荒れ狂う山の神
野槌。
ひのわさんの話によれば、それは山に棲む蛇の大妖魔だという。
だが、ただの蛇ではない。
山ひとつ、ふたつ……いや、十並べてもまだ足りないほどの、常識を逸した巨体を誇る超巨大な蛇なのだ。
「山の神が、あんなにも醜悪な姿をしているなんて……」
ひのわさんが、言葉を詰まらせる。
たしかに「蛇」とは呼ばれているが、その鱗は皮膚でも金属でもない。
無数の肉塊が連なって形作られているのだ。
まるで巨大な肉団子を串刺しにしたような……生理的嫌悪感を否応なく抱かせる、そんな姿。
……わたしは妖魔の外見に関する知識がある。
妖魔という存在は、人間が抱く“おぞましさ”や“恐怖”といった負の感情を糧としている。
ゆえに彼らの多くは、人の恐怖心を直感的に引き出すような異形の姿をしているものだ。
(もっとも、幸子ちゃんやつぐみさんのように、美少女の姿をとる例外もいるけれど)
「私たち三人でやるしかないですね」
隣に真紅郎さんが現れる。
その背には、闇に溶けるような蝙蝠の翼が大きく広がっていた。
「やるって……あんなバケモノを、俺たちだけで?」
ずずずずう、と野槌がうごめくたび、森が震え、大地が隆起する。
ずずず……ずずずずず……。
その移動だけで山肌が削れ、地面がえぐれていく。
「【水虎】!」
右手に宿した水を操る妖魔の力――それを刃に変え、敵へと解き放つ。
鋭利な水刃が幾重にも飛び、野槌の巨体に突き刺さる。
肉が裂け、ぶしゅっ、と嫌な音が響く……が、その傷口には即座に肉が集まり、再生が始まる。
「しかも再生能力持ちですって!?」
超巨大なうえに、超再生能力まで備えている。なるほど……確かに、私たちだけの力では足りないかもしれない。
でもそれでも、やらなければ。
やるんだ。やらなければ、守れない。
わたしは、この極東の地を……ここに生きる人々を、助けたいから。




