山の神の悩み
傷ついてしまった信濃の自然を、元に戻す必要があった。
「パッと思いつくのは……修復術、かな」
修復術――別名、呪禁。陽の気を放つことで、壊れたものを癒す術。
「式神で壊れた物とか治せるんでしょ?」
「ああ……だが、さすがに今回は規模が違う。山も、大地も、川も……全てを修復するには力が足りん」
「そっか……。レイも、たしか修復術使えるんだよね?」
「呪禁は使えます。ですが、私も同様です……」
「だよね。レイって出力はすごいけど、霊力の細かいコントロールはちょっと苦手だもんね」
「……すみません」
異能をぶっぱなすとか、二発同時に使うとか、そういうのは得意だけど……
繊細さを求められるとなると、ちょっと自信がなかった。
「悟様」
真紅郎さんが、すっとサトル様の前に出る。
「今こそ……特訓の成果をお見せする時では?」
「特訓……? ああ、蛟のところで、あんたも何かしてたわよね」
ひのわさんに向かって、サトル様がうなずく。
「ああ。奴のもとで……少しな」
「“少し”って何の特訓よ。言ってみなさいよ」
「……だから、その……神域のことだ」
――!?
サトル様も、神域の会得を目指してたんだ……?
「なんで黙ってたのよ」
「うっ……。まだモノにできてなかったからだ。理論は完成してたんだが……」
「ふーん……で? どんな神域なの?」
「……展開した結界の中だけ、時間を巻き戻せる。
壊れたものも、内部でなら“元に戻す”ことができる、という理屈だ」
「!? そんなこと……できるの!?」
「ああ、理論上はな。結界とは、空間を支配する術式。区切られた空間内は、神の領域。
ならばその中の“時間”すら、操ることができる……というわけだ」
すごい……! 本当に、神様みたいなことができるなんて!
「……だが、どうしてもうまくいかないんだ」
「あーはいはい。大丈夫、わかるわよ。失敗した理由」
「えっ!?」「ほんとですかっ!?」
私とサトル様がそろって驚くと、ひのわさんは肩をすくめてため息をついた。
「ほんと、あんたたちお似合いね……」
「どういうことだ? なぜ失敗した?」
「それは……レイがいなかったからでしょ?」
……私?
「――そうか! そういうことか!」
ええっ!? サトル様、今ので納得できちゃうんですか……?
サトル様が私に歩み寄ってきて、肩をぎゅっと掴んでくる。
「れいたん、力を貸してくれ!」
「は、はいっ……。でも、さとるん、わたし何を……」
「陰陽だ!」
…………ああ、そうか。
陰陽――異能者同士、男女が力を交わすことで、一時的に莫大な霊力を得る技。
「俺一人では、神域を構築するだけの霊力量・霊力出力が足りなかった。……盲点だった!」
「はいはい、じゃあちゃっちゃとチューしなさいよ」
どうやら、私が必要みたいだ。
私は、ためらいなくサトル様に抱きついた。
「れいたん!?」
「さとるん……」
最初は目を見開いていたサトル様の唇に、私はそっと自分の唇を重ねる。
……これは、必要だからやってること。決して、イチャついてるわけじゃない。
「いちゃついてるわね」「いちゃついてますね」「レイ、やらしーい」
――気づけば、幸子ちゃんまで来ていた。
どんなに真剣でも、バレバレだったらしいのだった。




