11 屍の鬼 3
私たちを乗せた自動車が、夜の東都を走っていく。
大丈夫だろうか。夜は、妖魔がでる時間帯。
襲われたりしないだろうか。
……ううん、大丈夫。だってサトル様がついてるのだから。
絶対大丈夫。
それに、もし妖魔に襲われたとしても、彼なら守ってくれる……。
と、そのときだった。
ガクンッ……!
……視界が、反転した。
「へ……? きゃああああああああああああああ!」
自動車が、宙を舞っている。
なにが……おきて……いや、事故!
まずい……!
「【幸子】ちゃんっ!」
ザシキワラシの異能、レベル2。
運命操作を発動する。
車は何回か空中で回ったものの、どしん……! と音を立てて、正しい位置で着地する。
「はあ……はあ……皆さん! 無事ですか!?」
隣に座るサトル様の肩を揺する。
外傷は見られない……けど。
「サトル様!? サトル様……!!!!!」
い、いくら呼びかけても、目を覚まさない!
打ち所かわるかった……?
異能が不発に終わった……? そんな……。
「レイさま!」
助手席に座っていた、しきさんが声を張り上げる。
「妖魔が外にいますわ!」
「!?」
しきさんが叫ぶと同時に、車からでる。
私もまた外に出る。
『まったく……悪運の強い女だなぁ……』
……炎に包まれた、巨大な車輪があった。
その中央に、顔が着いてる。
「輪入道ですわ! 人を殺し、その魂を奪い、己の炎として取りこむ……残忍な大妖魔ですわ!」
しきさんが私の前に、守るようにして立つ。
魂を、奪う……!
そんな……。まさか……
『一条悟。うわさには聞いていたが、なるほど。【イエツグ】の言うとおりの雑魚だなぁ』
雑魚……。
雑魚、ですって……。
「サトル様を、馬鹿にしないで……! この人は強いんです!」
『ぐははは! 女に庇われるなんて、情けないなぁ、え、一条悟よぉ』
……サトル様は自動車の中にいて、ぴくりとも動かない。
朱乃さんもだ。
輪入道に魂を取られてしまった、と考えるのが妥当だろう。
……でも、わからないのは、私、そしてしきさんがどうして無事なのか……。
『さすが、妖魔の魂を3つも持つもの。……魂の総量が多いから、一度に奪えないのはわかる。……が! そこの女はどういうことだ?』
輪入道がしきさんをにらみつける。
「サトル様と、朱乃さまの魂を今すぐに帰しなさい、妖魔よ!」
『ぐはは……! はいそうですかと帰すものか。まあいい! 貴様らをころし、その魂を奪わせて貰おう!』
輪入道が回転しながら、こちらへとツッコんでくる。
炎の熱、そして……妖魔の殺気に、足がすくみそうになる。
死が……目前に迫ってる。
「危ない!」
ドンッ……! としきさんが私を突き飛ばす。
「しきさん……!」
しきさんの足を、輪入道が牽く。
ぐしゃりと、足が車輪にひかれて、ちぎれる。
ああ、そんな……! 足が……!
「すぐに呪禁で直します……!」
「わたくしは大丈夫です! 今は……あの妖魔を倒すことに集中して!」
「でも……」
「サトル様と朱乃さまが、このままでは生き返らすことが永遠にできなくなりますわよ!?」
……そうだ。
私が、頑張らないと。
今この場には、私を守ってくれるひとはいない。
朱乃さん、そして……サトル様を、守ってあげられるのは、いない。
「…………」
私がやらないと。
『今度こそ……死ねぇえええええええい!』
輪入道がこちらにものすごいスピードでツッコんでくる。
私は手を前に突き出す。
「【鵺】! 【霊亀】!」
鵺さんの力で、サトル様から模倣した、霊亀の結界の力を使う。
『はは! 無駄だぁ……! おれの車輪は猿まねの結界なんて紙のように容易く引き裂けるぜえ!』
「動けたら……ね」
『なっ!?』
輪入道が、空中で止まっていた。
やつの顔面を中心として、車輪の内側に、球体状の結界が張られてる。
「あなたの車輪は、確かに脅威。でも……中央の顔の部分は回っていない。なら……そこを結界で包めばいい」
脅威なのはあくまで車輪の外側でしかないのだ。
中心を押さえれば、回転も止まる。
西の大陸にあった、魔法扇風機も、中心を止めれば回転が止まっていた。その理屈だ。
『ぐ……! くそ! 動けない……! なんだこの強力な結界術!? 猿まねでこの出力だと!?』
「【滅せよ】!」
バシュッ……! と。結界に包まれた、中央の顔の部分だけが破壊される。
車輪がからんっ、と地面に落ちる。
と、同時に、車輪の回りにまとわりついていた、無数の炎が、空中で四散する。
「【百目】」
百春様から模倣した、百目の異能を使う。
あの炎は、人の魂。そして、朱乃さんとサトル様の魂が、車の中へと戻っていった。
私は車の方へと向かう。
「すぅ……」「んん……」
サトル様と朱乃さんが、息をしていた。
奪われた魂が元に戻ったのだ。……よかっ、たぁ……。
死なずに、すんだ。本当に……本当に、良かった……。
その場に崩れ落ちそうになる私。けど、ぐっ、と我慢して、私はきびすを返す。
「しきさん!」
私はしきさんの元へと駆け出す。
輪入道によって、足を引きちぎられていた。
「すぐに呪禁を……!」
「大丈夫ですわ……これくらい」
しきさんはおきあがって、ニコッと笑う。
……不思議だ。
まるで、痛がってる様子がない。
額に脂汗ひとつかいていない。それに……。
「! しき……さん。血が……でてない……」
足の断面からは、赤い血が出ていないのだ。
血が出ておらず、足がちぎれても平然としてる。どうして……。
「わたくしは、【屍鬼】の異能者ですから」
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