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山の神の悩み


 ……サトル様が、神域を展開する。


 彼の結界の内側で、世界が静かに“逆行”し始めた。


 崩れ落ちていた山肌が、まるで巻き戻し映像のように隆起し、

 えぐれた崖が、するすると元の形を取り戻していく。


 干からびていた川には、どこからともなく清らかな水が湧き出し、

 ひび割れていた大地には、新たな草の芽が顔を出し始める。


 腐っていた土壌は、ふたたび黒く、豊かに――

 まるで“命そのもの”が戻ってくるようだった。


 ……すごい……。

 これが、サトル様の神域。


 壊れたものを、すべて元通りに戻す。

 まるで神話の中の奇跡みたいな、優しく、力強い異能。


『レイさんのおかげですよ』


「っ! お義母さまっ……!」


 霊亀・守美すみお義母さまが、ゆるやかに声を響かせる。

 その巨大な亀の顔は、人のように表情を動かすことはない。


 けれど、たしかに……その口元が、やわらかく持ち上がっているように見えた。


『あなたがいたから、悟は……この神域を形にできたのです』


「そんな……わたしは何も……」


『いいえ。あなたがお手本になってくれたから、息子は“神域”のコツを掴んだのです』


 ――なるほど。


 たしかに。

 何かを学ぶとき、お手本があれば理解も早い。

 私が先に神域を使っていたことで、サトル様もその“構造”を実感できたのだろう。


「そういうことだ。……れいたん、ありがとう」


 ふっと、サトル様の肩から力が抜け、

 そのまま私の胸に、倒れかかってくる。


 私はすぐに両腕で彼を受け止めた。

 この胸に、ぎゅっと……。


 ――彼の力の役に立てたこと。

 それが、私にとってなによりの喜びだった。


「……こちらこそ、ありがとうございます。サトル様。

 わたしの、大好きな――極東の地を、助けてくれて……」

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