山の神の悩み
陰陽――
それは、男女の異能者が交わることで、常人では得られぬほどの霊力を生み出す儀式。
サトル様が、そっと私の腰に手を回す。
……もう何度も、彼に体を預けてきた。
こうして、彼の胸に寄りかかり、そっと目を閉じる。
彼の霊力が、私の中へと流れ込んでくる。
熱くて、優しくて、けれど圧倒的な力。
それが私の霊力と混ざり合い、渦を巻くように膨れ上がっていく。
――カッ……!
私たちの体から、爆発的な光が吹き荒れた。
目を開けると、肉眼でも見えるほどの霊力が、陽炎のように立ち上っていた。
「サトル様……!」
「ああ、いける……! 霊源解放! 【母上】!!」
その言葉とともに、私の隣に姿を現したのは――
彼の妖魔。霊亀の守美さま。
守美さまは一瞬だけ、私たちに向かって静かに微笑んだ。
次の瞬間――その姿は霧のように消える。
……と思った瞬間、世界が変わった。
「なっ……なにあれ……でか……っ!!」
ひのわさんが頭上を見上げ、呆然と声を漏らす。
その肩の上、幸子ちゃんがぽつりとつぶやいた。
「……守美」
「はあ!? あれが!?」
「うん。霊亀の“本当の姿”」
私も、思わずその“影”を見上げる。
巨大な、木のような四肢。
黒く、つるりとした甲羅。硬質で、鈍く輝く漆黒の巨体。
まさしく――亀。だが、ただの亀じゃない。
神々しい気配をまとい、見る者すべてを黙らせる霊圧。
そして、溢れんばかりの霊力と出力。
間違いない。あれこそ――
大妖魔・霊亀。霊源解放された守美の、真の姿。
「【神域展開】――!!」
サトル様の声が響くと同時に、霊亀を中心に、陣が地面に走る。
大地が唸るように震え、黒く巨大な結界が“せり上がって”いく。
ズズズ……という音を立てながら、それは信濃の地全体を包み込んでいく――。
「よし……! 時よ! 逆行しろぉ!!」




