【Side】一条 悟 3
家嗣が俺をにらみつけてくる。
その瞳に映るのは、俺……いや、一条家当主への憎悪。
自分が当主になれなかったという個人的な恨み。
……けれどどれだけ強く睨まれても、俺は目をそらすことはしない。
ここで逃げたら、こいつはレイの邪魔をしにいく。
俺のだいじなレイに、手を出させてなるものか。
「食らえ!」
家嗣は懐に手を入れて、何かを取り出し、それを地面に叩きつける。
ボフッ……!
「……煙幕か」
周囲に煙が立ち上る。真っ白な煙が俺の視界を埋め尽くし、周囲の様子をうかがえなくする。
なるほど……。家嗣の狙いがわかった。
やつは煙幕を使いまず視界を奪う。
視界が塞がれた状態で、敵の位置を割り出すためには、霊力を感知するしかない。(やつは驚くことに、音を立てずに移動してる)
しかし、家嗣は霊力を保有していないため、霊力感知がでできない。
……ザシュッ!
「くっ……!」
腕に鋭い痛みが走る。腕に、刃物で切りつけたような跡ができていた。
俺の足下にはナイフが落ちている。
煙幕で視界を塞ぎ、投げナイフで遠くから、こちらに攻撃してきたということらしい。
……向こうも煙幕で視界が悪いからか、狙いがあまり正確ではない。
だが、何本ものナイフが俺にとんできて、傷を作っていく。
このまま何もしなければ、失血死してしまう。対策を練らねば。
「【霊亀】!」
俺は霊亀の異能で周囲に結界を張る。
かきんっ、という音がする。結界がナイフを弾いたのだろう。
ザシュ……!
「ガッ……!」
俺の腹部にナイフが深々と刺さる。
結界でナイフを防いだはず……。いや、違う。
やつが直接ナイフで攻撃してきたんだ。
家嗣は霊力ゼロであるため、結界を素通りできる。
ナイフに意識を割かせて、直接俺を狙いに来たわけだ。
「読めたぜ悟……! おまえは結界を、内外で同時発動できないな!」
……バレている。
霊亀の結界は、体の外と内に張ることができる。
しかし、俺は器用じゃあないので、その両方を張ることができないのだ。
ナイフから身を守るために、外の結界を張ると、肉体の内側に結界が張れなくなる。
結果、やつは結界を素通りし、俺の体に傷を付けてこられるというわけだ(内側の結界でナイフからガードできないから)。
「【母上】!」
内側に結界を張り、肉体をガードする。
投げナイフ、直接攻撃、両方に対応できる。……だが。
「グッ……!」
やつは内側の結界を張った途端に、攻撃してこなくなった。
それどころか、わざと足音を立てて、俺の集中力をそいでくる。
フッ……と内側の結界が解けてしまう。
「おらあ……!」
ザシュッ……! と、俺の肩にナイフが刺さる。
「はは! なんだおまえ、真名を解放した状態を、長時間維持できないのか!」
……やつの言うとおりだ。俺は最近真名を使えるようになったばかり。
使い慣れていないため、内の結界はそんなに長く使えないのだ。
「ははっ! どうした坊ちゃん、さっきまでの威勢はどこへ行ったんだ!?」
やつは笑いながら、俺の体をナイフで切り刻んでくる。……ああ、そうか。こいつ、わざと急所を外してるんだ。
俺に長く、痛みと恐怖を味会わせようと……。
だがら、わざと一撃で急所を取ってこないのか。……陰険なやつだ。
だが……俺は恐怖に負けない。
なぜなら、俺にはレイがいるからだ。




