表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/252

9 屍の鬼 1



 幸子ちゃんが帰ってから、しばらく経ったある日のこと。

 私は朱乃あけのさんとともに、淺草あさくさ六反園ろくたんその呉服店を訪れていた。


「はいよ、できたよー! レイちゃんっ」


 六反園ろくたんその 木綿ゆうさんが、店の奥から出てくる。

 使用人さんの手には、大きな包みがあった。


「木綿さん、作ってくださって、ありがとうございます」

「いーのいーの。おーい、朱乃~。おいでよ、レイちゃんからプレゼントだってぇ」


 外で見張りをしていた、朱乃あけのさんが、こっちへとやってくる。

 ……って、あれ?


朱乃あけのさん……と、あなたは……?」


 朱乃あけのさんの隣には、見知らぬ美女がたたずんでいた。

 灰白色の髪に、儚げな雰囲気の、綺麗な人……。


「なんだ、しきじゃん」

「しき?」

「そ。四月一日わたぬきしき。四月一日わたぬき家の花嫁」


 ということは……百春さんの奥様ってことだっ。

 私は居住まいを正して、頭を下げる。


「レイ・サイガと申します。百春さまには先日、お世話になりまして」

「ええ、主人から伺っておりますわ……ふふふ」


 柔らかく微笑む、しきさん。

 綺麗な人。


「今日、ご当主さまとお付きの美青年は、いらっしゃらないのですの??」


 サトル様と……多分、真紅郎さんのことを言ってるんだろう。


「今日は登城しております」

「あら、残念……。美少年当主×美青年執事のカプが見られないなんて……」


 ×? カプ……?


「しき~。あんた相変わらず腐ってるねぇ」

「腐る?」


 どういう意味なんだろう……?


「で、どうしたのさ、しき」

「主人に代わり、お歳暮を持って参りましたの」


 しきさんは持っていた包み紙を、木綿ゆうさんに渡す。


「そりゃどーも。百春はこういうのずぼらなのに、あんたはマメね」

「いつもお世話になってますので。サト×キチの幼馴染みカプで」


「うちの旦那でカップリング考えるのやめなよ!」

「腐腐腐……」


 えとえと……。


「お歳暮ってなんでしょう?」


 するとしきさんが答えてくださる。


「年末に、その年世話になった人などに贈り物をすることですわ」

「!?」


 そんな風習があったなんてっ。

 私……何も用意してこなかった……。


 木綿ゆうさんには、いっぱいお世話になってるのに……。


「あー、いいっていいって。レイちゃん。気ぃ使わなくていいよ」

「しかし! 一条家は、六反園ろくたんその家にお世話になってますし、木綿ゆうさんにも、たくさん!」


 お歳暮……用意しないとっ。

 でもどういうのが喜ばれるんだろう……。


「というか、レイさまはどうして、このお店に?」

「あ、鹿毛が手に入ったので、それを使ったマフラーを作って貰いにきたのです」


 使用人さんが、私の隣に、つつみを置く。

 しゅる……と包みをひらくと、そこには白いマフラーが何枚も入っていた。


「青白く発光する……白い毛皮。なんて、美しいのでしょう……」

「神霊からもらったんだってさ」


「なっ……!? 神霊から……ですの?」


 こくんとうなずく。

 先日、井氷鹿いひかさんから、いただいたのだ。


「これは……素晴らしいですわね。陽の気がこれだもかと込められてますわ。身につけてるだけで、雑魚妖魔くらいなら退けるほどですわ」


 そんな凄いものなんだ……。

 あ、そうだっ。


「しかし、数が多いですわね」


 木綿ゆうさんが持ってきたマフラーは、1本2本どころではない。


「黒服さんたち、全員分を作って貰ったんです」

「!? し、使用人に……? こんな、高価なものを……? プレゼントするんですの?」


「? ええ。何かオカシイですか?」


 しきさんは目をぱちくりしていた。

 一方で、木綿ゆうさんは苦笑し、しきさんの肩を叩く。


「レイちゃん、変わってるでしょ?」

「ええ……。でも、主人が気に入るのも、よくわかりましたわ」


 百春さまから、こないだ霊力測定に行った際に、興味を持たれることになったのだ。

 あのときプロポーズされたけど……。


 冗談、だろう。だってしきさんがいるんだし。


「マフラー人数分作っても、まだ井氷鹿いひかの皮残ってるよ。まだたっぷりね」


 人数分のマフラーを作ったのに、結構皮にあまりがあるようだ。良かった。


「じゃあ、それを」

「はい?」


木綿ゆうさんたち、六反園ろくたんその呉服店に、井氷鹿いひかさまの毛皮をプレゼントいたします。お歳暮です」


 木綿ゆうさんが固まってしまう。

 目をむいて、ぷるぷる震えてる。えと……。怒らせるようなことをしてしまっただろうか。

「お嬢様。神霊の毛皮が、いくらで取引されているか、ご存知ですか?」

「? いえ……」


「一億 えん

「…………はひ?」


 一億 えん……?

 百 えんで、パンが1つ買えるというのは、最近覚えたばかりだ。


「まさか……この毛皮一枚で、一億 えんもするなんて……」

「いいえ、お嬢様。一枚ではありません」


 朱乃さんが指を1本立ていう。


「1平方センチで、一億です」


 ……………………は、ひ?


「一平方……い、い、一億!?」


 毛皮は、たて100、横100くらいの大きさは、残っている。

 10000平方センチってこと。

 

 ……い、一兆……えん……。


「そもそも神霊の毛皮は、希少価値高すぎて、市場に回りません。しかも退魔魔属性に加えてこの美しさ。王族の花嫁衣装にも使われるほどの、超が100個あってもたりないくらいの、激レア品ですから」


 え、え、つまり私……一兆 えんを、木綿ゆうさんにぽんっと渡そうとしていたということっ!?


 そりゃ、木綿ゆうさんも驚くというものだ。

 ……けれど、木綿ゆうさんにはお世話になってる。六反園ろくたんその家とは、仲良くしていきたいし……。


「あの、木綿ゆうさん。」

「あ、う、うん。いいよ。帰して欲しいんだね。よかったぁ~。貰っても逆に……」


「差し上げます! お歳暮です」

「ちょっと待ったあああああああああああああああああ!」


 木綿ゆうさんがガシッ、と私の肩を掴む。


「駄目……!」

「しかし、いつもお世話になってますし……それに、木綿ゆうさんは友達だから……」


「いやもらえないって! これでもらったら、友達料徴収したみたいになるじゃんっ! 友達料 一兆 えんととか!? どこのお華族さまだよ! レイちゃん華族だけどもっ!」


 がっくんがっくん、と木綿ゆうさんが私の肩を揺すってくる。あわわ。


「で、でも……木綿ゆうさんには本当にお世話になってるし。それに、これもう家の人の分は作って貰ったので、余ってても仕方ないですし……」


 う~~~~~~んっ、と木綿ゆうさんがうなる。


「一部を六反園ろくたんその家に、残りを王家に献上するのはどうですの?」

「それっだぁあああああああ!」


 天啓を得たりとばかりに、木綿ゆうさんが、しきさんの提案をのむ。

 私としては、全部、木綿ゆうさんに上げてもいいのだけど……。


 一兆 えん渡されても、木綿ゆうさん困っちゃうようだし。

 なら……おっしゃるとおり、王家に献上したほうがいいかも。


 九頭竜くずりゅうさまと、りさと姫さまにも、大変よくしてもらってるわけだし。


「素晴らしい提案、ありがとうございます。しきさん」

「いえいえ♡ どういたしましてですわ♡」

【★☆読者の皆様へ 大切なお知らせです☆★】


新作の短編投稿しました!

タイトルは、


『転生幼女は愛猫とのんびり旅をする~「幼女だから」と捨てられましたが、実は神に愛されし聖女でした。神の怒りを買ったようですが、知りません。飼い猫(最強神)とともに異世界を気ままに旅してますので』


広告下↓にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!


リンクから飛べない場合は、以下のアドレスをコピーしてください。


https://book1.adouzi.eu.org/n1639jy/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
>「うちの旦那でカップリング考えるのやめなよ!」 >「腐腐腐……」 (´・ω・)これが貴腐人ですか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ