9 屍の鬼 1
幸子ちゃんが帰ってから、しばらく経ったある日のこと。
私は朱乃さんとともに、淺草の六反園呉服店を訪れていた。
「はいよ、できたよー! レイちゃんっ」
六反園 木綿さんが、店の奥から出てくる。
使用人さんの手には、大きな包みがあった。
「木綿さん、作ってくださって、ありがとうございます」
「いーのいーの。おーい、朱乃~。おいでよ、レイちゃんからプレゼントだってぇ」
外で見張りをしていた、朱乃さんが、こっちへとやってくる。
……って、あれ?
「朱乃さん……と、あなたは……?」
朱乃さんの隣には、見知らぬ美女がたたずんでいた。
灰白色の髪に、儚げな雰囲気の、綺麗な人……。
「なんだ、しきじゃん」
「しき?」
「そ。四月一日しき。四月一日家の花嫁」
ということは……百春さんの奥様ってことだっ。
私は居住まいを正して、頭を下げる。
「レイ・サイガと申します。百春さまには先日、お世話になりまして」
「ええ、主人から伺っておりますわ……ふふふ」
柔らかく微笑む、しきさん。
綺麗な人。
「今日、ご当主さまとお付きの美青年は、いらっしゃらないのですの??」
サトル様と……多分、真紅郎さんのことを言ってるんだろう。
「今日は登城しております」
「あら、残念……。美少年当主×美青年執事のカプが見られないなんて……」
×? カプ……?
「しき~。あんた相変わらず腐ってるねぇ」
「腐る?」
どういう意味なんだろう……?
「で、どうしたのさ、しき」
「主人に代わり、お歳暮を持って参りましたの」
しきさんは持っていた包み紙を、木綿さんに渡す。
「そりゃどーも。百春はこういうのずぼらなのに、あんたはマメね」
「いつもお世話になってますので。サト×キチの幼馴染みカプで」
「うちの旦那でカップリング考えるのやめなよ!」
「腐腐腐……」
えとえと……。
「お歳暮ってなんでしょう?」
するとしきさんが答えてくださる。
「年末に、その年世話になった人などに贈り物をすることですわ」
「!?」
そんな風習があったなんてっ。
私……何も用意してこなかった……。
木綿さんには、いっぱいお世話になってるのに……。
「あー、いいっていいって。レイちゃん。気ぃ使わなくていいよ」
「しかし! 一条家は、六反園家にお世話になってますし、木綿さんにも、たくさん!」
お歳暮……用意しないとっ。
でもどういうのが喜ばれるんだろう……。
「というか、レイさまはどうして、このお店に?」
「あ、鹿毛が手に入ったので、それを使ったマフラーを作って貰いにきたのです」
使用人さんが、私の隣に、つつみを置く。
しゅる……と包みをひらくと、そこには白いマフラーが何枚も入っていた。
「青白く発光する……白い毛皮。なんて、美しいのでしょう……」
「神霊からもらったんだってさ」
「なっ……!? 神霊から……ですの?」
こくんとうなずく。
先日、井氷鹿さんから、いただいたのだ。
「これは……素晴らしいですわね。陽の気がこれだもかと込められてますわ。身につけてるだけで、雑魚妖魔くらいなら退けるほどですわ」
そんな凄いものなんだ……。
あ、そうだっ。
「しかし、数が多いですわね」
木綿さんが持ってきたマフラーは、1本2本どころではない。
「黒服さんたち、全員分を作って貰ったんです」
「!? し、使用人に……? こんな、高価なものを……? プレゼントするんですの?」
「? ええ。何かオカシイですか?」
しきさんは目をぱちくりしていた。
一方で、木綿さんは苦笑し、しきさんの肩を叩く。
「レイちゃん、変わってるでしょ?」
「ええ……。でも、主人が気に入るのも、よくわかりましたわ」
百春さまから、こないだ霊力測定に行った際に、興味を持たれることになったのだ。
あのときプロポーズされたけど……。
冗談、だろう。だってしきさんがいるんだし。
「マフラー人数分作っても、まだ井氷鹿の皮残ってるよ。まだたっぷりね」
人数分のマフラーを作ったのに、結構皮にあまりがあるようだ。良かった。
「じゃあ、それを」
「はい?」
「木綿さんたち、六反園呉服店に、井氷鹿さまの毛皮をプレゼントいたします。お歳暮です」
木綿さんが固まってしまう。
目をむいて、ぷるぷる震えてる。えと……。怒らせるようなことをしてしまっただろうか。
「お嬢様。神霊の毛皮が、いくらで取引されているか、ご存知ですか?」
「? いえ……」
「一億 圓」
「…………はひ?」
一億 圓……?
百 圓で、パンが1つ買えるというのは、最近覚えたばかりだ。
「まさか……この毛皮一枚で、一億 圓もするなんて……」
「いいえ、お嬢様。一枚ではありません」
朱乃さんが指を1本立ていう。
「1平方センチで、一億です」
……………………は、ひ?
「一平方……い、い、一億!?」
毛皮は、たて100、横100くらいの大きさは、残っている。
10000平方センチってこと。
……い、一兆……圓……。
「そもそも神霊の毛皮は、希少価値高すぎて、市場に回りません。しかも退魔魔属性に加えてこの美しさ。王族の花嫁衣装にも使われるほどの、超が100個あってもたりないくらいの、激レア品ですから」
え、え、つまり私……一兆 圓を、木綿さんにぽんっと渡そうとしていたということっ!?
そりゃ、木綿さんも驚くというものだ。
……けれど、木綿さんにはお世話になってる。六反園家とは、仲良くしていきたいし……。
「あの、木綿さん。」
「あ、う、うん。いいよ。帰して欲しいんだね。よかったぁ~。貰っても逆に……」
「差し上げます! お歳暮です」
「ちょっと待ったあああああああああああああああああ!」
木綿さんがガシッ、と私の肩を掴む。
「駄目……!」
「しかし、いつもお世話になってますし……それに、木綿さんは友達だから……」
「いやもらえないって! これでもらったら、友達料徴収したみたいになるじゃんっ! 友達料 一兆 圓ととか!? どこのお華族さまだよ! レイちゃん華族だけどもっ!」
がっくんがっくん、と木綿さんが私の肩を揺すってくる。あわわ。
「で、でも……木綿さんには本当にお世話になってるし。それに、これもう家の人の分は作って貰ったので、余ってても仕方ないですし……」
う~~~~~~んっ、と木綿さんがうなる。
「一部を六反園家に、残りを王家に献上するのはどうですの?」
「それっだぁあああああああ!」
天啓を得たりとばかりに、木綿さんが、しきさんの提案をのむ。
私としては、全部、木綿さんに上げてもいいのだけど……。
一兆 圓渡されても、木綿さん困っちゃうようだし。
なら……おっしゃるとおり、王家に献上したほうがいいかも。
九頭竜さまと、りさと姫さまにも、大変よくしてもらってるわけだし。
「素晴らしい提案、ありがとうございます。しきさん」
「いえいえ♡ どういたしましてですわ♡」
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