表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/252

7 ザシキワラシの悪戯 3



 私はサトル様に、事情を説明した。


「なるほど……霊力を回復するために、レイの側にいると……」

「はい……」


 縁側に座る私たち。

 ザシキワラシさんは、ぱり……ぽり……とお煎餅を上機嫌にかじっていた。


 ……そして、サトル様の頭の上に立っている。


「頭の上で煎餅を食うな……!」

「ながめ、にじゅうまる」


「レイ、なんと言ってる?」

「え、ええと……眺めが良いと」

「人の話を聞けっ!」

「…………」きゃっきゃっ。


 ザシキワラシさんが楽しそうに笑ってる。

 サトル様はため息をついた。


「こいつはいつまでここにいるんだろうな」

「さぁ……って、あれ? ザシキワラシさん?」


 ザシキワラシさんが、いつの間にか消えていたのだ。


「どうした?」

「さっきまでいたザシキワラシさんの姿が消えてしまいました……」


 どこかへ行ってしまったんだろうか?

 トイレとか……?


 このお屋敷、広いから迷子になってやしないだろうか……。

 ……心配だ。


 ちょっと様子を見に行ってみよう。

 サトル様には、夜廻りでお疲れだろうし、探すくらいだし……言わなくてもいいかな。


「どこへ行く?」

「あ、えっと……ザシキワラシさんを、探そうかなって。迷子になってるかもしれないので」


 するとサトル様が微笑み、立ち上がる。


「俺も探すよ」

「でも……夜廻りあけでお疲れでしょうし」

「そんなこと、気にするな。心配なのだろう?」

「はい……」


「なら、手伝うよ」

「サトル様……」


 私のために、探すのを手伝ってくださる。

 本当に……お優しい御方……。そんなサトル様だから、好き……。


「どうした?」

「あ、い、いえ……」


 するとサトル様がフフフと笑う。


「俺のこと、惚れ直したか? なんてな」

「あ、はい」

「そ、そ、そうか……そうか……」

「はい……」


 サトル様が、照れてらっしゃる。

 サトル様は、仕事中は凜々しいとうかがう。他の人には、紳士だとも。


 ……でも、私の前だけ、こうして照れてくださる。

 なんだか……優越感を覚える。


「ひゅーひゅー」


 はっ! サトル様の頭の上に!

 ザシキワラシさんがっ。


「おあつい。ふたり。ひゅーひゅー」


 ぱっ、とザシキワラシさんがサトル様の頭の上から降りる。


「あっ! いた! こいつ! レイを心配させるなっ!」


 サトル様がザシキワラシさんを捕まえようとする。

 だが、腕からすり抜ける。


 きゃっきゃ、と笑いながら、廊下を走る。


「待てこの! 【霊亀】!」


 サトル様が結界で、ザシキワラシさんを捕まえようとする。

 しかし結界が、ザシキワラシさんを、運悪く捕縛できなかった。


 ……おかしい。

 サトル様は、狙ったところに結界を発動できるはず。


 でも、結界がザシキワラシさんを捕まえることができなかった。

 狙いが、外れた……?


「ああくそ! 厄介な異能だな! 超幸運!」


 ……!

 そうか……。超幸運の異能を、ザシキワラシさんは使ったんだ。


 運を操作する、異能。

 今、彼女は運を味方に付けることで、運良く……(相手にとっては運悪く)攻撃を避けることができた。


 ……なるほど。

 ザシキワラシさんの異能って、敵の攻撃を避けるみたいな、ああいう使い方もできるんだ。


「レイ! ザシキワラシのやつ、屋敷の外に出たぞ!」


 はしっ、と彼が私の手を掴む。


「探しにいくぞ!」

「は、はいっ……!」


 サトル様が私を掴んで、強引に、引っ張ってくださる。

 ……男の方に、力強く、引き寄せられたのって……これが初めて。


 お父様は、ぶったり、ひっぱたり、してきたことがある。

 でも……こうして、力強く、優しく、リードしてくださったのは……サトル様が初めてだ。


 ……嫌いじゃあない。

 こんな風に、強引にされるのも……。


「いたぞ! レイ!」


 塀の上を、てててー! とザシキワラシさんが走って行く。

 なんて……スピード。


 自動車並に速い。


「レイ。失礼するぞ」

「え……? きゃっ!」


 サトル様は私を、お、お姫様抱っこすると、駆け出す。


「【霊亀】、足場を作れ!」


 目の前に球体の結界を出現させる。

 無数に、空中に出現した足場をつかって、サトル様は空を駆ける。


 ……速いのは、いいんだけども。

 

「さ、サトル様! め、目立ちます~!」


 眼下には淺草あさくさを訪れる観光客や、街の人たち。


「おー、ご当主さまが花嫁さまを連れてる!」

「すっげー! 空を駆けてるよ! かっけー!」

「デートかしら?」

「あらあら、お若いわね~」


 とても目立ってる……!

 それはそうだ。当主たる彼が、こんな真っ昼間から、空を走ってるんだもの!


「若いわー」「素敵ねー」


 サトル様ファン倶楽部の御方らしきご年配の御方からは、デートと思われてる。

 いや、違くて、いや、違うって訳じゃあなくて……ああもう……!


「さ、サトル様! 目立ちすぎます!」

「? それがどうした?」


 こ、この人……目立つことに慣れてるせいか、あんまり気にしていないっ。


「居たぞ! 【霊亀】、無数の結界で、捕縛せよ!」


 屋根上に乗ってるザシキワラシさんを、サトル様が結界で捕縛しようとする。


 ザシキワラシさんがにやっと笑う。

 すかっ、と結界が彼女の体を避けて、発動する。

 そればかりか……。


 ずるっ!


「「あっ!」」


 サトル様が足を滑らせる。

 二人して地面に落ちそうになる……!


「さ……せるかぁ……!」


 サトル様が空中で体制を整えると、着地する。


「「「おー!」」」


 ぱちぱちぱち……! と淺草あさくさの皆さんが拍手する。

 ……って、ここ仲店のど真ん中だったっ。


「派手だなぁ」

「軽業師みたいだったっ」

「さっすが~」


 うう……目立ってしまってる……。


「今のなんだったんですか、サトル様ー?」

「かっこよかったですー!」


 変装用の呪具を身につけてないせいか、サトル様の周りを、若い子たちが囲ってしまう。


「すまない、君たち、ちょっとどいてくれないかな?」


 若い子たちに囲まれ、サトル様が身動きとれなくなってしまう。

 この間にも、ザシキワラシさんがどこかへ行ってしまう……。


「…………」きゃっきゃ~♪


 あ!

 ザシキワラシさん、仲店を抜けて、道路に出ちゃった!


「! 危ない……!」


 道路では自動車が往来してる……。

 そのうちの一台が、ザシキワラシさんに襲いかかる。


 彼女は自動車に気づいていない!

 

「【饕餮とうてつ】……!」


 とっさに、私は異能を発動する。

 虚空に穴が空いて、ザシキワラシさんがこちらに引き寄せられる。


 車はザシキワラシさんを轢くことなく、通り過ぎていった。


 腕の中で、ぽかんとしてるザシキワラシさん。


「大丈夫ですかっ? おけがは?」

「…………」ふるふる。


 そっか……ケガ無かった……。

 良かった……。


「もうっ、駄目じゃあないですかっ。道路にでちゃっ。轢かれて死んじゃいますよっ!」


 知らず、声を荒らげてしまう私。

 ザシキワラシさんは目を丸くした後……。


「ごめんなさい」


 と謝った。……うん。

 反省するなら、よし。


「本当に、無事で良かったです」


 なでなで、と私はザシキワラシさんの頭を撫でる。

 彼女はきゅっ、と私に抱きついたのだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
商店街のおばちゃん「これは、良いお嫁さんになりそうだね。 坊っちゃん、やったじゃないか!」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ