荒れ狂う山の神
サトル様たちが野槌の気を引いている間、私は百目の異能を発動し、敵を分析する。
無数の眼が、野槌の体をつぶさに見つめる。
……けれど、邪気が強すぎて、解析が思うように進まない。
「レイ、こーゆーときは感情を高ぶらせるのじゃ」
肩の上に座る幸子ちゃんが、アドバイスをくれる。
感情の昂りは、異能の力を跳ね上げる。それは知っている。知っているけれど……。
自分ひとりで感情を高ぶらせるなんて、どうすればいいのか、わからない。
「やれやれ、困った子猫ちゃんだ。うちがいないと、なーんもできないんだからぁ~」
幸子ちゃんは、なんだか少し楽しそう。
どうやら、手を貸してくれるらしい。だけど、具体的にどうするつもりなのか……。
「さとるのこと、考えろ」
「サトル様のこと……?」
「イエス。さとるや、あいつの家のこと。おまえの……だいじな人たちを、思い浮かべるのじゃ」
……だいじな人たち。
サトル様をはじめ、一条家の皆さん。
浅草で出会った人々。王様たち。
そして、極東で関わったすべての人たち。
彼らはみんな、私にとって……かけがえのない存在。
「れい。おまえがしくじれば、そいつらは……死ぬよ?」
「え……?」
「だってそうでしょ? 野槌は強大な妖魔。この極東なんて、軽く飲み込める。ここで滅せなかったら……」
極東が、私の……居場所が、永遠に失われる。
……そんなの、絶対に嫌だ。
ごぉお……!
私の体から、何かが噴き出すように溢れ出す。強く、熱く、荒々しい力。
「そんなの……嫌です!」
「ふふ、そうだろう? なら……やることは一つだべ?」
「はいっ!」
霊力が吹き荒れる。嵐のように、私を包む。
誰にも、何にも、もう抑えられない。
練り上げたその力を、私は百目に流し込む。
――だいじなものを、守るために。




