【番外編】
《レイSide》
プツン。
体の中で、何かが断ち切れる音がした。
今まで私の魂に寄り添い、甘く囁きかけていた「彼女」の気配が、唐突に消失する。
まるで、心臓を一つ抉り取られたような空虚感が胸を襲った。
「あ、れ……? 玉藻……様?」
私は呆然と虚空を見つめる。
いない。
あれほど愛おしく、大切に感じていたパートナーの反応が、どこを探しても見当たらない。
指先が小刻みに震える。視界が急速に暗転していくような錯覚に陥る。
大事な半身を失ったような喪失感に、私は膝から崩れ落ちそうになった。
その時だ。
「レイッ!!」
強烈な風圧と共に、誰かが私に飛び込んできた。
ドサッという音と共に、熱い体温が私を包み込む。
汗と、そして懐かしい日向の匂い。
サトル様だ。
彼が、私の身体が折れそうなほど強く、強く抱きしめていた。
「よかった……! 本当によかった……! 無事か、レイ!」
「サト、ル……ん?」
耳元で叫ぶ彼の声が、鼓膜をビリビリと揺らす。
その必死な響きを聞いた瞬間、私の脳内に垂れ込めていた濃い霧が、サーッと晴れていくのを感じた。
改竄されていた記憶のパズルが、正しい位置へと組み直されていく。
そうだ。
私は玉藻――いや、白面金毛九尾に取り込まれ、操られていたのだ。
サトル様を、殺そうとしていたのだ。
「あ、ああ……っ!」
私は絶望と後悔に、顔を歪めた。
自分のしでかしたことの重大さに、血の気が引いていく。
「さとるん……! ごめんなさい、さとるん……!」
「いいんだ、れいたん。もういいんだ」
サトル様は私の頭を優しく撫でる。
その掌の温もりに、強張っていた私の肩が震えた。
「お前を唆していた悪鬼は、俺が滅した。もう二度と、お前に手出しはさせない」
「悪鬼……。玉藻は、白面だったのね……。あいつは私を利用して、封印を……」
「そうだ。全部あいつのせいだ。お前は悪くない」
サトル様は力強く断言する。
けれど、私の胸の痛みは消えない。
私が弱かったからだ。心の隙をつかれたから、こんな事態を招いてしまった。
「……ごめんなさい……。私が不甲斐ないばかりに、みんなを巻き込んで……」
私が涙を堪えて俯いていると、不意に重厚な声が降ってきた。
「顔を上げなさい、レイさん」
九頭竜白夜様。その瞳は、いつになく穏やかな光を湛えていた。
「気にする必要はありません。あなたにはこれまで、極東の危機を何度も救ってもらった恩があるのです。今回はその借りを返したに過ぎない」
「白夜……様」
「そうだぞ、れいたん。白夜様の言う通りだ」
サトルが私の涙を指で拭い、ニカッと笑う。
「これで貸し借りはチャラだ。だから、もう泣くな」
「さとるん……」
その笑顔を見たら、張り詰めていた緊張の糸が、完全に切れてしまった。
視界が滲み、熱い滴がとめどなく溢れ出す。
「う、ううっ……! うぁぁぁぁぁぁんっ!」
私は子供のように声を上げて泣いた。
サトル様の胸に顔を埋め、そのシャツを涙で濡らす。
彼は何も言わず、ただ震える私の背中を、ずっと撫で続けてくれていた。
【おしらせ】
※2/11(水)
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