山の神の悩み
「山の神に、名を付けるのです」
「名前……?」
この信濃に溜まった、山の神への信仰心。それを、山の神自身の力に戻すために必要なこと。
それが、名を与えることだという。
「山の神には真名があるんじゃないの? 神霊って妖魔の一種なんでしょ?」
と、ひのわさん。たしかに……。
「そー。でも、山の神の場合、真名はあれど、種族名がないの。山の神は、あくまで通り名」
「あー……日車でいうところの、火車じゃないってことね。山の神は」
「うぃ。山の神ってのは、固有名じゃなくて、便宜上の呼び名ってこと」
うーん、なんとなく言いたいことはわかる。
「だから、山の神に“種族名”を与える。その魂に定義を与えるの。レイの力で。それで、この信仰の力が、山の神本人に還元される」
「……正直、理屈はあんまりわかんないけど、とにかく私が、新しい名前を付けてあげればいいのね?」
「うぃ」
なるほど。理屈は半分くらいしか理解できてないけど……私が名付けることで山の神が救われるなら。
やるしかない。
「信濃の神だから……“信濃神”とか?」
「安直すぎない……? 黒猫に“クロ”って付けるみたいなもんよ?」
うっ……ひのわさんのツッコミが鋭い……。
「では、何が良いでしょうか」
「うむ……なら、“長野神”が良いと思う」
と、幸子ちゃん。え……?
「ナガノ……?」
「なによそれ、“ナガノ”って……?」
ひのわさんが怪訝そうに尋ねると、幸子ちゃんは胸を張る。
「ここより未来、この信濃の地は“長野”という名に変わるのです」
「「へぇ〜……」」
そうなんだ。
「なんでおちびがそんなこと知ってるのよ」
「謎多き女ですゆえ」
「意味わからない……」
まあ……黒猫に“クロ”よりはマシかもしれない。
それに、“長野神”って名前なら、信濃にいる神様だってわかりやすい。
「では……“長野神”。山の神さまに、長野神と名付けます」
その瞬間――。
うり坊だった山の神の体が、まばゆく光り出す。
ずずずうぅぅ……! と巨大化していき――
やがて、山と見まごうほどの、巨大なイノシシへと姿を変えた。
『おお、力が満ちる……! 我への信仰心が、我に定着したぞ!』
どうやら、上手くいったようだ。
山の神……いや、長野神は、私を見て、深々と頭を下げる。
『ありがとう、レイよ。心から感謝する!』
……こうして、長く続いた信濃の騒動も、ついに終息を迎えたのだった。




