王のもとで行わないと……」

「あ、あのっ! サトル様!」


 私はきゅっ、と彼の腕を掴む。


「どうした? 悪いが、今忙しくて……」

守美すみさんが、呼んでます」

「は……? いったい何を……?」


守美すみさんが、あなたのお母様が、あなたと私を呼んでいるのです。……あなたの中から」

「は……? は……!? な、何を……いって……」


 そのときだった。

 私と彼を包み込むように、巨大な結界が出現したのだ。


「こ、これは……!? 結界!? サトル様が……」

「いや違う! この霊力は……母の!? いや、まさか……」


 結界が私たちを包み込むと……カッ、と強く光り輝く。

 ……私たちはそろって、気を失うのだった。

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