表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/252

12 屍の鬼 4


 ……しきさんは、屍鬼しきの能力者だと言った。


 屍鬼しき……。たしか、武良水木妖怪図鑑に、こう書かれていた。


~~~~~~

屍鬼しき

→死体妖魔の一種。死体が、長い年月を経ても腐乱すること無く動き回るもの。

別の大陸ではキョンシーとも呼ばれている

~~~~~~


屍鬼しきの異能は、死後復活し、動き回れるというもの……。わたくし、実はこう見えて、1000年前の人間なのですわ」


「!? せ、1000年……」


「ええ。死んで、次に目を覚ましたら……わたくしは、この時代だったんですの」


 つまり、死後、1000年の眠りについて、そして屍鬼しきの異能が発動し、意識を取りもどしたと。


「わたくしの体は……死体ですの。だから……足がちぎれても、痛みは感じませんし。人のぬくもりも。それに……血も流れていない」


 ちぎれた足からは、血の一滴も漏れていない。

 それは彼女の今の体が死体だから……。


 死体だから、痛みも感じず、死ぬことも……ない。

 ……それって、なんて……。


「レイさま?」

「ひぐ……ぐす……可哀想……」


 なんて、かわいそうなんだろう。

 しきさん……ツラかっただろう……。


 だって、目が覚めたら、1000年後だなんて。

 その時点で、ツラすぎるし……。


 痛みもなく、死ぬこともない。それって……生きる喜びを、味わうことができないってことだもの。


「レイさま……まさか、わたくしのために、涙を流してくださってるの……?」

「ひぐ……ぐす……はい……」


 私は、しきさんのもとへ近づいて、抱きしめる。


「わたくしが……怖くないのですの? 動く、死体……なのに……」

「違う! しきさんは……しきさんです!」

「!」


 ……ああ、どうしよう。

 どうしたら、しきさんは……幸せになれるんだろう。


 生の喜びを感じられないなんて……ツラすぎる。


『れい。だいじょーぶ!』


 そのとき、頭の中に、幸子ざしきわらしちゃんの声が響いた。


『うち。いる。饕餮とうてつ、いる! だいじょうぶ! れい……不運。否定できる!』


 ……! そうか。幸子ちゃんに、饕餮とうてつさんがいるなら。

 もしかしたら……!


「レイさま?」

「しきさん。私に……身を委ねてもらえませんか? あなたの不幸を、どうにかできるかもしれないんです」


 かもしれない、では、ない……!

 私は……しきさん……友達の不幸を、否定したい。


「どうして……? そこまで……?」

「あなたと、友達に……なりたいから」

「友達……」


 じわ……としきさんの目に涙が浮かぶ。


「お願い、しきさん。私に任せてくれないですか?」

「はい……わかりました。お願いします……」


 しきさんの許可はもらった。あとは、試すだけだ。


「【饕餮とうてつ】!【幸子】ちゃん!」


 私は、まずしきさんの額に、自分の額を重ねる。

 そして……異能殺しの応用、異能制御能力を、相手しきさんに付与する。


 望む通り、ことが進むかは、かけだ。

 でも、賭けの勝負で、私が負けることは絶対にない。


 なぜなら。


『だいじょーぶ! うちが、ついてるから……!』


 カッ……! と強い光が周囲を照らす。

 ……そして、光が収まると……。


「うう……はっ! あ、足が……足が生えてますわ!」


 ちぎれていたはずの、しきさんの足が、元通りになってる。

 それだけでは、ない。


 私はしきさんの胸に、耳を重ねる。

 とくん……とくん……。


「よかった……しきさん、死体じゃなくなりました」

「!? ど、どういう……こと……?」


 私は、説明する。


「しきさんに、二つのことをしました。異能制御の力を付与したのと。それと……呪禁じゅごんの力……陽の気を一気に流しました」


 屍鬼しきの異能は、死体を腐敗せず、動かすこと。

 つまり、死体の状態は、死んだ直後と同じ(腐っていない)。


 体の機能は、生者のそれと同じなのだ。

 なら……生き返らせることが、できるのではないかと思ったのだ。


 陽の気を一気に吹き込み、体を活性化させる。

 死体ではなくなるので、屍鬼しきの異能が発動しなくなるかもしれない(屍鬼しきは死体を操作する能力)。


 そこで、異能制御を付与して、死体操作の異能を、レベルアップさせた。

 死体操作から、元死体操作へと。


「そんな、へりくつが……通用するなんて……」

「そうですね。へりくつです。失敗する可能性のほうが高かった。でも……」


 私は自分の胸に手を当て、目を閉じる。

 脳裏に、幸子ちゃんがいて、笑顔でピースしていた。


「私には、幸運の女神さまがついてますので」


 幸子ちゃんの異能のアシストもあって、私の望む展開に、物事が転がったのだ。

 不運を、否定したのである。


「わたくし……生きてる……生きて、ますの……?」


 しきさんが自分の心臓に手を当てる。

 動いてる心臓を、感じてるのだろう。


 じわ……としきさんが目に涙を浮かべる。

 私は……ハグしてあげた。悲しいときは、こうしてあげるのが、一番だって、知ってるから。


 私も……そうしてもらってきてたから。


「ああ……温かい……レイさま……これが、人のぬくもりなのですね……」

「そうですよ。しきさん」


 ぎゅっ、としきさんが私を抱き帰してくる。

「レイさま……ありがとう……うう……」

「どういたしまして。それと……さま、なんて付けなくて良いですよ。だって、私たち友達ですから」


 しきさんが顔を離して、ニコッと笑う。


「うんっ。レイさん、ありがとうっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ