山の神の悩み
サトル様の神域により、傷ついていた信濃の大地は見事に蘇った。
真紅郎さんの眷属たちが、信濃全域を確認してくれている。
今のところ、どこも異常なし。全部、元通り。……本当に、よかった。
「一条家の者たちよ――心より感謝する」
ぺこりと頭を下げたのは、うり坊の姿をした山の神。
小さな体で、真摯に頭を垂れる姿は、なんだか逆に申し訳なくなってくる。
「感謝してもしきれぬが……この恩、決して忘れぬ」
「お気になさらないでください」
「一条家当主、そしてその花嫁として……当然のことをしたまでです」
サトル様がそうおっしゃり、私も横でうなずいた。
「でもさ、山の神さまは、元の姿に戻らないんだね?」
と、ひのわさんが当然の疑問を口にする。
たしかに、大地は戻ったのに……肝心の山の神は、あの可愛い姿のままだ。
「しかたないよ、ひのわ。信仰が戻ったわけじゃないからね」
幸子ちゃんが、ひのわさんの肩にちょこんと座って答える。
……なんだかんだで、あの位置がお気に入りのようだ。
「あ、そっか。山の神信仰が戻ったわけじゃないんだもんね。今回、大地を治したのって……守美さんと悟だし」
今はもう、守美さんの姿は消えている。椎も、すでに一条家に帰ったらしい。
「……なんとか、できないかなあ」
「気にせずともよい。この信濃の地を癒してもらえただけで、我には十分だ。……それ以上の望みなど、あまりに贅沢というもの」
山の神は、そう言って静かに目を細めた。
けれど、やっぱり私は、どうにかしてあげたくなってしまう。
「……いずれまた、時が満ちればよい。信濃の民に、信仰を得られる日が来ることを願って、今は静かに待とうと思う」
それが神としての覚悟、というものなのかもしれない。……でも。
「霊力を吹き込んで、無理やり戻すのは……?」
「それ、たいしょーりょーほーってやつだよ。風船に空気吹き込むのと一緒。一瞬でしぼんじゃうって」
幸子ちゃんが、ぴしっと手を横に振る。
やっぱり――根本的な解決にはならないみたいだった。




