表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/252

18 二ノ宮の宿命 1



 湯川天神での出来事から数日。

 私は、また神社へとやってきていた。


「ややっ! あなた様は、レイ殿ではありあせぬかっ!」


 神社の外で、早太郎様がホウキがけをしていた。

 私を見やると、ぶんぶん! と尻尾を激しく揺らしながら、駆けつけてきた。


「こんにちは」

「こんにちは! 来るのをずっとお待ちしておりましたぞー!」


 ……ずっと?


道真みちざね様に会いにきてくださったのですか!」

「そ、そうですけど……」


「うぉー! それは感謝でございまする! さ、中へどうぞどうぞ!」


 どうして、この御方から、こんなにも歓待を受けてるのだろう……私……?

 また何かしてしまったのかな……。


 階段を上り終えて、鳥居をくぐる。

 またも、豪雨が襲いかかってきた。


「申し訳ない。雷神・道真みちざね公の力のせいで、結界内はずっとこんな感じでして」


 二ノ宮家当主、二ノ宮(にのみや) 道真みちざねさまのうちには、雷神とよばれる神霊が住んでいる。

 雷神の力を、二ノ宮さまは制御できて折らず、結果、こうして悪天候を招いてるそうだ。

 そして、このせいで、結界の外に出れないとのこと。

 外に出た途端、雷神の力が拡散してしまい、東都全体に雷雨を招くのだそうだ。


「ということは、彼はずっと神社のなかで生活してるんですね」

「そうでございまする。それは、彼の一族……二ノ宮家の宿命なのです」


 宿命……か。

 二ノ宮の家は、雷神を代々引き継いできたそうだ。


 ということは、道真みちざね様以外のかたも、ずっと、神社から出れずにいたということ。

 ……なんとも、悲しい運命の中にいる、一族だなと思った。


 だからこそ……。


「して、レイ殿」


 早太郎様が札を取り出し、宙に投げる。

 札を中心として結界が展開され、そこだけ、雨が降らないでいる。


 笠の代わりなのだろう。便利だ。

 私たちは社へと向かって歩く。


道真みちざね様に、どんなご用時で会いに来たのですか?」

「実は、彼に異能制御の力を……」


 そのときだ。


「よぉ」

「え……?」


 目の前に、いきなり、一人の男が現れたのだ。

 黒髪の、背の高い男だ。


 ……あまりに、突然に、その男は出現したのだ。

 そして……その人からは陽の気も、そして……邪気も、感じられない。


 それなのに、私の心が……ざわつく。

 まるで、妖魔を前にしたかのように。


「おまえがサトルの花嫁か」


 低い、バリトンボイス。

 その男の声は……聞いてるだけで、心が……ざらつく。


 殺意も、敵意も、邪気も、感じられない。

 ……気持ち悪い。そんな印象を受ける。


「へえ、凄いな。おまえ、【零の忌み子】たるおれの気配を感じ取れるのか」

「ぜろの……いみご?」


 にっ、と男が笑う。


「ま、今日は顔合わせだ。やり合うつもりはない」

「…………」

「じゃあな」


 ひらひら、と黒髪の男は手を振って、その場から立ち去ろうとする。


「【霊亀】!」


 私は、霊亀の結界で、その男を捕らえた。


「いきなり何するんだ? 嬢ちゃん」

「ここは神有地しゆうちです。二ノ宮の当主の許可がないと、入れない場所です」


「ほぉ。で?」

「早太郎様は、あなたを客として入れてないようです」


 そう……早太郎さんは、ずっと振るえてる。

 下を向いて、かちかちと……歯を鳴らしてる。目の前のこの人に、怯えてるのがわかった。


 そんな人が、客人であるわけがない。


「なるほど。さすがだな。複数異能を所有してるだけでなく、勘も鋭いわけだ。サトルにはもったいないくらいの、良い母体だな」


「さっきから……サトル様のことを、気安く呼んで。あなたは……一体だれなんですか?」


 彼はニヤッと笑う。


「いずれわかるさ」


 そう言って、彼は……跳んだ。

 早すぎて、早太郎さんの異能がなかったら、目で追えなかった。


「!? 結界を……すり抜けた!?」


 私の張った霊亀の結界を、彼は、素通りしたのである。

 それどころか、神有地しゆうちに張られた結界すら、通り抜けていた。


「零の忌み子たるおれに、霊力による異能攻撃は通じねえよ」

 

 男は懐から、一本のクナイを取り出す。

 忍び、と呼ばれる人たちが使う、小型のナイフのようなものだ。


 男はクナイを振る。

 すると……。

 ずおぉおおおおおおおおおお!


「! 天神を覆う結界が! 破られた……!?」


 神社を覆う結界が破られたことで、雷雲が、どんどん広がっていく。


「じゃあな、花嫁さん。いずれおれのところに、結婚の挨拶に来いよ」

「何言って……」


 ふっ、と男は音もなく消えてしまった。

 ……早すぎて、今度は早太郎さんの異能を使ったとしても、動きを目で追えなかった。


「! 早太郎様! 大丈夫ですか!」


 振るえてる早太郎様の背中をさする。

 呪禁じゅごんを発動し、陽の気を彼に流す。


「だ、大丈夫……でござい……ます」


 全然大丈夫に見えない。彼は全身から汗をかいて、ブルブル……と振るえていた。


「レイさま……早く、社の中へ」


 自分が大変な状態にいるというのに、彼は……社を指さす。


道真みちざね様のもとへ。血の……匂いがします」

「! わかりました!」


 この土砂降りのなか、彼を放置するのはためらわれる。

 でも……道真みちざね様が危険な状態にいるのかもしれないのなら、先にまずそちらを対処しないと。


 私は急いで社へと向かう。

 がらっ、と木戸あける。


「! 道真みちざね様……!」


 彼は、社の中で大の字になって、倒れていた。

 彼の体は、右肩から袈裟に、切りつけられており、大量出血を起こしていた。


 頭で考えるより先に、体が勝手に動いていた。

 彼の元へ向かい、呪禁じゅごんを発動させようとする。


「……め、だ」

「え?」

「駄目だ……ぼくに、触れるな。君に……ふうんが訪れる」


 彼の忠告を聞かず、私は彼の患部に手を当てて、呪禁じゅごんを発動させる。


道真みちざねさま、大丈夫です! すぐに、良くなりますからね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ