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【Side】四月一日 しき(四月一日 花嫁)



 わたくしは、四月一日わたぬき しきと申します。

 表向きは、四月一日わたぬき家当主、百春さまの花嫁。


 しかしその実態は、屍鬼しきの異能を持ち、1000年の時を経て現代に蘇った……家無き子。


 動く死体。それが、わたくしだった。

 1000年の時間経過によって、周りはすっかり様変わりしていた。


 街も、人も、わたくしの知るものは一つも無かった。

 あまりの孤独に耐えられず、わたくしは……寂しくて、胸が張り裂けそうになった。


 そんなわたくしを、拾ってくれたのが、百春さまだ。

 何故拾ってくれたのか聞いたことがある。


『だって屍鬼しきの異能に、興味あったからね! 動く死体ってどういうことっ!?』


 純粋な好奇心。それ以外に、わたくしを拾ってくれた理由は無かった。

 ……でも、わたくしはうれしかった。こんな、気持ち悪い体の存在を、側においてくれた、百春さまにとても感謝している。


 ……感謝は、してる。

 でも……わたくしは、寂しかった。本当のわたくしを知る人が、この世に誰も居ない。


 親兄弟は1000年前に、すでに死別している。

 現代において、わたくしを人間では無く、動く死体であることを知ってるのは……百春さまだけ。


 ……寂しい。

 いけない。わかってる。高望みしすぎだ。


 百春さまに偶然で会えただけで、とても幸運なことなんだ。

 これ以上の幸運を、望んでは……いけない。そう思っていた。


 そんなある日……わたくしは出会ったのです。

 レイさまに……。


    ◇◇◇


 レイさまが輪入道を撃破したあと、一度極東城の治療室へと、一条さまたちは運ばれた。

 城へ戻ると、すぐさま、百春さまがすっ飛んできた。


 わたくしをぎゅっと、抱きしめてくださった。


「しき! 無事で何よりだよ! ……しき?」


 ……普段のわたくしなら、百春さまに心配してもらえただけで、うれしい。

 けれど、この日のわたくしは、なんだかボンヤリしていた。


 ずっと……頭の中には、お友達である、レイさまがいた。


「おーい、しき? しーきー?」

「はっ! す、すみません……お父様」


 科学班の研究室にて。

 わたくしと百春さまは二人きり。


 さっきまで、わたくしは百春さまの異能、【百目】によって、体の隅々まで調べられたのだ。


「どうしたのさ、ボンヤリして。生者の体になったことによる、不具合かい?」

「わかりません……」


「わからない?」

「はい……なんだか、さっきからずっと、レイさまのことばかり……考えてるんです」


 レイさま。

 わたくしの正体、屍鬼しきの異能によって動く死体だと知っても……。


 彼女は、わたくしのことを、拒まなかった。忌避しなかった。

 ……その上で、友達って言ってくれた。


 そう、友達……。


「ははん、それはね……しき。君……レイくんに恋いしてるねっ!」


 ………………へ?


「こ、恋……ですか……?」


 いや、そんな。まさか……。

 

「だって……相手は、女性……ですわ?」

「おまえがいったんだろぉ~? しき~? その人のことを考えると、胸がキューっとなる。ぼーっとしてしまう。それが恋いだってさー」


 た、確かに……前に、そんなことを言ったような……。

 百春さまが、レイさまに恋なさってるのは、明白だったから。


 え、え、え?

 つ、つまりわたくし……。


 お、お父様と同じおかたに、恋してるってこと!?

 し、しかも……相手が女性なのにっ!?


「わ、わたくし……駄目な子です」

「駄目な子?」


「はい……だって、お父様と同じ方を好きになってしまいました……。しかも女性……。この恋いは、禁断の恋ですわ……」


 すると百春さまは、ニコッと笑う。


「いいね!」

「は……? え、いいね……?」

「うん! 禁断の恋い……いいじゃあないかっ」


 百春さまが近づいてきて、わたくしの手をそっと握る。


「しき。ぼくは君の恋を応援するよ」

「で、でも……相手はお父様の好きな人で、しかも女性ですよ……?」


「それのどこに、問題があるというんだい?」

「せ、世間が許してくれるないです……」


「世間の目? そんなもの気にしなくて良い! 大事なのは……自分の思い。そうだろう?」


 ……!

 た、確かに……そうかもしれない。


「人の目ばかりを気にして、本当の気持ちに蓋をするのは……いけないよ。思うがままに、我が道を進む! それが四月一日わたぬき家の人間の生き方さ、しき!」


 ああ、百春さま……なんと、お優しい。

 世間では、百春さまは、心ない人だの、マッドサイエンティストだのと、酷い呼ばれかたをしてる。


 でも……それは間違いだ。

 だって……百春さまは、こんなに優しい。


「恋……わたくし、レイさまに……友情ではなく、恋心を抱いていたのですね……」


 なんだか、だんだんそんな気がしてきましたわ。

 そうだ。百春さまの言ってるとおり。


 好きだから、レイさまのこと、ズッと考えてるんだ。頭がぽーっとなるのは、あの人のことが、好きだから。


「ああ、どうしましょう……わたくし、男同士の恋愛も、女同士の恋愛もいける……存在になってしまいましたわ……! 世間がこんなわたくしを許してくれるでしょうか……」

「いいじゃあないか! 人の目なんて、気にしない気にしない!」


「はいっ、百春さまっ!」


 百春さまに、相談して良かった。

 わたくし……危うく、自分の本当の気持ちに、気づかずに終わってしまうところでしたっ。


 レイさま……お慕い申しております……。

 サト×モモカプと、同じくらい。


「しかし死者を蘇らせるなんて、いよいよもって、レイくんの力が神のレベルに達してきた証拠だろう。ますます強くなるな彼女は……。一方でサトルくんはまだまだだな。輪入道ごときに足を掬われるなんて……」

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『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
あら千年前ってお堅いのね。こっちじゃ全然アリよ とか 男の人は男の人、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの とかの台詞が思い浮かんできました
>「ああ、どうしましょう……わたくし、男同士の恋愛も、女同士の恋愛もいける……存在になってしまいましたわ……! 世間がこんなわたくしを許してくれるでしょうか……」 ( ̄▽ ̄)あー「動く死体」が「腐った…
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