信濃の国
虫怪を、つぐみさんとタオさんの異能で打ち消すことに成功した。
「山の神を早く助けにいきましょう」
と、そのときだった。
「そいつは困るね」
「!?」
……いつの間にか、その人はいた。
サトル様に似た、黒い髪の男性に……私は見覚えがあった。
「家嗣……!!!!!!!!!!!!」
……サトル様のお父様。
一条 家嗣さまが、そこに居たのだ。
「お父様って言えよ、現当主さま」
ニマニマと笑いながら、家嗣さまがそう言う。
……私は彼を知ってる。
過去の世界で、私は彼と会った。
そして……一条家の因縁を、聞かされた。
守美さまを殺した張本人。それが、彼だと……。
母を殺されたサトル様にとっては、家嗣さまは、最大の敵。
それが目の前にいるのだ。
殺したくて、仕方ないのだろう。でも……彼は前に出ずに、私の側にきて、手を広げる。
「なんだ、存外冷静じゃあないか。いいんだぜ? お父様に切って掛かってきてもよ」
「……何が目的だ」
「何がって……?」
「あんたは一体何をしに、ここへ来た?」
……サトル様は警戒なさっている。
ひのわさんたちもだ。
「ま、しいていえば……足止め、かな。あれが暴れる間、おれはおまえらを止めなくちゃあいけない」
「あれ……?」
その瞬間、ずずぅうん……と。
何か、鈍い音が響き渡る。
ごごご……と地面が揺れ動き出す。
「!? サトル様……とてつもない、大きな邪気を感じます!」
「へえ、さすが嬢ちゃん。ここからでもわかるんだな」
……なんという、大きな邪気。
まるで、信濃を飲み込むほどだ……!
「山の神を妖魔に堕としたんだ」
「妖魔に墜とした、だと!?」
「ああ。今北信の寺にいるのは、山の神じゃあない。それが墜ちた妖魔だ」
「そんな……」
……山の神は妖魔墜ちしてしまったようだ。
理屈はわからない……けど。この大きな邪気の持ち主が、暴れたら、トンデモナイ事態になる。
「あれをしばらく暴れさせるために、俺は今からちょいと、おまえらを足止めさせてもらうぜ」
家嗣さまは、両手に何も持っていない。
けれど……私たちは、知ってる。過去の世界で、彼の……強さを。
彼は、霊力ゼロの人間だ。それゆえに、超人的な力を持つ。
侮っていい相手ではない。
「ひのわ、真紅郎、レイを連れて山の神の元へ行け」
「…………!」
……サトル様がお二人を見て言う。
お一人で、家継様を相手にするの……?
どうして……?
はっ……! と私は、彼の目を見て理解する。
彼は……私に、暴走する山の神を止めて欲しいんだ。
いや、止められるのが、私だけしかいないと、思ってるんだ。
信じているんだ。私なら……できるって。
「いきましょう!」
「でも……」
ひのわさんはここへ残りたいのが伝わってくる。愛する人を心配する気持ちは理解できる。でも……。
「今は、アレを片付けるのが先決です。いきましょう!」
ひのわさんは私がそういうと、うなずいてくれた。
……サトル様、ご武運を!




