6 ザシキワラシの悪戯 2
「れい。くうふく」
きゅるう……と、ザシキワラシさんのお腹から可愛らしい音が鳴る。
「何か、たべますか?」
「くー。おにぎりっ」
「おにぎりですか?」
「そー。とーてつ。おにぎり。ぜっさん」
そういえば、饕餮さんの胃袋を借りるときに、あの御方のためにおにぎりを作ったことがあった。
お褒めていただいていたようだ。
「とーてつ。おにぎり。くれない。けちんぼ」
「饕餮さんとは、お友達なのですか?」
「まぶだち。おにばくこんびてきな」
どうやらとても仲が良い様子。
ケンカするほど仲が良いっていうから。
まあそれはそれとして、ザシキワラシさんがお腹減ってるらしい。
なら、作ってあげないとだ。この人は普段、私に超幸運の異能をかしてくださってるわけだから。
超幸運の異能のおかげで、異能殺し+模倣という、奇跡のコンボが私に発現してるわけだし。
それに……サトル様と出会えたのも、きっとこの御方の異能のおかげだろうから。
そのお礼をしないと。
「わかりました。では、台所へいきましょう」
「ばくそーきょーだい、れっつらごー」
ややあって。
私たちは台所へとやってきた。
「かまどだ」
「ええ。黒服さんたちが、いつも美味しいお米を炊いてくださってるんですよ」
「じゅるり。はりあっぷ」
「少々お待ちくださいね」
私は台所に立ち、おにぎりをパパッと作る。
「れい。てぎわ。にじゅうまる」
「西の大陸では、食事の用意もさせられていたので」
……ふと。
私は、気になってることがあった。
「あの……ザシキワラシさんって、私の前世なんですよね?」
「そー」
「ということは、私が生まれたときから、ズッと側にいたってことですよね?」
「いえーす」
……サイガの家に、私は産まれた。
そこで、酷い扱いを受けていた。……超幸運があるのに、あんな酷い目にあったのは、どうしてだろう……?
「れい。まだー?」
「あ、もうできました」
おにぎりはパパッと作れた。
「うぉ~」
ザシキワラシさんは、台所テーブルの上に乗ってる、おにぎりのお皿を見て目を輝かせる。
「よき? たべる。よき?」
「どうぞ」
「わーい♡」
ザシキワラシさんは両手におにぎりを持ち、はぐっ、と食べる。
「うましっ!」
はぐはぐはぐっ、と次から次へと、おにぎりを食べていく。
「くいたらん」
「了解です」
おひつにはまだお米が入っていた。
……朱乃さんから、お米は好きに使って良いと言われてる。
今日の昼食の分は、あとで炊けばいい。
私はおにぎりをいくつも作って、ザシキワラシさんに提供する。
「れい。りょーりスキル。にじゅうまる。これは……よいよめ」
「ありがとうございます」
ザシキワラシさんに褒められた。
凄い妖魔の、彼女に。結構……うれしいな。
「お、レイ。おはよう」
「サトル様。おはよございますっ」
台所に、サトル様が入ってきた。
サトル様のお顔を見るだけで、私の胸は高鳴るし、幸福な気持ちになる。
愛の力って、すごいな。好きな人がいるだけで、幸せになれるんだもの。
「夜廻りから帰ってなにもくってなくてな。昼前だというのに腹が減ってしまった。レイ、そのおにぎり、わけてもらえないだろうか?」
「もちろんですっ。良いですよね……ってあれ?」
ザシキワラシさんが消えている。
さっきまで居たのだけども。
「レイ? どうした?」
「あ、いえ……」
ザシキワラシさんの分を、サトル様に渡してもいいだろうか。
「もらうぞ」
「あっ」
サトル様がおにぎりを一口……。
「げほっ! げほげほっ!」
彼が急に咳き込みだしたのだ。
「しょっぱ……!」
「え? しょ、しょっぱい……?」
はっ、とサトル様が我に返ると、笑顔で首を振る。
「だ、大丈夫だ。レイ。これくらい塩気があるほうが、その……いいな。疲れた体に……うん……」
だらだらと汗をかくサトル様。
あ、明らかに無理をなさってる……!
「ご、ごめんなさい……!」
蛇口をひねって、お水を出す。湯飲みに水をいれて、彼に渡す。
サトル様は私から湯飲みを受け取り、勢いよく水を飲んだからか……。
「げほっ! げほげほっ!」
「サトル様っ」
「だ、大丈夫気管に水が入りかけ……げほげほげほっ!」
背中をさする私。
「レイ……ありがとう……」
「いえ……。その……おむすび、しょっぱかったのですか?」
「いや、まあ……そうだな。かなり塩気が多かったぞ」
「塩気が多い……」
そんなにたくさん塩を入れたつもりはなかった。
同じものをザシキワラシさんが食べて平気だったし……。
「きゃっきゃ」
ふと、台所を見やると、ザシキワラシさんが座っている。
サトル様を指さし、ケラケラと笑っていた。
……まさか。
この御方が……?
「どっきり。だいせーこー。こりゃあ、いっぽん、とられたよ。ばんざーい」
やっぱり……!
「レイ。なんだこの妖魔は……? 妖魔のくせに邪気を感じられん。変な感じだ」
「あ、えと……ザシキワラシさんです」
「は……? これが? 武良水木妖怪図鑑に描かれていた姿と、まるで違うぞ……?」
武良水木さんというのは、著名な妖怪画家のおかたらしい。
「あれ。うち。むかし。すがた。はずかしい」
「レイ。こいつはなんて言ってるのか、わかるか? 神霊とはなせるくらい、霊感の高いおまえなら、わかるやもしれん」
……あれ?
サトル様、妖魔と会話できないんだっけ?
確か、水虎戦では、彼奴と会話していたような……。
「あ、えと……さっきは、ドッキリ大成功と。そして、図鑑に載ってるのは昔の姿と」
「ドッキリだと……!」
サトル様の額に血管が浮き上がる。
「貴様がレイのおにぎりに塩を入れまくったのかっ」
「きみのよーな、かんのいいがきは、きらいだよ」
ざ、ザシキワラシさん……サトル様に悪戯するなんてっ。
「だ、駄目じゃあないですかっ。人にいたずらしちゃっ」
「どーして? いたずら。たのし。からかう。たのしいっ」
そういえばさっきも、朱乃さんに悪戯して、楽しんでいらっしゃった。
もしかして……悪戯好きなのだろうか。
「貴様! 俺を揶揄ってやがるな!」
「からかいじょうず。ザシキワラシさん」
「このっ! ぶべっ!」
サトル様がザシキワラシさんに飛びかかろうとした瞬間、彼が足を運悪く滑らせたのだ。
「だ、大丈夫ですかっ!」
呪禁で直ぐに、サトル様を治療しようとする。
「大丈夫だ。派手にこけたが全く痛みがない。不思議な感覚だ」
ほっ……。良かった。
でも、こけたのに痛みがないってどういうこと?
「うち。うん。つかさどる。よーま。うん。ふうん。じゆうじざい」
ふっふっふ、とザシキワラシさんが不敵に笑う。
「すみ。むすこ。おもしろ。からかいがい。にじゅうまる」
「何を言ってるのかわからんが、バカにされたのだけはわかるぞ!」




