【Side】早太郎(二ノ宮家の家臣)
それがしの名前は早太郎。
二ノ宮の家に仕える家臣であり、この湯川天神の狛犬であります。
それがしの使命は、二ノ宮の家に生まれる男児のお世話係。
この家が代々まつってきてる妖魔は、【雷神・道真公】。
かつて極東に厄災を振りまいた、怨霊の一画にして、その後にまつることで、悪鬼を退ける守護神となったもの。
かの雷神をその身に宿す二ノ宮の家の男児達は、皆、他者から感謝される一方で、煙たがられてきた。
当然だ。
内に潜む雷神の力は、妖魔や呪いを退ける一方で、落雷を呼び人を、大地を、ふれるもの全てを傷つける。
二ノ宮の当主として生まれてきたものたちは、皆、この湯川天神から一歩も出れないで居る。
彼らの持つ雷神・道真公の力は強力。
それゆえ、この神有地に張られた結界から、一歩も出れないのである。
……道真さまもまた、雷神の力を受け継いで生まれ、この神社から一歩も出れない体になった。
一方、みな雷神の力を恐れ、彼に近づかなくなった。
彼の元に来るのは、お祓いをしてもらいにくる人たちだけだ。
悪霊に取り憑かれた、呪われた、そんな人たちが、道真さまに頼ってくる。
彼の持つ雷神の力と、卓越した剣技があわさることで、彼は呪いを剣で祓うことができた。
……呪いを祓い、取り除く。それの力をもとめて、だれもが彼の元を訪れる。でも……呪いが解けたら、それきり。
雷神を恐れて、遠ざける。
それがしは……そんな道真さまが、不憫でしょうがなかった。
人々のために、頑張っているのに、だれからも感謝されてないで居る。
……道真様は、あまり感情を表に出すのが得意ではない。
口の悪い人たちは、道真さまのことを、何考えてるのかわからないやつとそしる。
……ふざけるな。
道真様は、その身に厄神を宿らせても、腐ることことなく、人々の安寧のために力を振るっているというのに。
……ああ、誰か。彼を理解してくれる、いい人はいないだろうか……。
ずっと、そう思っていた。そんなとき、彼の元に一条家の当主が尋ねてきた。
彼もまた、呪いを祓って貰いにきたのかと思った。でも、違った。
彼は、道真さまに剣の稽古をつけてほしいと言ってきたのだ。
……それがしも、そして、道真さまも大いに驚いていた。
呪いを祓って欲しいと頼まれる機会はあれど、剣の指南をうけにきたものは、いなかったからだ。
どうして、と道真様は尋ねる。
すると「おまえは剣の天才だからな」と、道真さまをお褒めになられた。
……道真様は、凄く、喜んでいるのが、それがしにもわかった。
それがしもまた、うれしかった。彼の剣技は、努力によって身についたモノだ。
それを褒め、評価してくれた。一条の当主は、わかってるなと、それがしは思った。
そして……一条家の花嫁。
彼女には、一条悟以上に、驚かされた。
道真さまは、口下手なおかただ。
だから、少し話しただけで、皆、道真様に腹を立てて去っていく。
一条悟ですら、怒っていた。でも……レイさまは違った。
きちんと、道真様の言葉の裏の意味を、正しく理解してくださっていた。
そもそも、彼に近づくものは少ないというのに。
彼の言ったことを、百%正しく理解できるものなんて、それがし以外に居ないと思っていた。
……ちょっと、いや、かなり……嫉妬してしまった。
道真さまの理解者は、自分だけだと思っていたから。
うれしくもあり、けれど、悔しくもあった。神霊であるそれがしでは、人間である道真さまのことを、真の意味で理解できないから。
……そして、一条悟とレイさまが帰ったその日の夜。
「……ねえ、早太郎」
道場にて、道真様が、それがしに話しかけてきたのだ。
「……レイ。また来てくれるかな」
「!? また、会いたいのですか?」
「……うん。会いたい。もっと、おしゃべりしたい。……会えるかな?」
……ああ、なんと。
道真さまが、おなごに興味を持つ日がくるなんて……!
「来ますとも!」
来なくても、なんとかして、来てもらえるように、それがしが努力しよう。
道真様は、本当にうれしそうに、笑う。
……ああ、レイさま。どうしてあなたは、一条家に嫁いでしまったのですか?
二ノ宮の家に来て欲しかった。あなたのように、心の美しい、お優しい御方に……。
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