信濃の国
霊力マーキングした、自動車を、饕餮の異能で呼びだした。
そして、皆さんで車に乗って、北上する。
「結構……道ががったがたね……」
信濃の道路は、東都のように、舗装されていない。
土がまるだしで、車が道路のうえを走る都度、ガタガタと揺れるのだ。
「うぇっぷ……気持ち悪い……どうにかならないかしら」
「それなら俺に任せろ! 【母上】!」
サトル様がご自身の異能を発動させる。
種族名、ではない、真名の使用だ。
一瞬にして、ガタガタとした振動が消える。
「凄く静かになったわね」
「ふふん、これぞ俺が修業して、新しく手に入れた力だ」
妖魔は、種族名を言うよりも、真名を使ったほうが、より高度な異能を発動させられる。
幸子ちゃんの超幸運が、運命操作になるように。
霊亀の結界が、母上……つまり、守美さんという真名を解放することで、進化したのだろう。
「どーゆー理屈なの?」
「母上の力を使うと、外ではなく、内に結界を張れるようになるのだ」
「はあ……? なによそれ。意味わかんないですけど」
ひのわさんは結界術を使えないので、言ってる意味が理解できないのだろう。
私は……なんとなく理解できた。
「結界は、服のように、対象に着せる(覆い隠す)。一方で、強化結界は、対象の内側に張るようなイメージなのだと思います」
恐らく、この車の内側を覆うように、サトル様は結界を張ったのだろう。
そうすれば、外から車の中に、伝わるはずだった振動を、キャンセルできる……。
「ふふ、れいたんはやっぱり凄いな。一発で全てを見抜いてしまう。俺のれいたんへの溢れんばかりの愛も、きっと容易く見抜かれてしまうんだろうな」
「ふふふ♡ そんなの、見ようとしなくても、伝わってきますよ♡」
「ふふふ♡」
「うふふ♡」
ほわん、と暖かな感情が私の中に広がっていく。
サトル様の愛が、伝わってくるのだ。
ああ、好きだなぁ……。
「あんたらわかってんの? 敵陣ど真ん中なのよ」
ひのわさんが窓を開ける。
運転席に座ってる真紅郎さんも、目を細めた。
「わかっているさ。盛大にお出迎えしてくれるようだぞ」
空が、黒く染まっていく。
よく見ると、やはり小さな妖魔の群れだった。
しかも1匹1匹が、かなりの霊力を持つ……妖魔である。
「雑魚妖魔が、強化されてるわ。レイ、あれも虫怪や魚妖と同じよ」
「大丈夫です。わかってます」
妖魔にも、説得が通じる相手と、そう出ない相手が居る。
こちらが説得を試みている間に、殺されては元も子もない。
「戦いましょう」




