荒れ狂う山の神
いつきの……白面の手のものせいで、あわや神霊を一人殺してしまうところだった。
「れいたんは……やっぱりさすがだな。敵の狙いに誰より早く気づくとは」
悟さまのお声が聞こえてくる。
普段は、それで心が温かくなる。でも……私はまだ、その気持ちに浸ることはできない。
まだ、問題は解決していないのだ。
「いつきさん」
「ケッ! 気安く呼ぶんじゃあねえよクソ女……!」
なんと口の悪い妖魔だ。でも……しゃべることができる。
なら……。
「今すぐ、山の神の魂を元の肉体……野槌に戻してください」
現状、野槌(肉体)は、魂と分離して暴走している状態だ。
霊力を使い尽くしたら、肉体は消滅してしまう。
暴走を止めるためには、分離した魂を元の肉体戻してあげる必要がある。それ以外に……野槌の暴走は止められない。
「けっ! やなこった!」
「どうしてですか?」
「極東に混乱を起こすことが、白面様の……ひいては妖魔全員の望みだからだ……!」
妖魔全員の……望み?
「極東が大混乱となれば、陰の気は高まる。陰の気は我らにとって生命活動をするうえで必須のエネルギーだ!」
……人間で言うところの、食べ物が、妖魔にとっての陰の気。
混乱を起こすことで、彼らは自分たちのエネルギーを得ようとしてる。
……生きるために、食べる。それは……私も共感できる。
「レイ」
幸子ちゃんが、珍しく真面目な顔をしていた。
「レイは、優しいから。妖魔の言い分……わかっちゃう。でも……レイ、それでも……白面のやってることは……」
……わかっているよ、幸子ちゃん。
私は、わかっている。極東の守り手である、サトル様の側にいたからわかるんだ。
甘さと、優しさは違うって。
「いつきさん。あなたたちがやってるのは、やっぱり間違ってる」
「なぜだ!? おれらは生きるためにやってるだけ!」
「でも……だからって、人に迷惑をかけるのはオカシイです」
陰の気は妖魔のエネルギー。なるほど、それはわかった。
でも……だからって……。
「あなたたちは人の安寧を、理不尽に……奪っている。そんな権利……誰にもないです」
白面のやってることは、とどのつまり、野盗と一緒なのだ。
自分が生きるために、平和に暮らしている民から金を奪う。それと……同義。
そこは、そこだけは……決して肯定されていいものではない。
「食糧が足りないのでしたら、人と、ともに歩み……解決の手口を模索するべきだと思います」
人は、妖魔とわかり合える。
今回の旅で、よくよく理解したことだ。彼らにも生活があるし、考える頭があり、そして……交わす言葉は同じ。
なら……ベターな結論が出るまで、議論を続けるべきなんだ。
……人を襲い、人々から平和を奪う……なんて野蛮なやり方はせずに。
「黙れ……!」
「黙りません。あなたたちは……間違っている」
「うるさい……! こうなったら……貴様を殺す!」
いつきが私をにらみつける。
「おれの異能は、魂と肉体の分離! おれの魔眼は肉体と魂の鎖を断絶することができる!」
……なるほど、魂を失った肉体は、生きる気力を失い……死ぬ。だから……この妖魔に取り憑かれると、人は死に向かってしまうんだ。
「そんなの、効きません」
「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
私には、饕餮がいる。
異能を殺す異能があるのだ。
魔眼が異能である以上、私にその能力は通用しない。
「観念なさい、いつきさん。そして……供に歩む道を探していきましょう」




