荒れ狂う山の神
……百目の異能によって、野槌の弱点を理解した。
けれど、それと同時に――もうひとつ。
私は、とてつもない事実に気づいてしまう。
なんて、底意地の悪い仕掛け。こんなもの、普通なら気づけるはずもない。
これは野槌自身が意図してやったものじゃない。
――誰かが、外から仕組んだ。そうとしか思えなかった。
……酷すぎる。
早く、不安を取り除いてあげよう。
それが今の私にできる、たったひとつのこと。
「さとるん。まずは、敵の霊力を削ります。わたしも加わりますので、波状攻撃を野槌に与えてください」
「承知した! いくぞ!」
サトル様が、ひのわさんたちに指示を飛ばす。
私たちは空を蹴り、野槌の周囲へと散開する。
「【母上】!」「【日車】!」「【ヴラド】!」
仲間たちが、次々に妖魔の真名を解放する。
――“ヴラド”。それが真紅郎さんの異能、吸血鬼の名なのだろう。
彼らから発せられる霊力は、いずれも桁違いだった。
サトル様は、空間に無数の結界を展開させる。
よく見ると、それぞれの結界が“内結界”で強化されている。
――結界の刃を、さらに別の結界で鋭化させるという、極限まで緻密な異能操作。
真名の解放により、彼の操作精度は常識を超えていた。
一方、ひのわさんはさらに巨大な黒猫を召喚し、それを無数の猫へと分裂させ、野槌へ向かわせる。
真紅郎さんは、自身の影から大量の蝙蝠を吐き出した。
蝙蝠たちは野槌に群がり、霊力を吸い取っていく。
全員が範囲攻撃に長けているのが、本当に助かる。
私も、自らコピーした異能で、援護に入ることにする。
「【雷神・菅原道真】!」
二ノ宮道真さまから複製した、雷神の異能を発動。
空に、巨大な雷の剣が現れる。
ビリビリと空気が震え、あたりに青白い光が走った。
ひのわさんが空を見上げ、ぎょっと目をむく。
「二ノ宮の異能じゃあないの!? しかも真名の解放!? そんなことして大丈夫なの!?」
「大丈夫です!」
ひのわさんがこちらを一瞥し、はあ……とため息。
「なんっつー霊力量……。もうっ! あんたって子は、ほんっと頼りになるんだから!」
言葉とは裏腹に、彼女の口元がわずかにほころぶ。
そして再び、異能をぶつけにかかる。
私も、雷神の剣を振り下ろす。
空を裂きながら、雷の剣が野槌の巨体へと突き立った。
その瞬間――雷が、爆ぜる。
ずがぁああああああああああああああああああああん!!!
「……まさか体の一部、まるごと消し飛ぶなんて……戦略兵器ね。さすがだわ」
そう言いつつも、ひのわさんの表情はどこか楽しげだった。
ちらりと私のほうを見て、うなずく。
かつて出会う前なら、きっと警戒された。
でも今の私は、彼女にとって――もう、“友達”なのだ。
だから、こんな規格外の異能を使っても、怖がられたりしない。
それが、私は……うれしい。
サトル様はもちろん、ひのわさんも、真紅郎さんも。
今の私にとっては、かけがえのない、大切な人たち。
――極東で、初めてできた“友達”。
西方では得られなかった、わたしにとっての宝物だ。




