【Side】九頭竜 白夜(極東王)
わたしの名前は九頭竜 白夜。
極東王の座につかせてもらっている。
連綿と続く九頭竜の歴史に、わたしは最高の功労者として、名前を残すことになるだろう。
将来【極東の救世主】となる、レイ・サイガを、西の大陸から招いたことで……。
順を追って説明しよう。
わたしの異能は【ハクタク】。
能力は、『未来の出来事を見通す【予言】』のチカラ。
王家は代々、このハクタクの異能を使うことで、極東の平和を守ってきたのだ。
第八王子だったわたしが、王位を継承できたのは、ひとえにこの王家の秘宝であるハクタクの転生者だったからだ。
ハクタクの転生者として覚醒したわたしは、王位をついで、この極東の地を治めてきた。
そんなある日、わたしは一つの、恐ろしい予言を受けてしまった。
「【白面金毛】が復活し、極東は破滅するだろう」……と。
白面金毛。それは世界、そして極東を滅ぼしかけた大妖魔の名前だ。
いにしえの異能者は、白面金毛を討伐することができなかった。
できたのは、殺生石に白面金毛を封印すること、だけ。
しかしそんな白面金毛の封印が、近い将来破られる。
そんな予言を受けたのだ。
わたしは、苦悩した。その予言を回避する方法もまた、受けていたのだ。
……結局、わたしは一人の女性に頭を下げることにした。
この国最強の異能者……一条 守美。悟の母である。
守美に、正直に、白面金毛が復活することを告げた。
この最悪の未来を回避するためには、彼女の力が必要不可欠だった。
守美は、喜んで白面と戦ってくれた。
結果、彼女は死に……極東の平和は守られた。
守美の死によって、最悪な未来は回避できた。
しかし、守美の死後、極東の妖魔達は活性化しだしたのだ。
白面金毛が復活したことで、極東には恐怖が広がっていたのだ。
彼奴がもたらした恐怖は、陰の気を好む妖魔たちにとって、極上の餌となった。
極東の妖魔たちは力を付け、全国各地で暴れ回ってる。
今もなお、だ。
東都は、一条悟という、守美から異能をついだ現代最強の能力者がいるため、比較的平穏が続いてる。
しかし一歩東都から出ると、いまだに妖魔が蔓延っている。
残りの五家たち、そして四大能力者たちが頑張ってくれてはいるが……それでも。
白面金毛が極東につけた傷はいまだに癒えず、主要都市以外では、妖魔による被害は絶えないでいた。
そして、最悪は重なるもので、わたしが自分の異能、ハクタクに飲まれかける事態に襲われた。
息子も、娘も、まだ幼い。
そんな中で、未来を回避させられる、ハクタクの異能者を失うことは、この国をさらなる暗黒の時代に突入させることになる。
極東は、実は、裏では大変な危機的状況を迎えていたのだ。
ハクタクに体を奪われてしまったわたしは、ただ、絶望するしかなかった。
……そんな、ある日。
わたしは、ある予言を授かった。
「異国より訪れし無能の令嬢が、極東を救う、救世主となるだろう」と。
異国……つまり西の大陸のことを言ってるのだろう。
無能の令嬢というのも、調べればすぐにわかった。
サイガ家の伯爵令嬢が、そんなあだ名で呼ばれてていたのだ。
ハクタクの予言は、絶対だ。
サイガ伯爵令嬢を早急に呼び出す必要があった。
だが、呼び出すにしても、その理由が必要となった。
ちょうど、悟が嫁探しに苦労してるという話を聞き、これを利用しようと考えたのだ。
わたしの異能の恩恵を受けたものが、西の国の要職についていた。
だから、レイを呼び出すことは造作も無かった。
レイ・サイガ。
この城で初めて彼女を見たとき、その隣には、娘のりさとがいた。
心が読める【覚】の能力者であるせいで、人間不信になっていた、彼女。
そんなりさとが、レイになついていたのだ。
それだけじゃあない。
守美の死後、ショックで心に傷を負っていた悟が、笑っていたのだ。
一目彼女を見たとき、わたしは……確信していた。
予言は、的中すると。
彼女こそが、極東の救世主となる娘だと。
そして……彼女は見事に、わたしの期待に応えてくれた。
自らの異能が制御できず、死ぬ定めだったわたしを、救ってくれたのだ。
悟、百目鬼家、一条家の黒服、りさと……そして、わたし。
彼女は多くの異能者達の、不運を、その異能で殺してきた。
異能殺し。
おそらくは、饕餮の異能だろう。
そして彼女は信じられないことに、【三つ】の異能を持ってる可能性がある、と科学班から上がってきてる。
饕餮。ザシキワラシ。そして……第3の異能。
三つの異能をもつ者なんて、恐らく空前絶後の存在となるだろう。
レイ。
ありがとう、生まれてきてくれて。
君がこの世に生まれてきてくれたことを、心から……神に感謝する。
彼女がこの国で、幸せな人生を送れるよう、王家は君をサポートしよう。
そう遠くない未来、彼女の家のものが、彼女に泣きついてくるのは目に見えている。
ザシキワラシを失ったのだから。
やつらがここへ来たとき、わたしは、全力で君を守ろう。
極東の救世主たる君を、あんな不幸な家に……帰してなるものか。
わたしは、守るよ。
悟とともに。君の……平穏を。
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