12 屍の鬼 4
……しきさんは、屍鬼の能力者だと言った。
屍鬼……。たしか、武良水木妖怪図鑑に、こう書かれていた。
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屍鬼
→死体妖魔の一種。死体が、長い年月を経ても腐乱すること無く動き回るもの。
別の大陸ではキョンシーとも呼ばれている
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「屍鬼の異能は、死後復活し、動き回れるというもの……。わたくし、実はこう見えて、1000年前の人間なのですわ」
「!? せ、1000年……」
「ええ。死んで、次に目を覚ましたら……わたくしは、この時代だったんですの」
つまり、死後、1000年の眠りについて、そして屍鬼の異能が発動し、意識を取りもどしたと。
「わたくしの体は……死体ですの。だから……足がちぎれても、痛みは感じませんし。人のぬくもりも。それに……血も流れていない」
ちぎれた足からは、血の一滴も漏れていない。
それは彼女の今の体が死体だから……。
死体だから、痛みも感じず、死ぬことも……ない。
……それって、なんて……。
「レイさま?」
「ひぐ……ぐす……可哀想……」
なんて、かわいそうなんだろう。
しきさん……ツラかっただろう……。
だって、目が覚めたら、1000年後だなんて。
その時点で、ツラすぎるし……。
痛みもなく、死ぬこともない。それって……生きる喜びを、味わうことができないってことだもの。
「レイさま……まさか、わたくしのために、涙を流してくださってるの……?」
「ひぐ……ぐす……はい……」
私は、しきさんのもとへ近づいて、抱きしめる。
「わたくしが……怖くないのですの? 動く、死体……なのに……」
「違う! しきさんは……しきさんです!」
「!」
……ああ、どうしよう。
どうしたら、しきさんは……幸せになれるんだろう。
生の喜びを感じられないなんて……ツラすぎる。
『れい。だいじょーぶ!』
そのとき、頭の中に、幸子ちゃんの声が響いた。
『うち。いる。饕餮、いる! だいじょうぶ! れい……不運。否定できる!』
……! そうか。幸子ちゃんに、饕餮さんがいるなら。
もしかしたら……!
「レイさま?」
「しきさん。私に……身を委ねてもらえませんか? あなたの不幸を、どうにかできるかもしれないんです」
かもしれない、では、ない……!
私は……しきさん……友達の不幸を、否定したい。
「どうして……? そこまで……?」
「あなたと、友達に……なりたいから」
「友達……」
じわ……としきさんの目に涙が浮かぶ。
「お願い、しきさん。私に任せてくれないですか?」
「はい……わかりました。お願いします……」
しきさんの許可はもらった。あとは、試すだけだ。
「【饕餮】!【幸子】ちゃん!」
私は、まずしきさんの額に、自分の額を重ねる。
そして……異能殺しの応用、異能制御能力を、相手に付与する。
望む通り、ことが進むかは、かけだ。
でも、賭けの勝負で、私が負けることは絶対にない。
なぜなら。
『だいじょーぶ! うちが、ついてるから……!』
カッ……! と強い光が周囲を照らす。
……そして、光が収まると……。
「うう……はっ! あ、足が……足が生えてますわ!」
ちぎれていたはずの、しきさんの足が、元通りになってる。
それだけでは、ない。
私はしきさんの胸に、耳を重ねる。
とくん……とくん……。
「よかった……しきさん、死体じゃなくなりました」
「!? ど、どういう……こと……?」
私は、説明する。
「しきさんに、二つのことをしました。異能制御の力を付与したのと。それと……呪禁の力……陽の気を一気に流しました」
屍鬼の異能は、死体を腐敗せず、動かすこと。
つまり、死体の状態は、死んだ直後と同じ(腐っていない)。
体の機能は、生者のそれと同じなのだ。
なら……生き返らせることが、できるのではないかと思ったのだ。
陽の気を一気に吹き込み、体を活性化させる。
死体ではなくなるので、屍鬼の異能が発動しなくなるかもしれない(屍鬼は死体を操作する能力)。
そこで、異能制御を付与して、死体操作の異能を、レベルアップさせた。
死体操作から、元死体操作へと。
「そんな、へりくつが……通用するなんて……」
「そうですね。へりくつです。失敗する可能性のほうが高かった。でも……」
私は自分の胸に手を当て、目を閉じる。
脳裏に、幸子ちゃんがいて、笑顔でピースしていた。
「私には、幸運の女神さまがついてますので」
幸子ちゃんの異能のアシストもあって、私の望む展開に、物事が転がったのだ。
不運を、否定したのである。
「わたくし……生きてる……生きて、ますの……?」
しきさんが自分の心臓に手を当てる。
動いてる心臓を、感じてるのだろう。
じわ……としきさんが目に涙を浮かべる。
私は……ハグしてあげた。悲しいときは、こうしてあげるのが、一番だって、知ってるから。
私も……そうしてもらってきてたから。
「ああ……温かい……レイさま……これが、人のぬくもりなのですね……」
「そうですよ。しきさん」
ぎゅっ、としきさんが私を抱き帰してくる。
「レイさま……ありがとう……うう……」
「どういたしまして。それと……さま、なんて付けなくて良いですよ。だって、私たち友達ですから」
しきさんが顔を離して、ニコッと笑う。
「うんっ。レイさん、ありがとうっ!」




